Fishing pleasure-18

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18+18=36

ごくごく私的な数値。彼とはお互いに連絡も、噂も、さほど気にもかけない。男同士ナイナイ尽くしの合計時間。

高校卒業の18歳、それからもう18年の経過。

聞いてみたところ否定されたけれど、ずっと同じクラスで関わった3年間、釣りの話なんてした記憶がない。当時の私はバンドに夢中で、ギターを抱える時間のことばかりがその全てだった。

それからの無に近い乾いた間柄は「椎葉村に釣りに行く」。そうAngler Saito氏から聞いたことで、沈黙から唇を湿らせていくことになる。

ダム湖

「椎葉村って知ってる?」

「九州って山女魚いるんだよね?」

・・・私は数年前まで生粋の宮崎県民であったため、おなじみの松本大兄と共に上椎葉ダムにランドロックサクラマスを狙ったこともあるし、大兄もTailSwingで記事にしている。はじめは意味がよく理解できなかったが、聞けば、MarkSpiderのオーダーでCASKETスタッフである椎葉さんとやりとりしていたところ、互いのホームで釣りをし、交流を深める企画があると知ったようだ。とはいえ釣り場の情報はとてもデリケートな扱いになる、ましてやCASKETスタッフともなればさらにその難しさは増すだろう。

そんな中でも人と人の関わりを重視し、関東と九州といういわば互いのホームを共有しても問題ない距離を保ちながら、その良さを体感しあう。ロッドオーダーのために重ねた本音の対話は、釣りはもとよりその人間性も知ることになり、企画にも感銘を受けた氏は参加を考えたようだった。

椎葉さん、か・・・。

早口言葉のようだが、上椎葉ダムのある椎葉村には椎葉という名字が多いということも知っている。しかし、誰がSaito氏を案内するのだろうと気にかかり、CASKETのブログからその痕跡を探していた。

シゲと呼ばれているのか・・・もしかして・・・いや・・・しかし、まだ繋がらない。あいつは釣りなんてしなかったはずだ。いや、社会人になってからかもしれない。どちらにせよ高校時代を何度か振り向きつつ、過ぎた年月と一緒に眺めて想像した”あいつ”であれば、トラウトがよく似合う男だろうと考え至るしかなかった。

トラウトアングラー

頃合いよくショップに足を運ぶという大兄にぶっきらぼうなメッセージをしたためる、もしかすると、同級生かもしれない。と。

その数日後にスマートフォンをにぶく光らせ流れてくる答えには、そうである。と。

薄々予想したことは正解だったが、嬉しさより単純な驚きに頭はハテナマークの花畑で浮いていた。

トンネル内

5月14日、慣れない都心部の運転に四苦八苦しながら、彼を迎えに行く。

Saito氏が待っていると思っている”彼”へのささやかなサプライズ、18年ぶりの対面演出は氏のもてなしの序章。なぜ?の顔をした彼と釣り道具は得意気な男によって車内に押し込まれ、目的地へと運ばれるのだ。

実に不可思議な気分、必然の大車輪か偶然かはそれぞれの主義に譲るとして、18年間何の足跡も、互いにホコリすら残さなかった者同士がトラウトを通じてこうして再会している。昔話は全くといっていいほど出ない、釣りの話ができるのだから。

代官山にある氏のアトリエ近くに停車し、案内のまま腰掛けてしばしの談笑となる。心地よい空間には氏のもうひとつの趣味であるインテリアの数々が嫌味なく解け合いながらの主張を奏でている。聞けば世界中から集められた調度品とのこと、またひとつの表現。これも機会を見てご紹介したい。

さらりと運ばれてくる濃縮された旨味しか匂わせない酸味爽やかなスープ、ほどよく溶けゆく甘みのパン、ふくよかに香る珈琲に安堵とゆとりが生まれる、その中で話は今日の釣りと、それを取り巻く各人の景色となる。

渓流

彼、椎葉さん(さんと付けるのも若干の抵抗があるが)は関東のフィールドに来ることは初らしい。ゆるやかなストレッチの時間を過ごしたのち、向かったのは桂川。今更なにも言うことはないほどメジャーで都心からのアクセスもよい、踏み跡だらけのすれっからしフィールドだ。

