ハイランドの福音 (ネイティブ アップストリーム スプーニングvol.2)

 

樹木 樹齢

「木を見て森を見ず。」

とはよく言われる格言だが、釣り人の場合、

「河を見て木を見ず。」

というのも間々当てはまるのではないだろうか。

ロッド トラウト 

周りに林道などは一切ない、あまりに深い山奥。
標高1,000mをはるかに超えるハイランドでのイワナ探索。
ハードな高巻きをして次のポイントを目指す途中、頂上間近の稜線にぶつかる。

それまで手ごわい藪に行く手を阻まれていたが、突如、目の前に拡がった絶景にみるみる汗が蒸散し、昇華する。

しばらく眺めていると、軽やかな風が吹き上げてくる。それは下界では決して感じることのない、福音という名のささやきそのものだった。

深い谷間に目を落とすと、背の低い笹の中に、時折息を飲むくらい立派な木がそそり立っている。

人の手が加わったことがないであろうこの場所で彼らは一体何百年生きてきたのか。

吸い込まれるように見つめると、1本1本がそれぞれ全く違う個性と意志を持った頑固な生命のように見えて仕方がない。

人の為すことなんてどうということはない。みんなここから産まれてここに還るだけなのだよ。そんなことを言われているような気がしてきて透き通るよように爽やかな気持ちになる。

岩魚 山女魚 スプーン トラウト

果たして、本当にこの九州に太古から命を繋いできた在来種のイワナはいなかったのか。それとも実はいたのか。

とある大学教授が取り組んでいるこの研究のための1泊2日のサンプル採取を兼ねた釣行に出かけた。

GWのど真ん中、いくら秘境とは言え、知っている人は知っているに違いない。

前日の夜から車を走らせ、アプローチのポイントで車中泊をした。最短距離を通るつもりのルートだったが、かえって時間を食ってしまい、到着してから睡眠を取れたのは1時間と少し。さすがに体調が不安になるようなコンディションでのスタートになってしまった。

岩魚 オレンジ 腹 

翌朝、4時に車から起き出し、事前に綿密に計画していたとおりのルートを30分程歩き、入渓。嬉しいことにスタートフィッシング早々、フレッシュな反応が立て続けに得られた。

こんな深山にひっそり息づくイワナたちは、本当にえも言われぬ色彩を見せてくれる。一体この鮮やか過ぎるオレンジベリーが何の擬態だと言うのか。

芸術としか表現できないような肢体に見とれつつ、写真を撮り、ヒレの一部をカットしてDNAのサンプルをもらい、また透明な流れに戻す。

渓流 アングラー スプーン

今回は後輩の釣友と2人での釣行だった。このTailSwingで過去2回、大会も開いたことがある西のレインボーの聖地、御池に昨年からゆうに、冗談抜きに、100回以上は釣行している彼。

なのに何故だか、ほぼ3年前、1回目に45cmを釣ったきり、虹をかけることが出来ないでいる。

もちろん自分が知りうる限りのポイントやテクニックやタックルの詳細まで全て教えている。なのに、何故だか釣れない。決して下手ではない。言われたこともちゃんとやっているようにも見える。

何が原因なのか自分にも全く分からない。あまりに釣れなさすぎだ。
やはり御池には目に見えない何かがある。そう思わざるを得ない。

だけど、人というのは不思議なもので、釣れなければ釣れないほど、彼の中のトラウト熱はたかぶってきているようだ。今回も声を掛けたら2つ返事で乗ってきた。

九州 岩魚 スプーン ハスルアー

水量の少ない源流域で自分がメインで使用したのはハスルアーの1/12oz(約2.5g)だった。オリジナルのペイントは剥がして、自分でアルミ貼りと簡単な塗装を施して使っている。個人的にはこのサイズのハスルアーは「エサルアー」と呼んでいる。

水深が浅かったり、流れが強くないポイントではかなりの威力を発揮するスプーンだ。使い方を覚えれば某有名ミノーより釣れるのではないか。

九州 岩魚 スプーン ハスルアー

使い方と言ってもステディリトリーブ、シェイク、フリップ、ボトムバンピング、ある程度どんなアクションを加えてもそれなりにちゃんと動いてくれて、魚もその活性に応じてどれかのアクションにリアクションしてくれる。

