天の網

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湖 空

 

御池のレインボーは、難しい。

 

尺前後のまだ体のサビと幼さが残るニジマスは時折釣れるが、いわゆるレインボートラウトと呼べるようなものは本当に難しい。ボート屋の人に聞いても、結局そのサイズは年間通して10本も釣れていないのではないだろうか。

 

自分も、今年は特に結構な頻度で通ったが、満足できるレインボーの顔は正月以来見ることができていない。

 

まあ、あふれる神秘の中にたたずんで、日がな1日キャストできることだけで、十分幸せなことではあるのだが。

 

スプーン パラゴン

 

そんな湖だから、どんなにタックルや、ノットにこだわってみたところで、釣果には関係ないことが多い。

 

特に、ネイティブフィールドでのスプーニングは、トゥイッチングやジャーキングなど、積極的にルアーを動かす釣りと違って、ただ巻きが主体となるから、なおさらその傾向が強いとは思う。

 

しかし、それにしても・・・。

 

湖 アングラー

 

最近、仕事で付き合いがある石川くんという男がいる。年はまだ30を過ぎたばかりなのだが、なにかと刺激をくれる。仕事で相談をしても、一緒に酒を飲んでも、毎回違った驚きをくれる。何より、すごいエピソードを話しながらも本人はいたって明るく、ピュアで無邪気なところがまたすごい。

 

細かいことはここでは書けないし、また、上手くも言えないが、一言でいえば、底知れない好青年といったところだろうか。

 

湖 合鴨

 

魚釣りに関しては、元々バスの心得があり、普段は磯のフカセ釣りを主にやっているそうだから、素養は十分にある。

 

だが、彼はそんなことを超越した何かを持っている。

 

神が授けた網、のようなものを。

 

初夏のある日、彼から相談を受けた。

 

「渓流のルアーやりたいんですけど!」

「あー、そしたらこんなタックルで、あそこあたりに行って、スミスのD-コンタクトとARスピナー買って、こういうふうにすればいいよ。」

 

県内のメジャーポイントと、ごく基本的なことを教えて、その日が過ぎ、彼が写真をメールしてきた。

 

ヤマメ 尺

 

ヤマメという魚は、サイズと顔つきが露骨に比例する。大きくなればなるほど風格が出てくる。

ちょっと唖然として、聞いた。

 

「・・・ねえ、これ、何㎝あった・・・?」

「ん~、、35㎝だったと思います~。松本さんのおかげです!ありがとうございましたぁ!」

 

ちなみに自分は結局、今季、こんなヤマメは釣っていない。

でも、まあ、こんなこともあるか。とそのときは思った。

 

そして、そんな彼と御池に行くことになった。彼は通販でロッドを買い、わざわざ遠くの釣り具屋まで足を伸ばし、以前から目を付けていたスプーンを3枚買っていた。

そして、釣行前日、また驚かされた。

 

「準備終わった?」

「あー、まだウェーダーを買ってないので、今日仕事終わってから買ってきます!」

「(???)ねえ、この前のヤマメのときはどうしたの?」

「あー、あのときは小学生の息子と一緒だったので、スニーカーでちょっと川に降りてやっただけです。」

「ちなみに、息子も9寸釣りましたよ!教えてくれたARスピナーでした!」

 

どこまでもあっけらかんである。

全国の渓流ルアーマンにこの話しを聞かせたら、どんな感情を抱くだろうか。

 

このとき確信した。この人は魚釣りでも何か違う、と。

 

スプーン 虹鱒 ファイト 湖

 

そして御池。おニューのウェーダーにおろしたてのタックル。

開始4投目、いきなり彼のロッドが絞り込まれている。

 

「きました!!きましたあー!!」

「あぁ!首ふってます!」

 

まさか、そんな出来すぎた話しなんてそうそうあるわけない。でも、首ふってる?キャストしたのはかなり沖合だったし、バスじゃなさそうだ。でかいハスかな?

 

スプーン 虹鱒 ファイト

 

かなり長い距離その魚はファイトしている。いいヒキだ。まあまあのレインボーかもしれない。

彼のそばに近寄って、様子をうかがう。

そして、

 

「ウソ!!?? でかい!!」

 

彼の天の網は本物だった。

 

スプーン 虹鱒

 

まだ新品ピカピカのダイワのチヌークをがっぷり喰っている。

立派なレインボートラウト。

 

この御池で、彼はやってのけたのだ。

 

湖 虹鱒

 

サイズを測ったら、ジャスト45㎝。

南九州の貴重な湖の宝石を、石川くんは、あっけなくその手に納めた。

 

虹鱒 湖 スプーン

 

やっぱり、レインボーは、いい。しばらくうっとりと眺め、写真を撮る。

あまりに早すぎる祝福。

 

素直に、「いいもの見せてくれてありがとう!」と言える。

 

虹鱒 リリース

 

「もう今日はカメラマンだなあ。。」

 

そのとき直感的にそう思った。それがいけなかったのか、その後自分にもあった明らかなでかいレインボーのバイトをのせることができなった。

 

スプーン 虹鱒

 

その後彼は、違うスプーンで、顔は可愛いけど尺上のニジマスを追加した。

彼の狙い通りの戦略・ポイントで。ここまで来たらもう自分は笑い転げるしかなかった。

 

虹鱒 リリース

 

リリースしたニジマスはじゃれつくネコのように彼にすり寄ってまた水底に還っていく。言わずもがな、この日は石川くんの日だった。結局自分はノーフィッシュ。パラゴンも、セルテートも、バッセルも、この日は関係なかった。

 

湖 山

 

天網恢恢(てんもうかいかい)疎(そ)にして漏らさず。

(天が悪人を捕えるために張りめぐらせた網の目は粗いが、悪いことを犯した人は一人も漏らさず取り逃さない。)

 

自分は天に罰せられるほどの悪事をはたらいた覚えは(多分)ないのだが、この日の彼の背中は自分が絡め取られた網の外側を優雅に、無邪気に泳ぐ美しいレインボーの姿にダブって見えた。

 

こんなことがあるから、釣りはおもしろい。

 

アングラー 昼食 

 

 

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松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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