ましてや今日は日曜日、前日も多くの人が歓喜と、絶望の愉しみをその流れから味わっていったことだろうと想像する。

数日間の釣り旅の中でこんな場所があることも、個人的には体験してもらえるのことが嬉しかった。私がそうであったように、九州では決して味わうことのできない何かを、この桂川で感じることになるはずだ。

Angler Saito Ambassador MarkSpider

いつ、どの釣り場に立っても、立つ前に想像を膨張させている時も、その前のただそこに川があることを知る時ですら、病的ともいえる愉悦を覚えてしまう。

取り巻く全てが、ただ、ひたすらに愉しい要素として、そこに居るであろう魚を通じて存在してくれる。

我々は魚というフィルターを通して、その土地の歴史を、住む人達を、道具を、自身のスタイルを深めていくし、釣りという”それ”が介在しなければこんなにも愉しく学ぶことはできないのだろう。

桂川 山女魚 Ambassador

正味3時間、短い時はしかし、太い結果に満たされる。

桂川 山女魚 Ambassador

MarkSpider Conclusion CASKET

それまでスピニングしか使ってこなかったという彼がしつらえてきたMarkSpiderとAmbassadorの組合せは、氏も私も声を揃えて賛辞を惜しまないほどの輝きを放っていた。

あくまで個人的な意見ではあるが、彼が渓魚と戯れる最大公約数的な美意識の発露ではないかと思う。すっかりしてやられた、あのCASKETという環境であることも大いに影響しているのだろうと感じる。

山女魚 リリース

魚だけ見ては、イージーな川と勘違いされるかもしれないが、前に書いたようにドがつくほどのハイプレッシャーである。だが結果はご覧の通りだ。

この結果の何故?については氏のもてなし、本論であるガイド役の徹底にその解答がある。

MarkSpider Ambassador Anglo&Company ParagonG

今回3名が使用するのは渓流をメインとしたベイトタックルであるため、投げて獲るまでに無理のないような渓流相の本流をピックアップ、こう書けば簡単だが、場所を決めるためには全流域を知っていることが前提だ。さらにそこをガイド直前に実釣している。

ミノー

ただし、実釣するのだが針は全て丸められているため、キャッチするためのものではなく、反応するアクションと魚の位置を確認するだけだ。

その流程は驚くほど長い、歩くだけでもとても保たない。現に12時間使ったが、全ては探りきれなかったと話を聞いている。もちろんリスクを含めてのポイントを得ていたから、それ以上探りきらなくてもよかったということなのだが・・・。

CASKET シゲ Angler Saito

ここまでで、さらなる何故?が頭をかすめることだろう。どうして、そんなにまで徹底するのか?だ。

通常一般であれば自身の知っているポイントに連れていき、自身のパターンを解説する程度のものであって、それだけでも十分ガイドになるし感謝される。いくらもてなすゲストだろうがちょっと考えられない徹底ぶりに疑問を感じるほうが普通だろう。

もちろん氏が使えるリソースが一般の釣り人と違うということもあるが、それはあくまで1要素に過ぎない。私もそうだけれどあなただって、誰かのガイドをする時に、いくら時間や体力があったとしても、それだけの徹底はできないし、やらないのではないだろうか。ましてや、プロガイドとしてお金をもらうわけでもないのに。

CASKET シゲ トラウト

当日、氏はほとんど竿を振っていない。正確に言うなら、私と彼に教えて投げてみたがバイトが得られなかったポイントで

「あれ、ここには必ずいるはずだけどな・・・」

そう言うと、同じポイントへ投げて1キャッチしただけで、残り時間は竿を置いてガイドに徹していた。

Angler Saito 山女魚 トラウト ベイト

その上で彼は慣れないベイトタックル、さらに右巻きで左手のロッド操作にも慣れておらず、私といえばスプーンしか投げない偏屈者、これでガイドとしての結果を出すのだ。

桂川 山女魚

ひとつ.人が入っていないポイントは無いハイプレッシャーフィールド。

ひとつ.日曜日の午後から、当然先行者が投げている。

ひとつ.タックル操作に慣れていない&使用ルアーに縛りがある人。

ガイドをやってくれと言われたなら、目眩がしそうな条件ではないだろうか。私ならあっさり断るだろう。こんな条件下で誰もが、とまではいかないだろうが、ヒントになるようなヒットがあったので書いておきたい。

