PILGRIMAGE

 

若い頃から音楽が大好きだった。小さい頃からジャズやフュージョンばっかり聴いてて、中学校から高校の間は毎年、真夏の、野外の、しかもオールナイトのジャズイベントを最前列で見るために炎天下の中、少ない小遣いを手に握りしめながらイベント当日朝から行列に並んでいたものだ。

ついでに、学生時代から数年前まで楽器をやっていた。サックスだった。
バンドなんかもやっていたけれど、最後の数年は月1~2回、ジャズのジャムセッションに行く程度だった。

数年前、本当にぼんやりと「しばらくは吹かなくてもいいかな。」と思い、20代半ばに清水の舞台から飛び降りるつもりで、男の5年ローンで、購入した1980年代製のアメリカンセルマー・マークⅥというジャズの世界では名だたるヴィンテージのテナーサックスを今はプロミュージシャンの弟に預けてある。

そんな感じで、当時は魚釣りよりもはるかに金と、時間と、エネルギーを注いでいたから、好きだったミュージシャンのことは今でもよく覚えている。

JAZZ ジャイアント 巨人

中でも、思い出深い1人にマイケル・ブレッカー(以下、「マイケル」)という人がいた。
自分ごときが語るのはとてもとてもおこがましいのだけれど、ジャズではよく、偉大なミュージシャンのことを「ジャイアント(巨人)」と呼ぶ。
マイケルは聴く人で好き嫌いはあるだろうけど、紛れもなく、一世を風靡したジャズ・ジャイアントだった。個人的には大好きで、楽器だって銘柄だけはこの人と一緒だった。

「いつかは、この人みたいに。」

そう思って、マイケルとも親交の深い国内屈指のミュージシャンのレッスンを受けたことだってある。その厳しさに、見事に、かつあっという間に挫折したのだけれど。

その演奏は、超絶的技巧を持った音楽エリートの悪戯とでもいうか、極限までコントロールされたクレイジーさというか、グジュグジュにつまった鼻水が根こそぎズポっと取れてしまうような、というか。
もちろん、そんな演奏だけじゃなく、バラードなんかも一級品なのだけど、とにかく自分にとっては「キレた」スリリングかつ爆発的なインプロビゼーションが最高だった。今でもリアルタイムで彼の演奏が聴けたことは、自分の人生のある時期の大事な断片だと思っている。

マイケル・ブレッカー

ところが、マイケルは2007年1月に白血病で亡くなってしまった。まだ57歳だった。闘病生活は雑誌やネットで当時見ていたけど、気がついたら、だった。
うらやましいことに、弟は東京で1回セッションしたことがあるらしい。
自分は生で1回も見ることすらなく、彼は死んでしまった。

マイケル・ブレッカー PILGRIMAGE

そして、数ヶ月後、遺作が発表される。タイトルは”PILGRIMAGE”。
亡くなる2週間前までレコーディング作業を行っていたとのこと。発売と同時に即バイトした記憶がある。
リリースされた当時はマイケルの追悼ムード一色で、自分がレッスンを受けた先生なんかも雑誌で「涙ぐんでしまう。」と専門誌にコラムを寄せていて、そう思って聴くと確かに少し弱々しくていつもの圧倒的な音圧もないし、なんだか聴いててつらいし、などと感じて、いつの間にか押し入れの奥にしまっていた。

ところがつい最近、ほぼ10年ぶり、マンネリ化してきたカーステレオのCDを入れ替えようとしてゴソゴソ押し入れをかき回していたら、この”PILGRIMAGE”が出てきた。

最近は何かに導かれるように、取り憑かれたように、車の中でヘビーローテーションしている。

何度も繰り返し、よくよく聴いてみた。

きっと自分の悪い先入観だったのだろう。そこには無意識に自分が予想していた、終わりを自覚した偉人が人生を総括するような静かで神々しい世界か、病に苦しんだ1人の人間のもがく様子か、どちらかが描き出されているに違いないと勝手に思いこんでいた。

マイケル・ブレッカー PILGRIMAGE

そして、自分は己の浅はかさを恥じる気持ちになる。

特に6曲目の”Cardinal Rule”は衝撃だった。

音楽的な説明は出来ないのだが、彼は確かに前進していた。嘘みたいに前向きな意志で。
風景で言えば真夜中の漆黒の静けさから重い曇り空へ、雷鳴轟く雨空、そして急に強風で雲が美しくたなびく晴天、そして一瞬の神々しい朝焼けと、めちゃくちゃランダムに移り変わる風景を、その限りなく流麗な演奏で繋ぎ合わせ、ひとひらの見事な、壮大な叙景詩へと仕立てている。

決して分かりやすい曲ではないが、マイケルの演奏もテクニックと情熱だけに偏らず、抑制された余韻でそれこそ神々しい美を醸し出している。ときどき涙ぐみそうになるほど。そしてそこには全く死の香りはなかった。

最近は、この曲が自分の中では彼のベストパフォーマンスになってしまっているほどだ。

マイケル・ブレッカー PILGRIMAGE

もちろんメルドーや、ハービーや、パティトゥッチやディジョネット、そしてメセニーといったそれぞれが現代を代表するスーパーミュージシャンのサポートがこのアルバムには欠かせなかったのだろうけど、とにかく、激痛を伴うらしい白血病で、死ぬ間際にいたってまで新しい何かを産み出すエネルギーは、人生とは何か、ということを学ばせてくれたような気がしている。

御池 レインボー アングラー

”PILGRIMAGE”は和訳すると「巡礼」「聖地への旅」といった意味だ。

今までの自分はこの言葉を単純に死への準備や覚悟、くらいに捉えていたかもしれない。

それは多分違う。本当の巡礼とは、きっと死ぬまで生々しく生きることをいうのだ。そして、そうすれば、巡礼の度に新しい発見があり、己自身が少し生まれ変わることができるのだ。

それが、10年越しでマイケルが自分に教えてくれたことだ。

湖 トラウト アングラー

今年も秋が来た。そしてすぐに凍える冬が来て、ウェーダーを履いて寒さに備えるようになる。

自分にとって虹色の龍神という夢を求める巡礼の季節が訪れる。

御池 虹鱒 70オーバー

それは釣ってみないと分からない。
もしかしたら一生釣れないかもしれない。

でも、今年は、去年までの自分とはちょっと違った気持ちであの湖にたたずむことができるような気がする。

マイケル・ブレッカー

そして、もし釣ることができたなら、自分はいつか彼方の岸を越えたとき、どこかでマイケルに会って、こんな会話をしたいと思う。

「マイケル!俺は80㎝のレインボーを釣って、アンタのおかげでとても前向きになれたよ!」」
「そうですか。それはすごいことなのですね?」
「んー。それはよく分からないけど、自分にとってはとても大事なことだったんだ。」
「そうなんですね。それは良かった。」

トラウト タックル スピニング

自分でもなぜこのことにこれほど熱くなれるか分からない。
でも、そんなことを一つでも持てることは、多分、男としてとても幸せなことなんだろうとは思う。

 

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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