感性のピース

 

伊豆 渓流
「藤井さん、ネット使って」

そう声をかけられ、とまどう。普段はネットを使わずに寄せ、撮影までしていたために脳内にインストールされていない自身の動きが、ぎこちない、よどんだ所作になってしまう。

小さい、しっかりとしたその水中の抵抗にUDグラス(Unidirectional Glass Fiber Cloth)は追従し、普段の硬めな竿では感じられなかった荒い息づかいまでを手元に届けてくれる。あ、この心地よさなのか、そう気付かされると同時に糸の先にある生々しい生命の何かを濃く感じさせられてしまって、言葉に詰まる。

天魚 アマゴ スプーン
「! すごい・・・綺麗ですね」

こんな文章を書いておいて恥ずかしいけれどボキャブラリーも何もあったものじゃない。眼前の感動にぼんやり漂う思考と、この繊細な鮮烈の美を焼き付けようと奮闘する目のバランスは今にも瓦解しそうだけれど、これはまだ望んだ”景色”じゃない。ただ自然に圧倒されているだけの頭をすこし振り戻し、これからその景色になるよう、できるだけ優しく導いていく。

アマゴ パラゴンG
アマゴ パラゴンG スプーン
アマゴ パラゴンG カルカッタ
芽吹く新緑のグリーンに銀をベースとしながら角度と光の加減に無数の色彩を見せる天魚(あまご)、竿とネットからは伺いを立てつつ調和するブランクと木目、渓を過ぎる水が控えめに主張する流れの面取りと底から静かな砂石が、風景全体に落ち着いたトーンと静止していながら確かな動きまでを加味してくれる。

そう、これが見たかった。この景色、人為と自然、計算と予測不能の枠組みに過ぎてゆく一期一会の、その瞬間を座って、這いつくばって、いい角度になるよう構えていくと腰が痛くなったり、足が攣りそうになるが夢中に、なんとか切り抜いていく。

ずっと描いていた想像が現実になり、自然の中にある現実は想像をあっさりと超えてしまう。その驚きと自分の小ささを体感しながら、ふっくらと豊かで贅沢な充足につつまれる。

至福と言うよりほかはない。

アマゴ マークスパイダー Ambassador2500 CASKET
アマゴ マークスパイダー Ambassador2500 CASKET
アマゴ マークスパイダー Ambassador2500 CASKET
同行していただいたのはAngler Saito氏、彼の”景色”については写真から各々想像してもらいたい。

元々回答は自分自身にしかない感性をどう形にするのかという点にあるので、人の結果は参考にしかならないのだけれど、紡ぎ出したものからその過程に想いを至らせるということは、我々同じ趣味を持つ者同士が得られる、年齢や仕事などの垣根をたやすく超え、その相手について想像し、知ることのできる喜びだ。

本流 トラウト 流れ 岩
大きく見ればただの釣りであるが、それを分解していくと実に多くの要素がある。軽く挙げてみても
季節、時間などの時。歴史や水などの場所。竿やネットなどの道具。靴やベストなどの服。ネックレスやワッペンなどの装飾。体力や技術などの自分。さらにそれぞれが数え切れないほどに分解できる、どのように分け、そのどれを選択し、吟味して行動へ結ばれているのか。

その結果が各々今のスタイルになっているはずだ。もちろん制約は多いだろうし、その時の気分によっても左右されるだろう。魚を中心としてもいい、山でも、岩でも、空でも。その土地の成り立ちや関わった偉人、交配したDNAや放流、天然、憧れたあの人、音楽。とにかく何か自分が影響を受けてきたものたちから発芽し、捏ね上げ、分泌するものを、この釣りの中でどう具現化するのか。

ひどく簡潔にいえば、格好いい、グッとあなたの胸に迫る景色になるかどうか、なのだ。

CASKET マークスパイダー Ambassador2500
そのために選ばれた道具たち、機能と見た目のバランスや生まれてくる矛盾、制約も愉しみのひとつになる。

この日、関東出身の氏が九州はCASKETのMarkSpider、九州出身の私が関東はAnglo&CompanyのParagonGシリーズというのもまた何かを感じさせられて面白い。

アングラー トラウト 本流 ベイト
今回の釣行、教わる側としても愉しませてもらった。基礎となる技術の一端を得る方法はこちらに書いてみた(近づくために)ので気になった方は是非読んでいただきたい。

もちろん、どちらも愉しいのだが、投げる、魚をかける、獲る。この過程を超えた先にある感性のピース、この一片一片を自身の中から大切に拾いあげ、描いた完結へと向かうことは美しい魚達に寄り添った満足度の高い遊びなのだと確信を持っている。

Coleman アウトドア トラウト
納竿し、暗くなってきた時間、涼やかな風がほどよく気温を下げていく。

川の音を聞きながら語らい、温かいスープはじんわり、ホットサンドはその辛みと焼きあがった生地に歯を入れる感覚を、締めのコーヒーは香りと共に吸い込むようにご馳走になる。喉を過ぎていくそれぞれが川と疲労と空気と絡み合ってたまらなく旨い、また違った側面にある一日放置され、ささくれた感性に潤いをいただく。

「この満足は他のどれも与えてくれなかった、だからここに居るんです」

氏の裏側に、微かにだが確実に透けて、幸福という欠片も見えた気がした。

 

アマゴ 天魚 リリース トラウト

 

藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

投稿者プロフィール

渓流~海までどこでもスプーンを投げる。
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