表裏の帯2(銀山湖)

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表裏の帯1(魚野川~湖山荘)

湖山荘 ヤマメ 剥製

夢も出ない暗闇。ん、手首?誰かが握った・・・。

「おはようございます」

少し笑いながら

「大丈夫ですか?脈計りますね」 と。

驚きつつもゆっくりと起き上がる、やはり寝込んでしまったか。周りの荷物をかき集め、携帯を見れば関根氏からの着信が、デジカメは充電しておらず、すっからかんのレンズを付けた鉄塊と化していた。

構わない、兎に角行くのだ。この憧れた銀山湖で釣りをするのだ。

銀山湖 船着場

軽い冗談を交わしながら、船へ乗り込む。

関根氏は15年ほど前に一度、佐藤氏と会っていたようだ。この人もどれだけの知見、体験を積み上げてきたのだろう、エキスパートに前後を挟まれ、真ん中の自分はまな板の上の鯉よろしく、出船す。

雨と聞いていたが、曇のままだ。晴れよりは随分と釣りやすいだろう。

銀山湖 山

水上を走りながら、山々に目を凝らす。深い雪、冬の厳しさをそのまま語るようなその景観ははじめて見るものだ。色々な山には行ったが、こうも違ってくるものかと自業自得ながらデジカメが使えないことを恨めしく思いながらスマホで切り取ってゆく。

「今日は、(それなりの魚が)出ても3人で1本かな」

そう告げられたが、でなくてもいい、この場所、この面子。自分にとって特別なものが揃ったこの時間を、全力で愉しませてもらおう。でもあわよくば結果でも喜んでもらえたなら、そう思っていた。

宣言通り、いくつかのポイントを廻っても、コンタクトはない。状況判断から、流れ込んでくる沢へと進んでみる。

銀山湖 ヤマメ

いかにも、な場所から関根氏がしっかり引き出す、流石である。小さくても最初の脂鰭、そのパーマークに少しの安堵とこれからの期待から上陸し、軽く30分ほど遡行して探ってみる。が、そう甘くもない。

早々に切り上げて元の場所に下ると、トラウトマン2人組が今から上がってくる途中だった。軽く挨拶し、その先にあるかもしれない釣果を願う。お互い、やりきりましょう。

帰ってくると佐藤氏も1本、小さいが山女魚を釣り上げていた。あれ、これで私だけまだ釣れてないことになる。

銀山湖 ウグイ

ワカサギは見えないが、小さなウグイが大量に泳ぐ。緊張感がないので近くに捕食者はいないのだろうが、いつ襲われてもおかしくない。曇りの中で雰囲気は十分に感じられる。

やはり同じ場所で小さな岩魚のチェイスもあった。

まだまだこれから。

・・・。

反応がないまま、時が過ぎゆく。

気がつけば、大きめのウグイを狙いだす輩も現れた。しかし、こういった愉しみ方にバカを言う時間が釣れない時間をふわりと和らげてくれる。配慮だろうか、ただの釣り人としての性だろうか?

銀山湖 ハヤ

別な沢にも上がってみたが、ここではお互いにハヤを釣り上げるのみ。

だが美しい。婚姻色だろうか、またも心を優しくほどいてくれる。

船の番に待つ佐藤氏の所に戻ると、我々にスプーンを渡す。このために準備してくれていた11,13,14,16g4枚の黒金アンサースプーン。私は11gを結んでいたのだが、ここから、湖に関してはこれから14gだけでいこうと決めてスナップを通す。

午後を過ぎ、雨が降り出す。これもまた変化、呼び水にならないかと期待して投げる。船の移動は風雨に寒さがじわり、染みこんで震わせてくるようになってきていた。

銀山湖 蝉

途中途中で各自勝手に食事を取りながらポイントを変え、投げ続けるも14時を過ぎる、そろそろ寄港を考える時間帯だ。

佐藤氏もずっと操船し、ポイントを巡ってくれていて、投げ込みつつも自分が釣るのではなく我々に釣らせようと探っていることもよく分かる。なんとか、どうにか応えたい。

時間もなくなってきたので船着き場近くのポイントを打っていく。

銀山湖 スプーン トラウト

最後だろう、比較的大きめの川が流れ込んでいる場所に来た。中洲があり、水は左右に分かれているが、船のポジションは深場側にある。中洲には餌師が立っているのも見える。ゆっくりと近づいてから流れに任せて釣り下る。

