マインドゲーム

 

御池 フライマン
湖のトラウトゲームが大好きだ。元をたどればおそらく幼少期に見た釣りキチ三平の影響だと思う。立ち枯木が水面にそそり立つ幽玄の山上湖。スピニングタックルから弧を描いて着水するスプーン。「シュルシュル・・・。」と擬音を立てながらクリアウォーターを艶めかしく泳ぎ、美しく、巨大なレインボーがその後ろから、、、。

その光景は、南国育ちの自分にとって遙かなる北国への憧憬を抱かせた。

年月は大いに過ぎていき、四捨五入をすれば五十路になってしまう年齢になったが、今、あらためてその釣りに夢中になっている。とは言っても未だに住んでいるのは九州。リザーバーも含めてあの頃の三平くんのような釣りが出来る湖はごくごく限られている。そんな中ではあるが、自分なりに「これは!」と感じていることがある。

御池 鏡
湖というフィールドは、渓流や本流に比べると大きく異なる点がいくつかある。まずは何より、湖はルアーが届く範囲からトラウトがいなくなることが間々あること。正確に言うとそう思われても仕方ない日が結構多いこと。こんな日はどんなに手を尽くそうが、カラッきしだ。

せいぜい自分を包む幽玄の中に心身を浸し、感慨にふけることくらいしかできない。これが河川なら、例えそこまでボーズでも、「あの淵を過ぎればきっとパラダイスが!」とワクワクすることもできる。大河川でない限り、目の前のポイントには大抵ルアーを送り込むこともできる。

アングロ パラゴン アンサースプーン
次に、これは思いこみかもしれないが、湖だとルアーの動きの一部始終をターゲットに見られていることが挙げられる。例えば渓流でヤマメの立場になって考えると、ルアーは木の葉や、水生昆虫など他の流下物の中に紛れてキラキラと輝きながら近づいてきたり、白泡の中から突如現れたりにするに違いない。着水して数秒以内にヒットすることが多いのもその証拠だろう。

ところが、ネイティブトラウトが生息するような湖の多くはクリアウォーターであり、河川のように水中はザワザワしていないケースが多い。もちろん、海で魚探に映るようにベイトフィッシュの群れが水中でワラワラしているケースもあるだろう。しかし、そのことがヒットに結びつくような時合は大抵1日の中でほんの少ししかない。

その他のときは、きっと自分のスプーンは着水し、所在なさげにヒラヒラ、キラキラしながらフォーリングし、まったりとしたスピードでラインに引かれながら冷たい湖水の中で孤独なダンスを踊っているのである。そして目指すランカートラウトは遠目かつ横目にその一部始終を眺めながらその立派なヒレをゆったりと動かしているに違いないのである。

御池 レインボー アングラー
こんな状況下で釣るのだから、湖のトラウトゲームは精神力をより強く要求される。

まして、渓流や本流ではそんなに出会えないような大物を狙うなら、精神力の重要性はさらに大きくなる。なぜなら、何もない水中をまるで芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のように水面から斜めかつダイレクトにルアーへと繋がるラインからは人の念が照射、放散されているからだ。そして、湖はそれらがある種の殺気としてトラウトに届きやすいフィールドだと信じている。そして、ランカーと呼ばれるような種族はそのことにひどく敏感である、とも。

御池 虹鱒 アンサースプーン
その証拠に、横を向いて釣友と談笑している瞬間。ライズを発見して気を取られている瞬間。長時間立ちこんで釣りをするのに疲れ、石に腰掛けて背中を丸め、だらだらとリールを巻いている瞬間。そんなときに釣れるケースがなんと多いことか。今までの結果をパーセンテージにするとかなりの割合になる。

逆に、渓流はある程度の集中が結果に結びつくことが多いような気がしている。
ボーッとしているとあんまり良くない。湖だと「殺気」になるものが、きっと「色気」に変わるのだろう。

御池 虹鱒 スプーン
最近挑戦しているのが、この、湖で釣るための「気」をどうにかコントロールできないか、ということだ。今まで色々試してきた。例えば釣れない時間に頭の中で流れるBGMを色々変えてみること。個人的にダメだなと思うのは「必殺仕事人」のようなシリアスで緊張感漂う曲。殺気バリバリになってしまう。ただ、ダメだと思うものを未だ試してはいないのだが。

逆にいいな、と思っているのは、B.J.トーマスの「雨に濡れても (Raindrops Keep Fallin’ on My Head)」のような軽く、小洒落たポップス。雰囲気もトラウトフィッシングにマッチするし、スローリトリーブも苦じゃなくなる。考えればワカサギとか稚アユって身体が半透明だ。きっと血の量もそんなになくて、いつも貧血気味でホワホワしているに違いない。そんな彼らにシンクロするには、きっと効果的な曲調だろう、などと意味不明な妄想までしてしまう。ただ、これで釣れた、という実感も今のところない。

虹鱒 スプーン パラゴン
間違いないのは、肩に力が入っていたり、呼吸が浅くなっていると良くないということ。これはすぐに実践できる。かまってくれない湖面から視線を空に写してにっこり深呼吸。ぜひ試していただきたい。

虹鱒 スプーン
その他にも良かったのは、ラインが水に入ってくる位置をじいっと見つめて、そのリズムを観察する、というのもある。ラインが水を「プププ。。。」と切るリズムを見ているといい感じでボーっとしてくるし、ちょっとしたリズムの変化がトラウトからのコンタクトであることも多い。

虹鱒 アンサースプーン パラゴン
まあ、詰まるところ、どれもこれも1日投げてバイト数回、キャッチそれ以下という楽しいけれどちょっぴりつらく、何よりロマンあふれる時間の過ごし方だ。そして、このゲームは、タフであったり、退屈なシチュエーションになったりしても、心を軽くして、にこやかに前に進む、という人生にも通ずる大人のマインドゲームだと誇大な解釈を勝手にして、自分はまたあの湖に向かおうと思うのである。

虹鱒 尾鰭

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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