ハイランド現象

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渓流 森標高1,000メートルをはるかに超える林道に車を走らせ、ちょっとしたダートに揺られつつ助手席越しに流れる景色を眺めていると、ふとした瞬間からしばらくの間、ある感慨に浸された。

こんなことは釣りでは2度目だ。植林された杉と、車が通った後を示す轍、たまに現れる素朴な看板。それ以外には人の跡はほとんどない。なのに、なぜだか急に、賑やかで華やかな感情が押し寄せてくる。まるで多くの人々が行き交うヨーロッパあたりの優雅な観光地にいるようで、とても不思議で、すごぶる幸せな感覚。自分は、このことをいつも標高が高いところで起きることから、勝手にハイランド現象と呼んでいる。

新緑 空ふと顔を上げると空がとても近い。流れる雲が刻一刻美しく形を変える様子が下界にいるときよりもはるかに、つぶさに分かる。一年を通して、緑の美しさが際だつ5月。空の青が葉の緑に吸い込まれているかのような絶景が目の前に拡がる。

車を降り、タックルの準備をしつつ濃密で甘美な森の芳香を鼻からゆっくり、深く吸い込み、しばらくはハイランド現象の余韻に浸った。

一回り年下の友人に連れてきてもらったこの日2本目の沢。彼自身も8年振りに訪れたらしく、よほど印象的だったのだろう、何回もその時の様子を聞かせてくれていた。そして、そのとき彼自身は34センチのイワナをここで釣ったとのこと。

実はこの日まで、自分はまだネイティブのイワナを釣ったことはなかった。既に午前中、1本目の沢で数匹の美しい深山の結晶と出会うことが出来ていた。さらに特別な出会いを求めて、2人で斜面を駆け下りた。

Paragon G Series スプーン右手にはパラゴンGシリーズの5.11フィート。リールはオールドのミッチェル308。ラインはPE0.1~0.3号にリーダーは0.8号のフロロ。ルアーは2.5~5gのスプーンのみ。去年からずっと考えて、試行錯誤を重ねてきたタックルたち。長めのグラスロッドに細いライン、軽量ルアーで繊細な渓流ゲームをこれから楽しんでいきたいと思っている。

岩魚 渓流 スプーン実は、ここ九州にも放流ではなく、古来より命を脈々と繋いできたイワナの沢があるという噂がある。そして、ここもそんな沢の一つだった。初めてのイワナ釣りにそんな特別な場所に案内してくれた友人に、この日は一尾釣るごとに素直に「ありがとう。」と言える。

スプーン 岩魚
スプーン 岩魚 パラゴン G初めて見る源流のイワナたちは個体によって、実にさまざまに色彩を見せ、自分は、まるで釣りを始めたばかりの少年のようにはしゃぎ、1匹釣るごとに魚を浅瀬に横たえて隅々まで眺め、写真を撮り、透明な流れに戻してやった。

渓流 スプーン アングラー随分歩いて、いよいよ核心部へと近づく。ぼそりと友人が言う。

「楽園ていうものは、えてして長続きしないんですよね。いてくれればいいんだけど。」

さまざまな川に精通している彼の言うことだ。きっと今まで色んな体験をしてきたに違いない。キャッチアンドリリースはセンチメンタリズムではなく、自分たちがそこで楽しみ続けるためのものでもあるのだと再認識させられる。

渓流 岩魚源流部の水量は少なく、大抵のポイントに根掛かりを恐れることなく大胆にキャストできる。そして、ここぞというポイントからは何かしら反応が得られた。
ソフトだが、超高感度のグラスロッドは小型スプーンのプルプルという微細な振動を確実に手元に伝えてくれる。ピンポイントを狙うときはスローなシェイキングを、流れの筋を狙うときは水流よりも少しだけ速くリトリーブし、リール2~3回転おきに軽くロッドティップでフリップさせる。

あうんの呼吸でテンポよく交代しながらポイントを攻め、大岩の影にぽとり、とサトウオリジナルのアンサー3gを落とし、シェイキングを加えた直後、「ガッ!」と今までとは違う重みのあるバイト。ぐねりぐねりと美しい藤色の魚体をくねらせて寄ってきたのは、この日最大の8寸。

尺イワナ パラゴンGシリーズ
初体験としてはもう十分満足だった。この日何度目かの固い握手を交わして、写真を撮り、リリース。彼に先行してもらい、自分は夕暮れの気配が漂ってきたハイランドの風景をゆっくりと撮影した。

尺イワナ スプーン核心部手前の大滝、彼は下流でフック交換をし、自分にポイントを譲ってくれる。昼間はシェードに身を潜めていたイワナたちは日がかげるにつれ、大胆に流芯へと出てきていた。距離を保ち、一番太い流れに乗るよう滝下にハスルアーの2.5gをキャスト。ミッチェルをブルンブルンと回転させ、ロッドを「ピッ」と軽くフリップさせた直後、「ゴツ」という強いバイト。でかい。

尺イワナ スプーン パラゴンGシリーズ直後、ミッチェルのドラグが「ジッ!ジイッ!」と鳴る。目をこらして魚を見ると明らかに今日一番の大きさ。手元に伝わってくる感触から、フックアップは問題ないようだ。落ち着いてリールを巻きながら、自分の足でも距離を詰めていく。瀬尻で必死に身体をくねらせていたイワナは自分の姿が目に入ったのか、猛スピードで対岸の大岩のエグレに滑り込もうとする。グラスロッドを思い切り立てて、柔らかくそれをいなし、寄せた。ネットインした瞬間、雄叫びをあげた。32㎝の美しい魚体が目の前にいた。

尺イワナ スプーン パラゴンGシリーズまた一つ、彼から一生忘れられない思い出をもらった瞬間だった。

尺イワナ プリスプーン
その後、太ももに充満する乳酸に耐えながら、あえぎあえぎたどり着いた最後のポイントで、友人がキャストしたスカジットデザインズのプリスプーン2.4gにも厳つく、美しい31㎝が釣れた。

尺イワナ プリスプーンこの秘境では短時間の釣行だったが、2人とも尺上の顔を見ることができた。結果的には年に数回あるかないかの最高の1日だったと思う。

渓流 アングラー全てが終わり、夕暮れが近づいてくる。川沿いの林道などないこの沢、来た道程を急ぎ足で下る。目の前に拡がる森は木々がほどよくまばらで、黄金色の陽ざしを透かし彫りのように魅せてくれる。

100mくらい先を足早に歩く友人の背中を目で追っていると、ふと、また、ハイランド現象が訪れた。自分はほんの少し立ち止まって、友人と黄金色の森を撮影しながら、連れてきてくれた彼とここに住まうであろう神々に感謝の気持ちを伝えた。

また、よろしく、という気持ちも少しだけ込めながら。

 

 

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松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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