雨のおかげもあって、表層にある流れの筋がよく見えた。透明度の高い水を上から眺めてみると船下は3~4mほどだろうか、流す場所は筋しかない。アップクロスに投げ、筋の向こうの浅場から、筋に来た時にラインを送り込んでボトムを取り、すぐにスローリトリーブ。

イメージはある。とてもスタンダードな攻め方、昨日魚野川でやりきれなかった基本中の基本。流れに揉まれるスプーンをゆっくりと魅せつける、アンサーを信じて、もうこれしかやらない。そう考えて投げていた数投目。

指

ぐぬっ と抑え込まれるような重みが伝わる。一瞬根掛かりもよぎったが、頭より先に体はアワセをくれている。

ん、重い。こちらに動くから、木? 違う!首振った!透明度が高いおかげでボトム付近から少し浮いた魚体が翻る様子が見える。大きいぞ。

「よし!来ました!」

何度かドラグを出して走ろうと暴れる。だが、今回はPE0.8に12lbのリーダーだ。抵抗を感じた後でラインに不安はなかった。たとえ流れに乗ったとしても問題ないはず。あとは自分の経験上、このサイズは掛けたことがなく、どこまで抵抗が続くのかということと、針掛かりだけ。とにかく、バレてくれるな、いいところに掛かっていてくれ!と心の底から願った。

「そのままでいいよ、まだ走るかも」

「気にしないでガンガン巻いちゃっていいよ」

エキスパート2人からのアドバイス。針掛かりはずっと気になっているのだが、なんだろう、前後に経験豊富な人たちがいると緊張するなぁ、とか案外やりにくいものだなぁなどと考えられた頭は冷静だった。その要因の1つとして、2人の声のトーンと動きがとても落ち着いたものだったからだろうと思う。まさに経験量の差を、書いている今になって改めて思い知る。

ランディングネットは関根氏が握り、私は寄せていく。魚は船の左から右へ、ラインがこすらないようにしなくては、もうちょっとだ、後は竿で浮かせて寄せる。

銀山湖 ニジマス 60オーバー

一発で綺麗に掬い獲ってもらった魚体が、船の上に横たわる。

「やった~。釣れた~!」

「やったね!おめでとう!」

「あははは」

何故だか笑いが出てくる、この2日間で溜め込んだ何かが開放されたのだろう。

「銀山で釣れた~」

「最高だね」

「最高ですね!ありがとうございます。」

それぞれに強く、握手を交わす。

もちろん、私自身のレコードサイズなので嬉しいのだが、そんなことよりこの銀山湖で、お世話になっていて、ずっと釣らせようとしてくれている佐藤氏の前で、アンサーを使い、結果を見せることができた喜びと安堵が一気に溶け出してくる。

掬ってくれて、この東京に来てから様々な場所を案内してくれる関根氏にも見せることができた。2人に応えることができて本当によかった。ただその感覚だけが全身に満ちて、溢れていた。

銀山湖 ニジマス スプーン

一瞬キープすることも頭をよぎったが、無粋だなと感じてリリースする。

ゆっくりと泳ぎ去るのを見届けて、3人同じ煙草に火をつける・・・。

銀山湖 ニジマス スプーン

あの一節。

私は挑戦し、征服するが、殺さない。支配しない。そういうことには興味がないのです。

私もちょっとだけ、格好つけさせてもらえるだろうか。

銀山湖 トラウト 釣り

数時間前に2人が自分を見た一枚、その時の自分はなぜだか忠さんと開高さんの画が浮かんでいた。

あの2人もここで投げていたんだ。今こうして自分がいることに雨の中、ただじっと突っ立ってみたくなり、佇む。

「もう行くよ~」

手を振って応える。

銀山湖

まだいるかもしれないと何度か流してみたが、結局最後まで「3人で1匹」の予想を覆すことはできなかった。

船を降り、冷えた体を湯船で温め、軽く食事をしたならば、一抹の寂しさと帰り時間の不安を抱え、別れの時。

また、必ず、一緒に釣りをしましょう。

会って話をしましょう。

車で4時間ほど、帰ってからはこの文を書き上げるまでずっと、反芻して、繰り返し脳から記憶を引っ張り出しながら締めの言葉をあさってみたのだが、どこをどうひねったり、切り取ってみても”感謝”の文字にまとめられ、ぴたりと離れなくなってしまう。

違う視点でアプローチして綴ってみても、どうも言葉が心体に寄り添い、馴染むと感じられないのだ。

もしかすると、私にとっては”それ”が出口なのかもしれない。

アンサースプーン 黒金 14g

 

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藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

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渓流~海までどこでもスプーンを投げる。
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