FILSON トラウト

先行は彼、ミノーを使い説明された立ち位置からその場所へ流し込む。ダウンクロスで数投、うまく流れに乗せ、完璧な場所でそのハッスルトラッドが揺れ、チェイス。だが、ヒットには届かない。

その後に、私が彼と違う立ち位置を指定されてスプーンを流し込む、それまでの一連の釣りを見ていたので場所は理解しているが、一発では入らず数投しなくてはならなかった。また流れに乗せ、いよいよ”そこ”にスプーンは到達する。

ヒット!間違いない先程の魚だ。バイトから感じる重みにこれはもらった!と思ったのが悪かったのか、激しくローリングする姿を我々に魅せてくれたすぐに、フックオフ。声を上げ、天を仰ぐ・・・。

彼と私、互いに数投しているにも関わらず魚は反応してくれた。これは狙った場所が本当に”点”だからだ、その点に通らなかったルアーには反応していない。ハイプレッシャーでスレ切っていても、口を使う魚が残っていることの証明であるし、ミスして何度投げたとしても、その点を通すことができればチャンスは十分にあるということになる。さらにミノーからスプーンへのフォローで同じ場所からチェイス→ヒットまで持ち込めている。

上に書いている一連の動作で、必ず指定されたのが立ち位置である。その点に通すために、どこから投げて、どの流れに乗せ、どの軌道をたどらせるか、ラインとルアー、流れの強弱などからベストな位置が存在するのだ。

氏はよく「そこに入れて」や「今入った」とアドバイスしてくれる、これは狙った流れに乗せる前後に使うのだが、その流れがないと点にまでたどり着けない。

どの条件下においても、反応する魚が居る”点”そして、点に到達するための”流れ”を状況に合わせて読む。この質の高さこそ氏の真骨頂で得意とするパターン、私のような人間でも事実としてヒットさせる要素となっている。

Ambassador 山女魚

場所は3箇所を巡った、そして15ほどのアタックと4本のキャッチが3時間の結果となる。撮影を考えると実釣の時間は僅かだ。

穫れるか、獲れないかは運や腕もその大きな要因になるため、バイトが得られる(反応する魚がいる)、その数こそがガイドとして重要であろう。ポイント、トレースコース、アクション、説明はするけれど他人にやらせてこの時間でこの数は尋常ではないが、これは上に書いた徹底と質がもたらす必然なのだ。

CASKET シゲ トラウト Angler Saito

遅くなってしまったが、何故?に解答しておこう。これほどの徹底を支える根幹は

「キャッチしてもらうことが嬉しいから、そのために自分にできることを全力でやるだけ」

それだけだった。

その人の、完成した景色を喜ぶ顔、それを見ることが、喜んでもらうことが、氏自身が大好きなその時が他人に訪れることがこの上なく幸せであり、文字通り”可能な限り”それを実現するために行動するから。なのだ。

それだけの愉しさ、魅力、価値を確信している遊びであり、氏が人に相対する信念、流儀がそうさせているのだと感じさせられ、ひとつひとつの理由を聞くたびに只々脱帽するばかりであった。

山女魚 撮影

CASKET シゲ Angler Saito

職業、年齢、その他一切何も関係なく、その1枚の景色のために一緒になって考え、濡れ、はいつくばり、砂に足を取られ、手を伸ばしたり、妙な姿勢も気にすることなく、ただ夢中のままに没頭する。

うまくいかないことのほうが多い、失敗や辛酸はつきもの。だからこそ、じわり、と心に響くその景色が得られたなら、生涯の1ページになってくれるのだと思うし、求めて歩くこともできる。

