笑う悪魔と真摯な紳士

東京
羽田行きのモノレールに揺られながら見る川、ついつい潮目や障害物、よどみ、魚の付き場を探す自分に会える。

 

釣りをするわけでもないのに、癖になってしまっていて、やれあそこが良さそうだとか、投げて届くかどうか考えてみたり、どこに立てばいいのか、そもそも釣り禁止ではないのかなどといらぬ妄想の世界に入り込む。気がつけば国内線ターミナルだ。

 

東京から宮崎へ、帰郷の途につく。

 

今回は少し長い滞在、数日前に紹介してもらった人物、藤田氏と1日釣りにいける。数ヶ月ぶりにまともな釣りができる。

 

炸裂、興奮の喜びというよりは噛みしめる、しみ込むようなじんわりとした喜びを抱きかかえつつ、空から見る雲の美しさに見惚れた。

 

明け方の山

 

待ち合わせの予定時刻は朝6時、5時15分に到着。

渓流にいくらしいことは理解していたのだが、よくよく考えてみると、藤田氏についても、行く場所も、名前はわかるものの何一つ詳細を知らない。調べてもいない。

 

電話番号とそこから繋がったLINE、いかにも現代的な道具での数回のやりとり。

どうであれ、渓流に行くという前提があるのだから、なんの問題があろうかと開き直る。

 

空からはほんの少し、あまりにも遠慮がちな水が落ちてきて、すぐに引っ込んでいった。灰色よりやや黒い雲もあるし、もう少し遠慮がなければ魚の機嫌がよくなるのかもしれない、そう思いながらシャッターを切る。

 

釣行のためにカメラも新調、オリンパスのOM-D E-M5 Mark IIと迷ったが、手軽さ、価格を優先してSTYLUS 1sを購入。こちらも試しつつ時をやり過ごすと、待ち人も現れた。

 

挨拶もそこそこに、釣り場へと向かう。けれど、決して急がない、今日はそんな血走った釣りじゃない。

自身の色んなところに付いてしまった何かを落とす、そんな出会いを場所、魚、人に求めていたように思う。

 

揺れる車内、木々

 

交わされる言葉から悟ってもらえたのだろう、案内役の氏は無粋なものを一切入れず、静かに愉しい言葉を発してくれる。

 

上下に揺れる車内、慣れきった運転、安心と安定のガイド役。私ではとうてい実現できない、控え目な魅力に感じ入ってしまった。聞けば、ガイド役は好きなようだ、地元と心奪われる魚を紹介し、相手に喜んでもらうことに価値を見出す。

 

少しだけわかる気がする。

 

全て任せよう、それで十分。釣れようが、釣れなかろうが、きっと満足できるはずだ。

 

渓流

 

久しぶりでいて、初めて見るその渓相に頬がゆるむ、眼福とこの場に来れたという満足感がうわついた気持ちと足取りをいっそう軽くしてくれる。

 

東京からはハンチング帽だけで一切タックルを持ってこなかった。このサイトでおなじみの松本大兄からAnglo&companyのParagon6.6ftとセルテート、そしてウェーディングシューズにスプーン一式、全て借り物での入渓、キャストもなかなか決まらないが、これでいい。ゆっくり慣れよう。

 

ダーデブル 山女魚

 

盆時期に誰かが入ったのだろうと匂わせる水中での反応、しかし、すぐに藤田氏がいい顔をした山女魚を見せてくれた。

 

スプーンは往年の名作、Dardevle(ダーデブル)だ。このあたりのルアー選択も心憎くて嬉しくなる。

 

比較的広いが、ポイント自体は小場所になってしまっている。渇水は夏の常ながら、決まらないキャストがさらに魚との距離を遠いものにする。

 

私と氏のキャスティング精度の違いがよく出た一尾だ。

 

滝 山女魚 アングラー

 

とはいえ、私も釣らなければ完結はできない。満足といいながらそのピースをはめることがどうしても必須、絶対となってしまう自分に困ってしまうけれど、長さでも重さでもなく、その一尾に会うことで何かがすっと落ちていく気がする。

 

氏も気にしてくれている、なんとか釣らなければと邪念がまた着水点、アクションを迷わせ、邪魔をする。

 

ダーデブルの悪魔に後ろから見られ、笑われているようだ。使い手が真摯なだけに、これは堪える。

 

アンサースプーン 山女魚

 

6.6ftの竿で渓流、さらに渇水となると、もっぱらフリッピングキャストでピンポイントを狙った。その方が手返しがいい、オーバーヘッドで投げると枝が問題になりがちな上に、キャスト時の曲がりに慣れてないので狙いも定まらない。

 

アップクロス気味から少し沈める、透明度が高くてきらめくスプーンを追う魚は丸見えだ、見切られて悔しいやら嬉しいやら。しつこくフリーフォールを交えながら縦のV字も意識すると、念願の一尾目が口を使ってくれた。

 

サトウオリジナルのアンサースプーン3g、フリーフォールのきらめきが気に入っている。

 

アンサースプーン 山女魚

 

嗚呼、これか、大兄が言う「いやらしさ」のある竿。強くはないその抵抗、突っ込みに対しても素直に曲がる、手を固定していたら勝手に寄せてしまうなと思える。そして気持ちのいい感触だけが伝わり残る、魚の走りをそのままに感じさせてくれる竿。

 

いいなあ、これ。

 

山女魚 パーマーク

 

気がつけば昼前、そろそろ食事と別な渓へ歩を進めましょうということになり、脱渓。車へと戻る。

 

ガスバーナーがあるのは聞いていたが、手荷物を増やしたくなかったため握り飯だけの自分には氏のシーフードヌードルが旨そうでならなかった。なんたる失策、買っておけばよかったと心の中だけで地団駄を踏む。

 

珈琲まで振舞ってもらい、木々の中であの香りにふんわりとした優しさがまた沁みる。

 

車内 景色

 

また車の揺れに合わせるように、こぼれる会話が堰を切り、断続的に続く。
歴史的な土地の背景、川の様子、釣りとの出会い、ネタはたくさんあるけれど、ひとつひとつ。

 

「このあたりでも子供たちに、水難事故防止のため川で遊ばないようにとアナウンスが流れるんです」

 

「それじゃ、地元の魅力が伝わらないよね、もったいないなあ」

 

持論が許されるなら、命の危険を感じることが子供の頃にあったほうがいいと思う。自身の体験としてもバカをやったことで学べたことが大きい。おそらく、運がなければその時に死んでいたはず。極論ではあるが、体験を奪うことで危険から守るのは「籠の中の鳥」を成鳥に育てた上で、野山に放つことと同義ではないだろうか。そう考えずにはいられない。

 

ダーデブル 山女魚

 

たどり着き、入渓する。

 

結果から言えば、おそらく魚が抜かれてしまっていたことと、せっかく掛けても大事なやりとりが過ぎてバラし、私はキャッチすることができなかった。氏は私にポイントを譲りながらも、Dardevleを操り魚をその手にし、素早く針を外すと優しく水中へと戻す。

 

山女魚 スプーン アングラー

 

また悪魔は笑い、紳士なガイドが背中を気にしてくれている。

 

 

藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

投稿者プロフィール

渓流~海までどこでもスプーンを投げる。
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