CASKET

 

CASKET 手島 TailSwing 松本とにかく楽しかったのだ。
自分自身が不安になるくらい楽しかった。
楽しくない釣りなんて、あんまりないのだけれど、こんなことはもっとない。

もちろん、全国的な有名ショップのオーナーで最前線のアングラーなのだから、釣りに対する造詣は人一倍だった。

ちょっとした数釣りに夢中になっているのを見られて、
「釣りの4段階って知ってますか?」
と少し意地悪な視線をサングラスの奥からこっちに送ってきた。

「あ、いや、知らないですね。」
と返すと、

「第一段階は、数のみを喜ぶ少年時代。第二段階は、大きさのみを誇る青年時代。第三段階は、釣り方にこだわる中年時代。そして、第四段階は、他の人に釣らせて喜ぶ老年時代。」

「へええ、知りませんでしたよ。」

すると、ニヤニヤしながら言う。
「松本さんはもう中年から老年時代にさしかかっているかと思っていましたけど、さっきのガツガツしている様子を見てとても安心しました。大丈夫です。まだまだ少年の心をお持ちですよ。」

何ともウィットに富んだあっぱれなセリフに、むしろ清々しい気持ちになって大口を開けて笑い転げた。

御池 トラウト アングラー 九州 CASKETこんなシーンもあった。
いつものように沈黙を続ける湖で、2人で会話している最中、彼自身がプロデュースしたジャックガウディというトラウト用ジグにまるで猫がじゃれつくように、60㎝はあろうかというレインボーがまとわりついてきた。岸からほんの5mのところまで。

ボーっとしたチェイスではなかった。後5cmでフックアップするところだった。

「手島さん、あれは目が合ったから喰わなかったんですよ。殺気を消さないとダメなんです。あいつらはそれが分かるんですよ。話し続けていれば良かった。そうすれば多分喰ってた。」

するとまたサングラスの奥が光り、こう返してきた。
「それは、松本さんがもっと私を惹きつけるような面白い話しをしてくれていたら良かった、ということですね。」

こんな風にピンポン玉が跳ね回るような楽しい会話をした。ターゲットは釣れなかったけど、十分満足だった。集合写真では柄にもないポーズを取らされたが、彼の言うことなら気にならなかった。

だけれども、どうにも腑に落ちなかった。何なんだ、この男は。後で不愉快になるほど楽しいなんて、この年になって、おかしいじゃないか。

何だか手玉に取られたような気がしてきた。少しイライラしてきた。
もう一度、正体を確かめたくなった。

山女魚 革 ワッペン

あれから幾日かが過ぎた解禁直前のとある日、訪ねた。
昼過ぎに降り立ったJR春日駅は思ったよりずっと寒くて、身震いがした。

CASKET 釣り トラウトショップの外壁に小さな小さな銘盤がある。
おそらく、間違いなく、国内有数のトラウトショップだ。

CASKET 店内 トラウトこの店舗に移転してから3度目だろうか。小洒落たカフェのようでいて、知る人ぞ知るコアなギアがここそこに並ぶ店内はいつ来てもうずいてくる。

スタッフの古和さんと出会い、2人で煙草を一服し、勧められるままに店内にあるカリモク60に腰かけた。

CASKET 店内 トラウトCASKET 店内 トラウト ロッド話しながら、ウォーミングアップ代わりにシャッターを切る。アンティークなチェストの中にはアブやバッハスペシャル、ベーテといった往年の名作スプーンが丁寧に並べられ、入り口近くのロッドスタンドには自社のロッドが誇らしげに立て掛けてある。
CASKET トラウト ベイト 2500c ロッドそして、こちらが一息ついたのを見計らったように、目の前にテーブルに、コトリ、と一組の渓流用とおぼしきベイトタックルが運ばれてきた。

”ふーん。アンバサダーか。”

巷で流行っているベイトフィネスとやらには、ほとんど興味がなかった。ただ、アンバサダーはやはり格好いい。100年物のデザインだ。

説明を聞くとはなしに聞いていると、外出先からあの男が戻ってきた。おそらくはとても忙しい中だったのだろう、目をしぱしぱさせながら手短なあいさつを交わして、ふと古和さんに言う。

「キャスティングしていただいたの?」

「いえ、まだです。」

「してもらいなさいよ。松本さん、ちょっと来てください。」

相変わらずの軽妙かつスピーディーな語り口に心の中でほくそ笑みながら、連れられるままに店の外に出た。彼が2~3度手本を見せてくれる。ベイトタックルを持つのはとても久しぶりのことだった。

ただ、中学生の頃はシマノのバンタム100に12ポンドのストレーンを巻いて、名前もないような太くて重いグラスロッドで何百回もキャスト練習を繰り返した。調子のいいときは20メートル先の空き缶の中に入れることも出来た。

バックラッシュにさえ気を付ければ何とかなるだろう。
そう思いながらロッドを振った。

 

次の瞬間、官能が脊髄を貫く。なんだこれは。そう感じた。

 

