パラダイス(ネイティブ アップストリーム スプーニング vol.3)

 

おにぎり「うぉっっ!!」

思わず叫んだ。

清冽な水が流れる山間部の棚田で収穫され、料理上手のこの人が自信を持ってここまで運んでくれたおにぎりだ。ある程度予想はしていたが、現実は、はるかにそれを超えていた。

まさか米がこんなに旨いとは。
ただ「旨い」というだけではあまりに失礼なくらい旨い。

一噛みすると、ごく薄い皮膜に包まれていた真珠色の一粒一粒がはじけて、優しい甘味がじんわりと拡がる。

もう一噛み。奥に隠れていた上品だが強烈なうま味が口の中を駆け巡る。

さらに何回か。最後に姿を現すのは豊潤というフレーズがぴったりあてはまる芳香。鼻腔から脳天に突き抜けてしまうようだ。

口の中で天真爛漫に変化する幸福をどうにか記憶にとどめようと食事をしながら言葉を紡いだ。

渓流 アングラー

大体、釣り自慢なんてあんまり他人を幸福にすることはない。
大抵の場合、輝かしい称賛の裏には多くの嫉妬や焦燥が隠れている。もちろん自分だってそうだ。

「すごいね!ナイスフィッシュ!」

なんて言いながらも心の中では「チッ!イライラするぜ。」なんてのが世の常なのだ。

渓流 コーヒー

その点、料理自慢はその場にいる誰をも幸福に出来る素晴らしい能力だ。

流程の長いこの川でリュックに入れられ6時間以上もかけて先輩に運ばれてきたお昼ごはんと自家焙煎のコーヒー、デザートのワッフルは今日この日を特別なものにするのに十分すぎる最高のご馳走だった。

・・・・・

忠さんのスプーン バイト アートフィッシング

別に決めてる訳ではないけれど、最近はこの人と少なくとも1年に1回はちょっとした冒険釣行をすることにしている。

このコラムを書いているときはやっと梅雨らしい雨が降ってきているのだけれど、釣りに行ったときはカラッカラの日々が続いていた。ほとんどの川が渇水、高温でヤマメたちはきっとグロッキーだろう。

いくらオトコノコの冒険って言ったって、ヤマメが釣れないのは良くない。自然とふさわしい川は決まった。

今年の冒険テーマは「歩けるだけ歩く」だ。

バイトに眼を入れながらそんなことを考えていると、あの頃のやんちゃな時代のにおいがしてきて、うずうず楽しくなってきた。

渓流 渇水

果たして、案の定、たどり着いた渓流はかなりの渇水。水の流れもかなり弱々しい。

しかも、ヤマメが思ったほど釣れない。開始2時間はヤマメがそれぞれ1匹ずつ。少し心に暗雲が立ち込める。

オイカワ スプーン

反対に、標高が比較的低いからなのか、魚種はたくさん遊んでくれる。カワムツ、イダ(ウグイ)、アブラハヤ、それにオイカワ。ヤマメも入れると早々にスプーン五目釣り達成だった。

オイカワ スプーン

特にこのオイカワの美しさといったらどうだろうか。

ブルーとグレーとオレンジがにじみあう体側とは裏腹に、背中のウロコはまるでシックな幾何学的デザインのように規則的で美しい。シャープかつ優雅に張り出したヒレの曲線といい、何とも言えない。

しばらく浅瀬に横たえて、眺める。

まるで日本の四季をアートに表現したようなその姿。
これはこれで申し分ない日本を代表する魚だろう。

渓流 落ち込み

それにしても、やはりもっとヤマメの顔が見たい。川沿いに林道がないここは、どこかで見切りをつけてUターンして逆戻りしないといけない。すでに入渓して6時間。釣れない時間が続いたため、かなりの距離を歩いてきている。

「まぁでも、この渇水だし、おにぎりが最高だったから、これはこれでいいのかな。」

少し諦めが入った気持ちで釣りを再開すると、状況が一変した。

DCバイト 山女魚

釣れる。
釣れる!
釣れる!!
ここまでの苦戦がウソのようにヒットが続く。

「もう少しでパラダイスですよ。」
「そうだね~。」

2人で若干虚しく励ましあってきた言葉が突如現実となった。

ピュア 山女魚 スプーン

大体、実は2人とも体内成分の多くはバカで出来てるから、揃うとバカ同士の化学反応が起きる。54歳の先輩。47歳の自分。そろそろ中年の終盤が見えてきそうなコンビがゲラゲラ笑いながら、ヤマメと戯れる。

釣れたときの合図は「ヒット!」でも、「キタ!」でも、「ヨッシャ!」でも、ましてや「フィッシュ・オン!」でもなく、自然発生的に、

「パラダァ~イス!!」

だった。

山女魚 パラゴンG

「パラダァ~イス!!」

「パラダァ~イス!!」

「パラダァ~イス!!」

何の遠慮もなく、笑いながら大声で叫ぶ。

サイズこそ8寸止まりだが、そんなことは関係なかった。この渇水、高温の中で次々にヤマメが遊んでくれる。苦労した時間の後のパラダイスは1時間以上も続いた。

山女魚 スプーン バイト山女魚 スプーン バイト

山女魚 スプーン バイト

中でも嬉しかったのはバイトのパールブルーで釣ったことだった。
このスプーンといえば、パールピンクが有名だけど、見ていて一番ホノボノ、ワクワクするのはこのカラーだった。

こだわりのルアーで、こだわって釣る。

この満足感に、魚のサイズに関係なかった。

山女魚 原種 可能性

山女魚 在来 可能性

他にも、在来ヤマメの可能性がある丸いパーマークの個体が釣れたり、

山女魚 スプーン 撮影

自分なりの写真の撮り方をレクチャーしたりして、ふと気が付くと14時過ぎ。そろそろ帰らねばならない時間だった。入渓してもう9時間が過ぎていた。

膝を痛めて杖をつきながらエッチラオッチラ付いてくる先輩を従えて来た道を戻る。やはり、かなり歩いたようで、行けども行けども川は続く。

途中、河原に座って休憩しているときだった。

ふいに、「わっ!! あそこ!!」という声に驚かされる。

山女魚

見ると目の前にゆうに35センチはあろうかという鼻曲がりの雄ヤマメが、冷たく、鋭い目つきでこちらを見ている。

明らかにこちらを偵察しに来た様子だった。

そうっとデジカメを動かして写真を数枚撮ったが、身じろぎ一つしない。
その眼を見つめていると、気合い負けしそうな迫力を感じた。

既にロッドはたたんでいた。ふと隣の人が何を思ったか、背中のランディングネットに手をかけた瞬間、彼は閃光のように消えていった。

「どうしたんですか?」

「いや、すくってみようかなと思って。。」

流石である。

トラウトアングラー

帰りは結局、車まで3時間かかった。疲労はかなりのものだったが、それをはるかに上回る爽快感があった。帰りの車中で、この日のことを2人で何度も反すうした。いい1日だった。

まだまだ、きっと、しばらくはどこか成長しきれないトム・ソーヤーたちの冒険は続くのだろう。

さあ、次はどこ行きましょうかね。

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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