御池

 

元来、自分は決して物を大事にする方ではない。中高生の頃、あんなに夢中になったシマノのバンタム100。マグサーボ。ミリオネアにアンバサダー。ストレーンの黄色いライン。ホッテントット、ウイグルワート、ロングA、タイガー、レーベルミノー、ジェリーワーム、トーナメントワーム、ブレットン、ドロッペン、トビー、ダーデブル、初めてバスを釣ったマグナムトーピード。。。

正月のお年玉を握りしめて、電車賃がもったいなくて片道30キロの道のりを自転車で走って初売りに出掛けた。今にして思えば、ものすごいエネルギーだった。大学に入り、関東に行き、トラウトにはまった。まだ、「エリア」ではなくて「管理釣り場」の時代。埼玉県にある朝霞ガーデンにそれはそれは狂ったように通った。雪が降りしきる中、凍り付くガイドを震えながら手の中で溶かして、キャストし続けた。カーディナル3。C3。ミッチェル408。ufmウエダ、フェンウィックの高価なロッド。ツインクル。バッセル、コータック、フラットフィッシュ、クリークホッパー。。。

思い出のルアー

貧乏学生だったが、芦ノ湖にも結構行った。ブラウンは50オーバー。レインボーは60オーバーを釣った。

30を前にして、宮崎に帰った。何故だか、累々と買いためて、一緒にきらめく時間を過ごしたはずのタックルは今ほとんど全て、ない。ときどき、思い出して色んなところをあさってみるのだが、ものの見事にない。

そういえば、過去にも頓着がなかった。別に「過去は振り返らない!」とか斜に構えて言うつもりじゃないけど、自然とその方が心地よかった。青春といえば、聞こえがいいのだろうか。どこかここにいたるまで、心と体がシンクロしない感覚が嫌だったのかもしれない。

 

40を過ぎて、「10年」という月日が加速度的に速くなってきてることを浸みるように感じている。そのことに別に焦燥感は感じていない。人間、死ぬときは死ぬ。みんな同じだ。

けれど、自分の今際の際(いまわのきわ)、最後に数回まばたくとき、脳裏に映って思わず顔がほころぶような1枚の思い出が欲しいと思うようになった。

 

宮崎県都城市に御池という湖がある。最も深いところで90㍍以上ある日本で一番深い火口湖だ。周囲には美しい森、湖畔の駐車場からは天孫降臨の伝説を残す高千穂峰を臨む、神さびた湖。まだ、小さい頃、「Angling」で大きなレインボーがここで釣れている写真を見た記憶がある。

赤に染まる湖

レインボーは美しい魚だ。ただ美しいだけでなく、雄の成長したレインボーには他の魚にはない孤高と風格を感じる。毎年、ヤマメに行っていたが、段々と御池のレインボーへの憧憬の念が募ってきた。魚の絶対数が少なく、ほとんど釣れないということは前々から聞いていた。でも、その数少ない中に70㎝オーバーがいるということも、同時に聞いていた。

そこに惹かれた。何年かかってもいいから、そいつを魅惑し、フックアップして、爆弾のようなジャンプを繰り返させ、時間をかけてやり取りし、両手に抱える。特別な場所の特別な魚を釣る。自分のスタイルで。

 

メインウェポンはスプーン。なるべく自分の思い入れが持てるもので釣ろうと思った。釣れるルアーは確かにある。それは知ってるし、随分と使った。しかし、欲しいのは漁具ではない。御池は特別な場所。数釣りは望まない。

来光

ネットでAnglo&companyのスプーンを見つけて一目惚れした。オールドアブを彷彿とさせる茶目っ気と味わいのあるカラーリング。ぬくもりと気品が同居する分かってるデザインだ。買って試しにアクションさせてみるといけそうな感じだ。細かいことはよく分からない。釣れるときに釣れることをすれば、釣れるものだ。あんまり神経質なのはかっこわるい。

トラウトタックル

よくスプーンはつかみどころのないルアーだと言われる。難しいルアーだと。
自分もそれほど経験があるわけではないが、他のルアーをイメージしながらアクションさせたりする。

一定の層をゆっくりと巻いてくるのが基本的なスプーンの使い方だろう。水中で波動を刻むようにリトリーブする。他に、表層でアクションを加えてポーズをとったりすれば、シンキングミノー。ロングキャストしてフリーフォールさせ、PEのたわみを利用するイメージでワンピッチジャークすればジギング。こんな風に考えれば、退屈になりがちな湖もまあまあ飽きない。