渓流スプーンではまさしく永久定番と言っていいだろう。

あまりに数が釣れ過ぎるので、個人的にはそろそろ使うのを止めようと思っている位だ。

九州 岩魚 スプーン

九州 岩魚 スプーン

九州 岩魚 スプーン

遡行を続ける中、イワナたちは順調にロッドを曲げ続けてくれた。1尾1尾、ランディングしては写真を撮り、計測して、サンプルを採取してリリース。この作業を繰り返す。

後日、これらの写真を詳しい友人に見せると秩父イワナの原種によく似ていると言った。どうやらこの世界も相当にディープなようだが、まだまだ自分には分からないことだらけだ。

今は、ただただその美しさを眺めるのみである。

パラゴンG アングロ 渓流

しかし、2人で苦労してたどり着いた核心部には真新しい人の痕跡があり、ほんの少しチェックしただけで、また来た藪の中を延々と戻ることになった。

この日はこれから間もなくロッドオフ。2人共寝不足と疲労で、21時には完全に沈んでいたと思う。

九州 岩魚 スプーン

明けて翌朝、4時には起床した。

昨日とは別の水系に入渓。それから間もなく気付いた。遠目から釣友を見ていて、ふと感じたのだ。多分まだ釣り始めて1時間も経っていないタイミングだったと思う。

「何だか、急に上手くなったね。びっくりする位だよ。」

彼は明らかに昨日とは別人だった。

ポイントにアプローチするときの木化け岩化け。背をかがめて狙いすましたキャスティング。カウントダウンをするときの集中力。

それぞれの精度が昨日に比べてそれほど上がっている訳ではない。ただ、一連の所作は確信に満ちていた。もう何十回も一緒に釣りをした仲だ。見間違いではなかった。

そして自分は、まだ釣り始めて少ししか経ってないのに、妙に慌てるような、上手くペースをつかめないような気分になった。

九州 岩魚 スプーン

案の定、ここから彼はあまりないことを次々と見せてくれた。

移動の繰り返しながら朝一番にエントリーしたポイントに2時間開けて入った彼。さすがにそこでは釣れないだろう、とタカをくくって見ていると、目の前でロッドを曲げている。8寸程の良型だった。

やはりだった。彼がここまで積み上げてきた多くの経験という名の部品たちは何故だかこのタイミングで急に組み上がり、マシンとなって駆動し始めたようだ。彼の釣り姿は薄気味悪い程の迫力を放ち始めていた。

渓流 トラウト タックル

反対に、自分の釣りは毒気にあてられたかのように崩壊していった。釣れるには釣れるのだが、ここぞというポイントのこれぞという魚にはことごとく凡ミスを繰り返した。

直前に「やっぱり魚釣りは糸と針が大事なんだよ。」などと彼に説教していながら、ノットのすっぽ抜けで1匹。やや針先が甘いのを知っていて釣りを続けていて、ガツンと来た9寸程度は目の前でポロリと外れて逃走された。

とどめに針がかりが浅いのが分かった良型を迷った挙句、ネットを使わずに抜き上げようとしてまたもポロリ。

ポイントは平等に譲り合いながら遡行している。

前日の釣りはダブルスコアで自分が多く釣った。彼の釣った直後のポイントで竿抜けを狙って釣ったのも数匹あった。だがしかし、この日は結局、型、数とも彼に及ばなかった。

渓流 トラウト スプーン

そして、今回の釣行最後の区間。移動して訪れたのは初日の川の下流部分。彼は別々の大場所で9寸のイワナを立て続けに2本上げた。2人ともスプーンのみでの2日間だった。

最後当たりは自分はすっかり嬉しくなってしまって、彼がこの日を忘れないように、あらん限りの言葉で何が良かったのかを延々と言い聞かせた。

この日のハイランドの福音は彼にもたらされたのだ。覚えておいてもらわないと困る。

トラウト 葉巻 渓流

最後で最大のサプライズ。

時間が迫る中、脱渓ポイントを探していると、ほんの200mほど上流に2人組のルアーアングラーがいる。手にはベイトタックルとミノーが見えた。

多分数十分も開けずに、我々は彼らの後を着いていっていたのだ。

そんな中、我々がコンタクトを持てた魚は、ヤマメも入れると10本程度はあった。先行していた彼らがどれくらい釣ったかは分からない。もしかしたら魚が濃い区間だったのかもしれないが、それにしても、である。

やはりスプーンは釣れるのだ。しかもオールマイティに。そして彼の言葉はあまりに印象的だった。

「御池でやってきたことをそのままやっただけです。やっぱり無駄じゃなかったんですね。」

木漏れ日の中、2人で吸う葉巻はこの上ないくらい格別な味だった。

 

ネイティブ アップストリーム スプーニングvol.1

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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