三匹のイワナ(原種を求めてvol.3)

 

酒

焼酎「100年の孤独」。ワイン「vina maipo」。バーボン「ワイルドターキー」。それにビール。少し高い酒から手頃なのまで種々雑多。

2人で飲むには少々多かったのかもしれない。

9月29日~30日。今季最後。1泊2日の源流、渓流釣行。

WILD TURKEY

ふと目を開けると部屋が暗い。

「え・・・っと。。」

ブンブンと音を立てているような頭をゆっくり起こして時計を見ると0時前。隣では友人が行儀良く布団に収まって寝ている。

洗い場

思い出した。

夕方宿に着いて、まだ明るい内から宴会を始めたんだった。

なつかしい昭和の香りが残るユースホステル。自炊道具を持ち込んで、ロビーで肉と野菜を焼いた。

友人のスマホにインストールしてあるアプリによると総歩行距離が大体12キロ。上り下りの回数が29回と記録してあるらしい。まあまあハードだった源流歩き。

これにいつもの寝不足が加わって、気付け薬のように口に含んだ焼酎、流し込んだビール、ワインはいつになく甘く、カラカラのスポンジが水を吸い上げるようなスピードでアルコールたちは消えていった。

とどめにバーボンをワンショット。そこから先を覚えていない。

洗い場

暗くなってすぐに寝てしまっていたらしい。

ハイピッチショートジャークかつハイパートゥイッチングな飲み方をすればどうなるか、さんざん同じことを繰り返してもまだ懲りてない。

洗い物や片付けは友人が一人でやってくれた。申し訳ないことをした。そういえばまだ風呂にも入ってない。すっかり静かになってしまった館内で物音を立てないように気をつけながら汗と汚れを洗い落とす。

渓流 タックル パラゴンG ミッチェル

自分に関して、釣りは全くダメだった。皮肉なことに最後にして、今季一番納得がゆかない日だった。

原因はライン。古くなったPEを直前に新しくしたのだ。

バリバスのベイトフィネス0.4号を0.3号に替えただけだったのだが、これが良くなかった。キャストし、リーリングを開始する度にスプール上部にあるスプールのプッシュボタンにラインが巻き付き、全く釣りにならなかった。

誤解がないように申し上げると、ラインが悪かったとは思わない。何せ1970年代に製造されたミッチェル308なのだ。当然PEラインなんてない時代のシロモノ。ラインのチョイスはアングラーの責任だ。

ある友人に冗談交じりに言われたことがある。

「オールドのミッチェルに極細PEラインを巻いて使うなんて、老人にユンケル飲ませて100メートルを全力疾走させるようなもんだよ。」

今までたまたまうまくいってただけなのかもしれない。あえてヴィンテージリールを使ってる身だ。思わぬところで来シーズンへの課題になった。

渓流 流れ 渓相

しかし、それよりなにより、谷が大きく荒れていた。

9月上旬に襲来した台風18号がここの周辺に大きな被害をもたらしていたことは知っていたが、悲しいことに淵という淵がこぶし大の石で大きく埋まっていた。ごくたまにチェイスがあるのは全て、100%、小さなタルミや岩陰からだった。

美しかった景色は跡形もなく、樹皮がずるりとむけてしまった流木がいたるところに無残な姿をさらしている。釣れないこと以上につらい心境になる。自然のこととはいえ、元の姿に戻るには相当な年月を要するに違いない。もしかするともう戻ることもないのかもしれない。

イワナ 九州

しかし、そんな中にも光明はあった。

九州には在来のイワナはいない、というのが現在の定説なのはよく知られているところ。この谷に来るのは放流モノではない、未だ証明されていない九州在来のイワナ探しという意味もあった。

そして、そのキーワードは「ゴギ」。

「ゴギ」とは、イワナの一種で、中国地方の島根県、岡山県、広島県、山口県などの山岳地帯の源流域に生息している。背部から体側の白斑が、頭部にも続いているのが他のイワナ類と違う大きな特徴だ。

