甘美なるもの

 

まだ10代の半ばだった頃読んだ筒井康隆氏の小説に書いてあった一節がずっと頭に残っている。

小説自体はライトタッチの青春群像のようなストーリーで、どこか関東あたりの海で若い男がサーフィンをしながら放浪するようなものだったと思う。ちゃんと覚えているのは主人公が定食屋に入って白飯を瞬く間に3杯かき込んで、「これは、前菜、メインディッシュ、デザートと同じなんだよ。」とうそぶくシーンくらいで、後はほとんど記憶にない。

覚えているのは、ブックカバーの裏側に筒井氏の小さな顔写真とそこに書いてあったコメントだ。

「森が何故美しいか。それは、幾千幾万の死がうず高く積もった上に生があるからだ。」

一言一句正しいかどうかは分からないが、間違いなくこんな内容だった。海を舞台にした爽やかな小説にこんなコメントがあるのかと子ども心ながらに印象的で、むしろショッキングですらあったのだけど、同時に強く心惹かれていた。

山には甘美な死を感じ、海には痛切に生を感じる。

そして、自分は休みになると山に向かう。

渓流 一眼レフ オリンパス OMD-EM1

「大人の男と少年の違い、それは持ってる玩具の値段だけだ。」

有名なこの格言には少し異論がある。

樹木にたとえるなら、幹も枝もしなやかで生き生きと伸び盛る少年と表面が硬く、ひびわれた皮に覆われて静かに円熟を深めていく大人。

確かに両方とも玩具好きなのは認めるが、それを選んで、所有するモチベーションは明らかに違う。少年の玩具とは、過ごしてきたストーリーの重みと深みが違うのだ。値段だけでは困る。実際に持てるもの、持てないものはあるだろうけど、心の中だけは全ての大人の男たちがそうであって欲しい。

「いつまでも少年の心を持った~。」なんて気色の悪い言葉はない。

HOBOスプーン アングロ

禁漁間際の最近、特に没頭している玩具がある。

Anglo&CompanyのHOBOスプーン。特にカラーリングが施していないシンプルかつベーシックなものに惹きつけられている。

シンプルの極みとも言える地金のみのスプーンでの釣り。最近巷ではミニマリズムなんてのが言われてるらしいが、これも一つのミニマリズムだろう。ただ、このスプーン、見た目はオールドっぽいのだが、設計段階からアップストリームでの使用を意識して作られていて、その深いカップがどんなシチュエーションでも水をつかみ、プリプリ・ブルブルとアクションするすぐれものだ。

これはとても大事なことで、アップでスプーニングをする際、最大の課題は川の流れに負けず「きちんとアクションする」ことなのだ。

この点、HOBOスプーンは安心して使うことが出来る。いつもは水流抵抗を増すために太軸のループフックを逆付けで使うのだけれど、このスプーンならノーマルな細軸のシングルフックでも満足できるアクションを起こしてくれる。ティーザータブなんてのも最近ほとんど見かけず、逆にそれがオールドっぽくて格好はいいんだけど、ない方が釣れるんじゃないかと思っていた。

が、使いこんでみると本体の動きに連動して細かなバイブレーションを発生させ、充分機能的かつ魅力的なのが分かる。とにかくきちんと動かないルアーに魚はバイトしないのだ。特に中型以上の魚にはその傾向があるように思う。

最近は友人もこれを使ってかなりいい結果を出すようになってきている。要するに、シンプルにキャストして、沈めて、巻くだけで充分釣れる優秀な玩具なのだ。

そして何より、プロダクトとしてとても美しくて洒落ている。ただ釣れるだけの漁具ではないのがたまらなく自分をくすぐる。

台風 渓流 山

多忙な時期を過ぎて、やっと釣りに行こうとした矢先に台風がやってきた。数日前から各河川の雨量と水位をパソコン上でにらみつけつつ、台風の進路・スピードに一喜一憂する。

そして、この日しかないというタイミングで目指すハイランドに車を走らせた。

何時間出来るかは分からない。たどりついたポイントから見える山の頂にはぶ厚く雲が覆いかぶさっていた。

渓流 雨 増水

海も、川も、水の色はいつも空の色の映し鏡だ。薄暗い空の灰色はそのまま渓流の色へと変わる。しかし、水は増えていない。雨は降っているがしばらくは釣りになるだろう。なるべく急ぎ足で釣り上がろうと思った。

HOBOスプーン ミッチェル

こんな日はシルバーだ。よっぽど釣れない時以外はこれで通してやろう。ルアーのカラーリングに頼らない釣りを試してみたいという気持ちがあった。

そして、実際、とても良く釣れた。またもや尺は釣れなかったけど満足できる数時間だった。

ヤマメ 宮崎 パーマーク

ヤマメ 胸鰭

ヤマメ HOBOスプーン

秋の紅葉のような橙(だいだい)色に全身を染めた一尾。

ヤマメ パーマーク

ヤマメ HOBOスプーン

ヤマメ HOBOスプーン

藤の花のような紫色が発光しているかのように輝く一尾。

ヤマメ HOBOスプーン

パーマークも色々なパターンがあって距離的には短い区間だったけれど、充分目と心を潤してくれた。全てシルバーのHOBO5.5gで釣った。軽く20尾は超えた。

パラゴンG アングロ HOBOスプーン

釣り方は基本的にミノーイングとそれ程変わらない。ピンスポットもしくはポイントの上流に正確かつソフトにキャストし、少し沈めてレーンとレンジを意識しながらリトリーブ。ミノーイングと少し違うのは、ロッドアクションを多く入れないこと。リトリーブ3回に1回くらいロッドティップを「チョン」と軽くフリップさせるくらいだ。

これは好みもあるだろう。先月、久しぶりに帰省してきたこのサイトの管理人、藤井くんと釣りに行ったときのこと、彼が自分の釣りを見てこう言った。

「思っていたよりもタダ巻きが多いですね。」

大事なことはルアーをむやみに動かすことではなく、水中での動きをキチンと把握することだと思っている。ルアーにアクションを加えることにとらわれるのではなく、動いているかどうか感じることに集中する。動いていることが分かればむやみにかきまわすようなことはしたくない。これが自分がやりたい「巻き」の釣りなんだと今は思っている。

それともう一つ。

岩場ではボトムをこすらないことも重要だと思う。先日、スプーンの泳ぎを仲間と一緒に動画に撮ったのだが、その際、スプーンが石にあたったときの音が偶然録音されていた。

「ゴボゴボ・・・。」と流れる水の音がする中、明らかな金属音が、「キン、カン、カァーン!」と響き渡ってきてびっくりさせられた。これ程までとは思いもしなかった。そう言えばスプーンがボトムをこすっているときに釣れたことはあんまりない。コンデジのマイクにでさえあんなに拾う音、魚の測線に与える影響が少ないとは思えない。きっと釣果と無関係ではないだろう。

渓流 渓相 雨

今シーズンも残りわずかだ。午前中で釣りを終えて山を下ると本流は既に真っ茶色の濁流になっていた。思い切って来てみて良かった。

HOBOスプーン

数ある釣りの中でも渓流釣りは、かなりハードで危険が伴う部類に入る。最近は昔よりも腰や膝に痛みを感じるようになってきた。

それでも身体が動く限り、この遊びは続けていこうと思う。甘美なるものに心身を浸しにいこうと思う。そして、やっぱり、少年には少年の、大人には大人の玩具がある。

 

その一番の違い。

大人の男の玩具とはすなわち、甘美なるものを迎え入れる準備に他ならないということだ。

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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