羽虫(ランドロックサクラマスvol.5)

 

本流 ランドロックサクラマス

天気も。

気持ちも。

釣果も。

全てがパッとしない夕暮れ間近の渓。ふと気が付いて顔を上げる。

そこでは、知らない内に目の前で羽虫の乱舞が始まっていた。ほんの数ミリしかない透き通った身体を震わせながらヘリコプターのように上下動を繰り返している。

中には結合したまま舞う何組かのカップルもいた。

煙のように舞うその肢体をぼんやり、じぃっと見つめる。

ただでさえかすむような体温しかないだろうに、どうしてそこまでして命を燃やすのか。

残り数日しかないであろう彼らの時間を想う。

たまらなくいとおしい気持ちが湧き上がり、薄暗い光の中、自分は自然と口角を上げることが出来た。

それから程なくして乱舞は終わり、もう釣りをする気は失せてしまっていた。

ダム ランドロックサクラマス

夜明け前から熊本から来たアングラーと2人、ダムの夢を追った。
今季、ここでの釣りはこの日で最後と決めていた。

ほんの数週間前、彼と2人で見たのだ。50センチどころではない白銀のどてっ腹を。
それはきっと60は超えていた。あいつが欲しい。そんな想いをスプーンに託してキャストを続ける。

山々 晴天 雲

朝一番に8寸あるかないかの可愛らしいヤマメが釣れたが、その後が続かない。
この釣りを続けていると分かるのだが、気配がない。全くない。

「気配」とは根拠のない第六感のようなものではないと思っている。それはきっと脳が把握しきれない程の微細な信号だ。

神経質になってスプーンから逃げ惑うベイトフィッシュの波動であったり、ターゲットが関心をもってまとわりつくときに発生する水流だったり、針先に触れるだけのバイトであったり。

ロッドとラインを介して手元に伝わる極めてわずかな変化は期待に変わり、やがてターゲットの気配として認識される。

よく考えるのだが、一日湖で釣りをしていて、一体何回のチェイスがあって、その内何回バイトがあって、結果的に1匹がキャッチされるのか。

活性の問題もあるのだけれど、ランディングされた1匹の背後にはその3~5倍程度のバイトがあると思っている。そしてチェイスはさらにその倍以上はあると。

渓流のようにどんどん場所を移動する釣りではないから、より水中に対するイマジネーションと感覚を研ぎ澄ます必要があるのだ。かすかなバイトを拾い、まとわりつくチェイスを感じ、1日を過ごすのだ。

FILSON ベスト トラウト

だけど、やっぱり、この日の水中は何もなかった。平和で変化のない振動だけが延々と伝わってくる。

今年このダムはこの日の午前中で終えることにした。
目標は得られなかった。しかし、月並みだけど、楽しかった。

また来年、解禁からしばらく足繁く通うことになるだろう。

研究室 箱

実は、最近取り組もうとしていることがある。
ちょうど渓流のアップストリームスプーニングにシフトしようとしている時期だったのだが、とある大学の教授の研究に協力させていただくことになった。

テーマはヤマメ、イワナのルーツ探し。

もちろん、大学の研究だからDNAレベルからの調査で、そのサンプル採取を頼まれたのだ。正直言って、今までトラウトの「原種」とか「ルーツ」とかにはそれ程興味がなかったし、今でもこの手の話しは初心者レベルだと言っていい。

サンプル 山女魚 岩魚 南限

また、この手のテーマは先輩たちが山ほどいて、それからすると自分はずいぶん後発組になるのだが、これもご縁だろう。

ネットや古い文献なんかを読んでいくと少しずつ拡がっていく知識と愉しみが段々と満ちてくる。ハマりそうな予感がする。

山女魚 スプーン

この日の午後はダムへの道すがら、以前から目を付けていた怪しげな渓流を2本訪れた。

サンプル瓶をもらったときに聞いた教授の話しは多岐に、かつ遠い昔にまで及び、一度聞いただけでは全てを頭にインプットすることはできなかったが、ヤマメはどうやらパーマークや黒点に「その」特徴が現れるらしい。

この日は結局「その」ヤマメには出会えなかったが。

渓流 スプーン

また、今年は全ての渓流をスプーンだけで攻略することはもちろんだが、加えて渓流でのランカーサイズを狙って釣るメソッドも確立したいと思っている。

数だけで言えばもう、ミノーイングにひけを取らない自信はある。

6フィート近いグラスロッド、0.2~0.3号の細いPEラインでのネイティブアップストリームスプーニング。去年からのテーマも一緒に追求していくつもりだ。

山女魚 スプーン

Adenine(アデニン)
Guanine(グアニン)
Cytosine(シトシン)
Thymine(チミン)

たった4種類しかない塩基配列の中に遠い昔、神々が成した創造をかいま見る。
人も羽虫もトラウトも同じ物質でその姿形を脈々と繋いできたのだろう。

ランドロックサクラマス スプーン

そんな研究の隅っこにでも関われることは、ロマンチックで、やはり喜びに他ならない。

今年残り5か月。スプーンとサンプル瓶を持って山の神の胎内に潜っていこうと思う。

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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