宮崎大学の岩槻教授はこの「ゴギ」が在来種として九州にもいるのではないかということを研究して(http://www.cc.miyazaki-u.ac.jp/yuk/research/iwana.html)いらっしゃる。

日本 2万年前

遡ること2万年前、地球上は大規模な氷河期のまっただ中だった。地上においては氷河が発達し、海水面が現在よりも100mから最大で130mほど低かったと考えられている。

そして、当時の日本列島は写真のように本州、四国、九州が地続きになっていた。このときに「ゴギ」が四国や九州にも生息していて、現在もその血脈を繋いでいるのはないか、という仮説。

そして、我々のような素人でも判別が付く特徴が頭部にまで続く虫食い模様なのだ。

イワナ 九州 ゴギ

スプーン イワナ ゴギ 九州

過去数回、数十匹この谷でイワナを釣ってきた。

しかし、これぞ!という個体には出会えていなかった。

イワナ ゴギ スプーン 九州

イワナ ゴギ スプーン 九州

無理もない。

長年研究を続けてこられている岩槻教授ですら採取した数百のサンプルの内、数個しかゴギとおぼしきものはなく、他は明らかな放流の個体だとおっしゃっていた。見た目ではなくDNA鑑定の結果として。

ところが、

イワナ ゴギ スプーン 九州

この日釣れた3匹のイワナの頭部には、全て、うねうねとした虫食い模様がはっきりと確認できた。その確率、100%。

イワナ ゴギ スプーン 九州

一番大きなものは写真を撮るために浅瀬に横たえているときに身体をくねらせて「バシャ!!」と帰っていったが明らかに、はっきりと虫食い模様を確認した。以前、岩槻教授がおっしゃっていたことがある。ちょっと記憶がおぼろげで頼りないのだけど、以下のような内容だったと思う。

「仮にその川に放流された個体があったとしても、大昔からそこに根ざしてきた個体群に比べると環境適応能力が低く、世代交代をせずに寿命が尽きることもあると思います。また、放流したとしても必ずしも在来種と交雑するわけではなく、在来種は在来種。放流魚は放流魚として別々の生活圏を持っている可能性があります。」

考えた。もしかしたらこの谷でも台風18号による大水や大規模な土砂崩れによって今まで大勢を占めていた放流由来の個体たちの多くがいなくなってしまい、より環境に適応した生命力の強い在来種が生き残ったのではないか。

これが本当に在来のゴギなのかはもちろん自分には分からない。またサンプルを持って岩槻教授を訪ねよう。

しかし、もし本当にそうなら、ゴギは環境省が定める「レッドリスト2017(15ページ参照 http://www.env.go.jp/press/files/jp/105449.pdf)」にも挙げられている希少種である。九州在来で、かつしかもそれがゴギであるならば、一刻も早く保護をしなければならないのではないか。

何となく普通とは違うが、とても大事なものを得た気がする最終釣行だった。

渓流 アングラー スプーン トラウト

この3匹のイワナたち、自分が釣ったものは1匹もいなかった。全て後輩の友人が釣り上げたものだ。何だかんだとトラブルのせいにしても、結果は結果だ。

渓流 アングラー スプーン トラウト

「今日は松本さんに勝ちましたね。」

少し意地悪く言う後輩に、この日は口を尖らせて2言3言反論した記憶がある。

 

でも、自然にもうそろそろ、そういうタイミングに差し掛かってきたのかなという想いもある。

友人や後輩たちがスプーンで一喜一憂しながら、次世代にも胸を張って伝えられる「美しい」ルアーフィッシングを追求している。そんな彼らの成長を見ていくのも釣りの楽しみに思えてきた。

晴れ晴れと、涼やかに、繋いでいく。

きっとこの谷のイワナたちもそうしてきたように。

 

ライントラブルでオタオタしながら仰ぎ見た後輩の背中は少し頼もしくなったように見えた。

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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