フラッシュバック

 

人によって方法はそれぞれだろうが、釣行のコラムを書く際にはその時撮りためた画像をいくつかピックアップして眺めながら書くことにしている。

そうなる以前はとりあえず書き終わってから、合間を埋めるように写真を選んでいたのだけれど、選んでいるうちに「あの時こんなことを考えていたな」とか「これは書き足さなければ」などと思いが巡ってきて、完成が遅くなってしまうことがほとんどだった。

これではいつまでたっても書き終わらないし文章も無駄に長い。
そんなわけで半ば無理やり写真を決めて、それから書くことを続けている。

なぜだかは説明はつかないけれど、必死になってファインダー越しに格好よく魚や風景を切り取ろうと無我夢中にシャッターを押すのだが、いざ撮った写真を見ると、そんな思いはどこかへ飛んでしまって、前後を含めた感情や感覚、周囲の様子などが鮮明に浮かんできてしまう。これがスマホの写真では思い出せないのが不思議だ。いわゆる”カメラ”(と自分が認識しているもの)で撮ったものだけにこの感覚が現れ、今その場にいるかのように蘇る。

そして、いつの間にかその瞬間を再度体験し、噛みしめるために自分は撮っているのではないか?と考えるようになった。

太陽が昇りかけ、いよいよと湖面を照らす美しさ。逆に夜との境に見せる海辺での鮮烈な色彩。水面を叩く尾鰭にきらり、ゆらりと翻すその魚体。ざわめく木々の葉の下にある繊細な水の音。休憩しようと置いたタックルから延びる直線と交わるガイドの輪郭。木目への溜息とくゆる煙草の煙。仲間の笑顔。音信の途絶えた糸から伝わる表情。ハンドルと期待を握る手にミラーから流れ過ぎていく道々。暑さと熱さにうだるような堤防。滲みる寒雨に耐えてノブに添える指先。心揺さぶるボイルとミスキャストの苦笑い。

確実に目に入っているし体験しているが、ひとつひとつを咀嚼していたのでは一日なにもできない。だけど、とても大切な瞬間の連続。

その時、自分が感じた何か。

そんな些細で満ちた破片を拾っては、頭の引出しに整理することができる。そう無意識に気付いていたのかもしれない。

正直、釣ることより同行者の写真を撮ることが愉しみな釣行もある、かといって高級な一眼レフの購入になると清水の舞台から飛べずにいるのだが・・・。

クリスマスイブを家族とのんびり過ごした次日、移転したAnglo&companyの店舗を見に行く電車の中でそんなことをつらつらと考えていた。

 

最寄駅から降りて、歩くこと数分

”!”

入口、トラウトフィッシングを少しでも思考した人なら、店を知らなくても反応してしまうだろうそのディスプレイに、思わずにやりとしてしまう。

ビルの三階に上がる白い階段の踊り場も、ご覧のとおり。これほど苦にならない昇り階段も珍しい。
もう言葉はいらないでしょう?

選び抜かれたであろう暖かい光源とゆるやかで真剣な空気感が、道具を、気分を一層高めてくれる。

ひとしきり眺めて撮影も落ち着くと、見覚えのある服装でアングラーが現れた。

この人って・・・、考えてみるとフェイスブックで友人になっている方だった。ロッドについて矢継ぎ早に質問を投げている。

タイミングを見て、話かけてみる。
これも不思議な「はじめまして」

釣りの話題は当然ながら、スタイルや紐付く信念、SNSや業界、仕事の話など、これだけオープンに話してもらえるのも趣味嗜好を同じくしているからだと感じられた。つくづく自分は幸せ者だ。

それほど長居しようとも考えていなかったけれど、愉しい会話に終わりもない。
立ち話からいつの間にか中央のテーブルを囲み、椅子に腰掛けて語らっていた。

店主曰く、まだまだ店内は整っておらず、途中なのだそうだ。

今以上になるのかと思うだけで、期待せざるを得ない。

気が付けば閉店間際だ、まずいことにスマホを覗くと家族から返事を催促するメッセージ。
しかし、いいのだ。 これで。

「すまん」 この台詞が明るく言えてしまうほど、晴れ晴れとした気分だった。
心地よい空間と時間に、とっぷり満たされてしまったようだ。

案内してもらった屋上からの景色、この写真を見たなら、フラッシュバックして思い出すだろう。

貴重で幸せな破片とその時感じた何かを。

Anglo&company:http://www.anglo.jp/

藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

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