渓流鍋 銀座やまと

もてなしの初日もいよいよ終章に近づく、明日は彼のホームと言える伊豆をガイドするようだ。

納竿後のアフターフィッシングは渓流鍋。釣り人が集まるというだけでも愉しいものなのに、渓流の傍で鍋と聞けば、その響きだけでどれだけ旨く感じてしまうだろうか。

取り出されたのはル・クルーゼの鋳物、普通の鍋でも十分に満足できるのに、よりその美味しさを高めることにまで手を抜かないのがいかにも氏らしい拘りだ。注がれるのも銀座やまとの薬膳スープ、そしてやまと豚。

買い出しした野菜と茸を豪快に、ざっくりと切る横では、スープから風の気まぐれに鼻孔を貫く粒子が、間違いない味を約束しては去っていく。まだ、火をかけてない段階でこれはヤバイ。

スープに野菜を、隙間に茸、やまと豚が豪快に上に盛られ、さらに野菜で蓋を・・・

スウェーデン 食器

Ambassador

器は特別なSWEDEN製、これもまた釣りが通じさせてくれる国の縁。手元を彩る演出にも幸せは膨らむばかり。

調整されつつ立ち上がる熱量が、その鋳物にひしめく汁と具を変幻、調和させながら香りをこれでもかと炸裂させていく。もうすでに待ちきれない気持ちを会話で無理矢理に押さえつつ、注がれたスープから・・・。

味は想像にお任せしたい、この環境で食べれば何でも旨くなるのに、乗算されて押し寄せる味の波々は兎に角格別であったとだけ、お伝えする。なんとか機会を作って実行していただきたいと思う。

今回は東京、関東ということを意識した食材だが、土地が変われば食材も変わる、その土地のものを集まって水辺で食す。これもまた至上の贅沢で、この余裕ある遊びの醍醐味とはならないだろうか。

水面 反射 日光

感謝と別れ、後ろ髪引かれるのはいつものこと。

帰りの車内は音楽でなく窓を下げて自然の音を、振り返る今日と明日からまた彼が続ける旅の実りを祈念する時間。

空白だった沈黙は寡黙な雄弁に変わり、その18年は埋める必要なく、未来と期待ばかりであったことが何よりも嬉しかった。

 

また、一緒にこの遊びをしよう。

トラウトアングラー

と、ここで終わるはずだったのだが。この原稿を見せた氏からの返信を私なりにまとめて記載したい。

まずは18日に送られてきた画像から。

伊豆 天魚

これは氏がホームとして親しんでいる伊豆は狩野川での一尾。狩野川は5月19日をもって各支流と本流の一部を残し天魚は禁漁となる。残り1日だが氏は友人をガイドするため今季、この場所での最後の天魚だ。

狩野川 天魚

使用したハッスルトラッドは”彼”椎葉さんの私物から今回の謝意もあって、プレゼントされたものらしい。プライベートでのホーム最終日となる18日は彼にまた氏も感謝し、これだけを投げていたとのこと。

もちろん良いサイズに惚れ惚れするような鰭なのだが、メジャーを当ててセンチを測るような魚ではない。前季までの数とサイズを追う氏のスタイルはその質の土台となり、今はもう消えている。私は氏がこの魚を超えるようなサイズを今季何尾もその手にしていることを知っている。

だが、本当に価値を感じさせてくれる一尾。

伊豆 天魚

私と氏がはじめて共に釣行した場所である狩野川、彼を2日目に氏が案内したのも狩野川。このまま関わるはずもない私と彼が、18年の時を経て再会するきっかけとなった氏の行動はトラウトフィッシングに導かれ、各人の奇妙で幸福な因果がまじわり、ほどけて巡った先に、両者の想いが乗ったミノーが連れてきたホーム最後の一尾が、何かを暗示するかのような崇高で特別なものとなって心を震わせてくれた。

3名それぞれの想い、人と人が関わり合うことの純粋な部分だけを凝縮したようなこの一尾に感謝して、キーボードから手を離す。

 

いよいよ氏が全国のトラウトに出会う旅がはじまる。

このTailSwingでも可能な限りその熱量、機微をお伝えしてくつもりだ、ご期待いただきたい。

 

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藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

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