欠片の放散

 

ダム バックウォーター 山

 

2時間ほど寝たか、寝てないか。布団に潜り込んだ時間も確認していない。

前日から雨の気配を漂わせた空は、やはりパラパラと微弱ながらしっかりとアスファルトを打っている。

 

今日はどんな釣行になるだろうか、いつもなら山女を狙う場所、もちろん今は禁漁なので虹鱒をターゲットに、ダムのバックウォーターと本流を攻めるつもりだ。

 

ダムは一度訪れたことがあるが、小さなシラメからのコンタクトに終わっている。その際も陸封の桜鱒狙いであり、虹鱒は考えていなかった。つまり、初体験だ。

 

数が多いか、少ないか、反応するのか、何処に居るのか、ほとんど情報もない。

 

たぶん、居るには居る。・・・そう信じる。

 

ダム バックウォーター

 

釣れない釣り、なのだろう、可能性が低い釣り。だから楽しい。もしかするとその先に憧れた1匹やパラダイスが待っているかもしれない。そう思えるだけで、竿を振り、糸を沈め、揺れ動くスプーンを感じながら

 

「ああでもない、こうでもない」

「あそこはどうだろう、ここはどうだろう」

 

そうやって試していくのだ。馬鹿馬鹿しく、時間も、労力も必要なのはその通り、でも楽しくてたまらない。

 

山 椿

 

午前四時、いつも通り助手席に座った後の釣り談義、仕事談義を終え。睡魔が襲ってきたが今回は寝かせてもらえないままに釣り場に到着した。

 

車には雨脚を強めたことをハッキリと示す音。

 

「本降りですね」

「しばらく待とうか」

 

そう言ったものの、明るさを見せ始める景色に我慢ならずウェーダーに足を通す。

 

「投げなきゃはじまらないね」

「そうですね」

 

キャスティング

 

あちこちで見られるボイル、期待が渦巻く、魚は居る。それが何かはわからないけれど。

思い思いにスプーンを試していく、サイズ、ウェイト、リトリーブ、カラー、アクション。

 

反応してくれたのは、いつも通りのハス。こんなものだ。

 

アングラー 後ろ姿

 

今回はいつもと違って、もう一人釣行に加わる予定だ、合流する時間を確認して釣り場をあとにする。

 

有名ポイントを除いて、我々以外のトラウトアングラーに会うことはまずない、宮崎という土地がそうさせるのだろう。鱸をはじめ、ソルトに魅力ある魚が多く、当然黒鱒もいる。トラウトを狙うというのはある種の酔狂な世界とも言えるだろう。渓流での山女は人気だが、数多い釣りの中の1つであり、1年の中での1部分。

 

私もソルトを含め、何でも釣る方だがトラウトに関しては釣り場の独占に近い。誰もいないか、いたとしても別なターゲットを狙っているからだ。だからといって釣れるわけでもない、むしろ釣れないから釣り人がいないのだろう。

 

それでも、この釣れない釣りの魅力に踏み込む人がいる。その事実がなんだか嬉しかった。

いつもの同行者が私以外と話している姿に幸せを感じる。

 

彼に釣られたなら嬉しく、悔しく、楽しい。

 

アングラー 対話

 

合流後は本流を攻め上がる。実績のある場所と気になる所をランガンしていくが、反応はない。

私1人だけ若干危険を感じるぐらいの流れを渡ってみたものの、やはりハスしか応えてはくれなかった。

 

今回も・・・なのか。

 

アングラー 後ろ姿

 

ここで業を煮やしたのか、放流ポイントがあるとの情報でその場所へ移動することにした。

 

いい加減、釣ろう。

 

魚を見よう。

 

どんなに高尚な事を言ったとしても、そこは釣り人。

 

溜まりに溜まって煮え焦がれた想いに少しだけ水を足し込み、灰汁を取り除くような。間違っていながら正しい救い、完璧な飢えの選択。

 

ネイティブでもワイルドでもない、管理され、育った鱒にそれを求めても罪はないだろう。

 

アワセ

 

フライマンが先行していたが、ご覧のとおり。

 

これまでの時間が嘘のように釣れる。

 

虹鱒 ファイト

 

スプーン 虹鱒

 

「釣れますね」

「やっぱり、釣れなきゃね」

「こんなに反応するとは」

「じゃあ、竿を置いて撮影します」

 

こんなことが言えるぐらいに投げれば何らかの反応が得られた。

 

ベイトタックル アングラー

 

ファイト 虹鱒

 

これ幸いと、キャッチごとにスプーンを換え、アクションを変え、テストさせてもらった。

 

アワセ、ファイトも同様、巻きアワセ、ロッドでのアワセからジャンプするタイミング、時間の掛け方。ニヤニヤしながら、鬱憤と喜びを撒き散らかした。

 

すっかり舞い上がり、漂う気持ちを虹鱒のアタックが現実に戻してくれる。ジャンプし、突っ込み、気持いい抵抗を受けながら、釣っては放し、放しては釣った。

 

3人の表情を見て欲しい、私なぞ撮影時に飛沫を浴び、乾燥させるためベストに繋いだカメラが間抜けにも水没してしまっている。これでは元も子もない。冷静とは真反対、子どもの興奮と動悸の時間。

 

アングラー 虹鱒

 

アングラー 虹鱒

 

アングラー 笑顔

 

曇りから、いつの間にか傾いた、紅味を出す日が差し込み、日常へ帰ることを促している。

 

夕日 本流

 

帰りの車中、互いに察したのだろう。

 

「1年に1回でいいね」

「そうですね」

 

少しの灰汁を取り除いた想いは、その欠片だけを放散し、本来求めた魚への慕情をつのらせる。

 

のんびりと、急いでその時を迎えよう。

 

虹鱒 スプーン

 

 

藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

投稿者プロフィール

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