Run for Cover(原種を求めてvol.2)

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大学生になり、初めて親元を離れて関東で暮らすことになった。

元々、早く一人暮らしをしたかった自分にとって、このことは羽根が生えたような昂揚で、限りない自由を手に入れたのと同じだった。

そして、入部したバンドサークルに廣田さんという先輩がいた。

彼はベースをやっていたのだが、その頃の自分にとってはプロミュージシャンになってもおかしくないように思われる程の腕前で、身長が高くてスタイルもよく、頭脳明晰で、しかも万事に対して辛口かつ的確な批評家だった。

田舎から出てきたばかりのハナタレ小僧にとって彼は一時期、都会の象徴のような憧れの存在で、かなりの時間一緒に酒を呑んだり、語り合ったり、一緒に演奏させてもらったりもした。元々どこか人嫌いで偏屈なところがある自分は、あまり先輩と呼べるような人はいなかったし、今もいない。またそれで一向に構わない。

昔の友人に会いたいなどと思うこともほとんどないのだけど、廣田さんは珍しくたまに会いたくなる人だ。どこで何をなさっているか全く分からないのだけど。

<Youtube ”Run for Cover”>

大学に入った当時教えてもらったのがこの動画だった。まだインターネットもDVDもない時代、VHSビデオを何回も巻き戻して見た記憶がある。あえてモノクロームで作られてて、その頃の国内のバンドと比べてそのサウンドはシンプルで、シックかつクールで、それでいてロックの香りもした。

今でもたまにYoutubeで見ると、あの頃の薫りと記憶が鮮明に蘇ってくる。

渓流 スプーン 原種

ところでこの”Run for Cover”という英語、日本語に訳すと、「安全な場所を目指して走る。」というくらいが近いらしい。多分、”Cover”は釣り用語の「カバー」にほとんど近いのだろう。

渓流 アングラー ウェットウェーディング

話しをトラウトに戻そう。

サクラマス(ヤマメ)、サツキマス(アマゴ)、そしてサラマオマス(台湾マス)たちは氷河期(氷期)に陸上の水(氷)が多くなり、海水面が下がって海と陸地が遠くなるとといわゆる陸封の状態になり、氷河期が終わり温暖な時期(間氷期)に陸上の氷が溶けて海水面が上がると、海へ下って命を広めていった。

そして、太古の血脈を繋ぐトラウトたちは陸封された山深くでひっそりと世代交代を繰り返す。

色々調べると、諸説あるようだが、約2万年前の氷河期がその最後のターニングポイントにあたるらしい。

それから現代になり、ヤマメ釣りを愛好するアングラーたちが現れ、魚を絶やさないようにと放流を始める。もちろん悪気あってのことではなかったのだろうが、結果としてその土地に太古から根ざすヤマメたちと放流魚のDNAの区別を曖昧にする結果に繋がった。

ヤマメ 原種 スプーン

宮崎県にはまだ「原種」と呼べるヤマメが生息する場所がたくさんあるらしい。

ひょんなことから宮崎大学の岩槻教授と知り合って、色んなことを教えてもらっている。教授は全国各地のヤマメのサンプルを多く収集していて、それぞれのDNAを分析し、その遺伝子パターンを分類することで全国に生息するヤマメの遺伝子マップを作ろうとしている。

何回か話しを聞かせてもらったのだが、ヤマメのヒレの一部などの中にあるミトコンドリアのとある領域からDNAを取り出して研究を行っているとのこと。

多分とても丁寧に説明してくれているのだろうけど、Cytochrome bとか、プライマーとか、PCAとか、聞いたこともないような単語が普通に会話の中に出てくる。

「あー、こんな言葉を使って人に話しが出来たら頭良さそうに見えるなあ。」

なんてくだらないことを考えるのだが、理解はちっとも進まない。

渓流 滝

ただ、現状教授が研究を進めていらっしゃる要点をかなり大まかにまとめると以下の2点になる。

1 全国に分布するヤマメを遺伝子タイプで分類すると10種類未満である。

2 その内、半数近くが九州、特に宮崎県に集中している。

ちなみに、教授はDNAのタイプを見て、放流魚である場合はその原産地まで分かることがあるらしい。

ヤマメ 水中 スプーン

教授がパソコンで全国地図を見せてくれる。いたるところに赤い点が打ってある。それはサンプルを採取した河川とその流域の地図だった。地図を拡大して、宮崎県の状況を見せてもらう。さすがにメジャーな河川にはびっしりと赤い点がある。

しかし、ふととあるエリアが目に留まった。

「教授、この○○川は?」

「あー、その川のサンプルはないですねえ。」

ちょっと予感がした。この川なら何かあるかもしれない。

スプーン ParagonG ミッチェル

当たり前だけど、原種がその血統を繋ぐために大事なのは、人為的な放流がないということだ。むやみな乱獲ももちろんそうだ。野生動物の最大の敵は人間なのだ。

人の手がほとんど入っていないであろう場所。そこを目指すことにした。

ヤマメ 原種

見た目のキーワードもある。

まずは、アマゴの放流実績の無い河川で、アマゴのような朱点ではなく、すり傷のような微妙にボケた、あるいは小さな朱赤点を持つ個体は原種ヤマメの可能性があるらしい。

ヤマメ 原種 スプーン

また、楕円形ではなく、丸いパーマークも一つの指標とのこと。

パーマーク ヤマメ 原種

この川に数回通っているが、さすがに放流がないのでヤマメは多くない。
ただし、ここぞというポイントでは普段あまり見ることがない模様をかなりの頻度で見ることができる。

自分にはそれが何を意味するのかは分からない。

ただ、教授に色々な写真を見せてもらう中で、少しは目が肥えてきたような気はしている。

ヤマメ パーマーク パラゴンG

苦労をしてたどり着いたエリアで、釣れてくれた1匹1匹のヤマメたちをまじまじと見つめ、申し訳ない気持ちで少しだけサンプルをもらって、また元の流れに戻す。どこかリリースした彼らに親近感を覚える。

”Cover”とは「安心できる場所」だ。

数万年前からひっそりと、しかし脈々とその命を繋いできたかもしれないヤマメたち。それまで数々訪れた危機に対して新たなCoverを求めて上流へ、上流へと走ってきたに違いない。

また、どこか心に傷を抱えたアングラーにとっては、そんな彼らに会うために深山へ分け入ることこそが自分の心をカバーするための行為なのだ。

そこが、どこか安心できる場所だから。

Youtubeを見ながら、もう戻ることはない遠い青春時代と太古から命を繋いできたヤマメたちの営みをオーバーラップさせながら、少しの時間感興に浸った。

ヤマメ パラゴンG スプーン

サンプルを何度か大学に持っていって、しばらく時間が経ったある日、教授からふいにメールがあった。

「○○川の結果が出ました。九州タイプの中でも新しい遺伝タイプでした。ちょっと驚きです。 岩槻」

ぶっきらぼうな短文に驚きと喜びを感じつつ、まるで昔のアルバムが押し入れの奥から突然見つかったような気持ちになった。

 

・・・・・・・

ヤマメ、イワナのDNAサンプル採取の協力をお願いしています。

詳細はこちら「原種を求めてvol.1 (九州在来イワナ・朱点ヤマメのサンプル採取協力について)

 

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松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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