2013年。御池には春と冬に数回ずつ行った。行く度、何かしら釣れた。40オーバーのバスを数本、ハスを数匹。年末には25㎝くらいの可愛いレインボーを釣った。1匹のバスを除いて他は全てスプーンだった。1日粘って、ヒットはいつも1~2回。それでも不満はなかった。美しい時間を過ごしながら、釣れない釣りがしたいから、それでよかった。

ニジマス

男として産まれ、育った。色々な経験をして、人生の折り返し地点を曲がったところくらいだろうか。色んなことをやってきたが、ここまで決して順風満帆だったわけじゃない。 あの「忠さんのスプーン」で有名な常見 忠氏のサイトにこんな一節があった。

「釣師は心に傷があるから釣りに行く。しかし、彼はそれを知らないでいる。」

釣りは、楽しい。でも、今の楽しさは10代、20代の子どものそれとは全く異質だ。少し周りを見られるようになった30代のそれとも違う。

自分の心にはどんな傷が刻まれてきたのだろうか。ゆっくりと孤独を愛でながら、重厚、深淵、もののあはれ、そんなものを感じて、楽しみたい。

 

2014年の初釣りは1月3日だった。ここの朝焼けはいつも、心がほどけるくらいに美しい。自然と神を感じてしまう。しかし、この日、朝まづめにはまばらだった雲が時間の経過とともにみるみる押し寄せてくる。いつも入るポイントで9時半頃から起きるライズもまばらだ。

湖と空と雲

10時過ぎにはしとしとと全身にまとわりつくような雨。年末年始の深酒のせいか、急な気圧の変化のせいか、頭痛がする。愛しいものにしぶとく説教されてるような変な気分。

昼を過ぎて、いよいよ頭痛がひどくなる。夕まづめまでキャストするつもりだが、心が揺らぐ。切れそうな集中力を奮い起こして中層をリトリーブ。柔らかいゼリーの上をヌメヌメとエロティックにくねらせながら引いてくるイメージ。

ほぼ14時丁度。突然、ドスっとロッドが引き込まれた。8フィートのロッドが一瞬不自然なカーブを描く。全く予期していなかった。次の瞬間、すごいスピードで走る。「バスじゃない。」それはすぐに分かった。バイトの感触、ダッシュのキレ。バスではない。まさか。

 

時折ドラグを鳴らすが、まだまだタックルには余裕がある。慎重に寄せる。岸から10㍍あたりにきたとき、水面を割って出た。間違いない。レインボーだ。フックのかかり具合を確認する。しっかりとかかっている。足場が少し高い。何より、ネットを少し離れたところに置いていた。一気に抜き上げる。ドスっという音とともにレインボーが草むらに落ちた。体をビトビトとくねらせる。

ニジマス

美しい。本当にイメージどおりのフォルム、体色。よくよく見ると胸ビレが両方とも欠損している。しかし、それ以外はまさしくパーフェクトな雄。メジャーをあてると45㎝だった。厳つく、美しい顔つき。まるで古代ギリシャの戦士のように感じられた。グリーンともブロンズともつかない肌。びっしりとついた黒点。そして、輝きながら垂れて流れるマグマのようにえらから尾びれへと向かうレッドバンド。何か鋭利な刃物のようににとがった尾ひれ。香り立つ野生に見惚れた。ひざが少し震えていた。

ニジマス

ニジマス

ふとカメラをさっき車に置いてきたことを思い出す。この日は単独釣行だ。魚をネットに入れ、近くのバサーにお願いして、走りながら車に戻る。湖畔に帰り、写真を撮った。2人組のバサーから、賞賛の言葉をたくさんもらった。湧き上がるうれしさに多分顔はくしゃくしゃだったに違いない。

記念写真 ニジマス

だいぶ時間がかかってしまった。ゆっくり時間をかけて蘇生させる。バサーの方々と弾むように会話をする。一緒に喜んでくれている。自分を隠せない。素直に、心から楽しい時間だった。やがて、レインボーはゆっくりと沖に向かって泳ぎだした。しばらくじいっと見送って余韻を噛みしめた。

目指すのは幻の70㎝オーバーだ。しかし、何年かかってもという気持ちからすると、随分早く会えたような気がしている。多分、逝く間際の1枚にはなるだろう。

宮崎には、専門誌でよく見るような北海道や東北のように恵まれたトラウトフィールドはそれほどないようだ。でも、もしかしたら、開拓されていないだけかもしれない。この日の出会いまでは御池以外眼中になかったが、これからは色んなところでロッドを振ってみようと思う。

フェンウィック タックルボックス

ふと、実家に多分弟が中学生のときに買ったフェンウィックの安物のタックルボックスがあるのを思い出した。持ち帰って、数十年分のほこりを洗い流すとなんともいえない趣がある。自分の時間ももうそれほどはないだろう。これからは、こいつもパートナーの1つにしようと思った。

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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