最近のベイトリールが昔に比べてとてつもない進化を遂げていることは人づてに聞いていた。国産リールのみならず、アンバサダーをチューニングして使っているアングラーが多いことも雑誌やネットで見ていた。ただ、それでも興味は全く湧かなかった。

しかし、これは、魔性を秘めた快楽だ。

彼自身、「国内メーカーの最高峰ベイトリールに負けてないと思いますよ。」と言ったがおそらく間違いないだろう。いや、外側はあのアンバサダーなのだ。最高のベイトリールだと言ってもきっと差し支えないないだろう。

CASKET Mark Spider ベイトロッドロッドも手に吸い付き、その内に溶けていくようだった。
名前は”Mark Spider”という。ベイトリールに必要な粘り加減が絶妙だ。

キャスト前のタラシはなくていいと言う。投げてみると、本当だった。信じられなかった。ブランクの説明とか色々してくれたけど、あまり覚えていない。

多分いい加減な受け答えをしていたと思う。ひたすら、一投一投、そのシルキーさを撫でまわすようにキャストした。まだ全然昔の感覚は蘇らないが、タックルのポテンシャルは十分に堪能出来た。

少し時間は掛かるだろうが、きっとこのセットを使う日が来る。

そう直感するのに十分な時間だった。

CASKET ロッド カスタム 木目また、期間限定らしいが、ロッドのオーダーメイドも行っているらしい。

様々な輝きを魅せるウッドパーツもまたトラウティスト達を虜にする必要条件だ。

CASKET 店内 FILSONもう一つ、特筆すべきはウェア類の充実度だ。

自分自身、フィルソンのベストに始まり、シムスのG3、同じくシムスのベストとヒップパックに特注のキャップ、コーカーズのシューズ、そしてウェットウェーディング用のゲーターと、主要なウェアは全てCASKETで揃えている。

また、オリジナルのレインギアも試着してみたが、今持っているカナダの某有名メーカーが作るゴアテックス製のそれよりもはるかにソフトな着心地で、随所に細やかな気配りがしてあり、とても欲しくなった。

CASKET 店内 SIMMS自分がCASKETでこれらを揃えてきた理由の多くは、徹底的な顧客目線にある。

サイトには、美しく、分かり易い写真と解説、身長170㎝前後と標準的な日本人体型のスタッフが実際に着用している様子などがあり、とても参考になる。

CASKET 店内 SIMMSただでさえ高価な買い物。しかし、いいものは間違いなくいい。そうでないものを買ってもすぐに飽きたり、壊れたりして結局コストパフォーマンスはそれ程変わらないものだ。このハードルを消費者に超えさせるには、懇切丁寧な説明が必要不可欠だ。

とある友人にこのことを話すと、「アパレルの世界ではごくごく当たり前のことなんですけどね。」と言った。ただ、その当たり前のことが出来ているフィッシングショップは日本にはおそらくほとんどない。

CASKET 店内 イトウ気が付くと訪れて2時間半を過ぎていた。

「古和さんも仕事があるだろうに。」申し訳ない気持ちがしてくる。
そろそろ、と告げると、「手島を呼んできますね。」と言う。

CASKET 店内 眼鏡やがて店の奥から彼が出てきて、あいさつを交わす。

自分はあの時感じたものの正体を確かめようと、言葉とは別に彼の目の奥を探った。

CASKET ロッド彼も察したのかどうか分からないが、好奇心旺盛な目をしきりにぱちくりとさせながらこちらを見ている。

何故だか一瞬、チャップリンの喜劇を見ているようなとても楽しい気分になり、また次の一瞬、ピカソが描く人物画を見ているような不思議な気分になった。

結局、自分にはまだ分からなかった。また次、だ。

CASKET 店内 トラウト ブローチただ、間違いないのはスタッフの古和さんが言った、「お客様を楽しませる。」ということに対するプロ意識だろう。

ショップにいる間も決して飽きさせないようにもてなしてくれていることはその時ではなく、店を出てしばらく経ってから感じることが出来た。それ位徹底していた。

CASKET 店内 ロッドホルダー 木40代半ばにして、若いスタッフを数人抱えながら会社を経営していくことは決して楽なことではないだろう。

ただ、それでも、これから先の10年。20年。日本のトラウトルアーフィッシングを後輩たちに胸を張って伝えられる文化にするということ。憧れられるアングラーを多くプロデュースするということ。

CASKET 店内そのためにはきっと、彼のあの目が必要なのだ。

時代を嗅ぎ、品格あるものをえりすぐり、作り、発信し続けるために。

ノブレス・オブリージュ別れ際、”釣りの4段階”の意趣返しをくれてやった。わざと早口で聞き取りづらいようにして。

「手島さん、ノブレスオブリージュって知ってます?」

「え?何ですかそれ?」

「そうですか、ご存じないですか。じゃ、また!」

「え、ちょ、意味教えてくださいよ。」

”Noblesse Oblige(位 高ければ、努め多し)”
自分なりのエールだった。

気が付くと、来るときあれ程寒かった駅は春の日ざしに包まれて、とても暖かかった。

もう解禁は目の前、今年はどんな渓魚に会えるだろう。

 

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CASKET
HP http://www.club-casket.com/

 

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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