風雅

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ミッチェル パラゴンGシリーズ

例年のことではあるのだが、6月中旬から9月の頭までは仕事が多忙でなかなか釣りに行けない。今年も8月にキャンプ1回行ったがその他は数回しかまともに行けなかった。

渓流シーズンを考えると、3月に解禁して、4~5月。そして9月の半ばから。トータル3ヶ月と少し。この限られた期間の中で、何というか、思い出に残るような渓魚に出会いたい。シーズン最後を飾れるような出会いが欲しい。そんな焦りにも似たような気持ちで9月のある日、以前から目を付けていた渓流に出かけた。

渓流 アングラー

昼間は30度近くまで気温は上昇するらしいが、たどり着いた渓流の朝マヅメは少し肌寒い空気が漂っていた。ふと見上げると秋の装いをしたアケビがツルもちぎらんばかりに実り、垂れている。

渓流 アケビ

予想に反して渋い流れに少しの焦燥を感じ始めていたところだったが、あまり見ることのない鮮烈な色彩にしばらく見入り、訪れ始めている季節をしみじみと感じ入ることができた。

渓流 渓相

「しっかし、全然釣れないねえ。」
「本当ですね~。」
「この前、2~3時間だけやったんだけど、そのときは結構なサイズが入れ食いだったんだよ。」
「最近抜かれちゃったんですかねえ。」

思ったとおりにならない。まあ、これが釣りってもんだよな。

などと思っていると、自分がキャストしたハスルアーに待望のバイト。

山女魚 スプーン

パラゴンのグラスロッドをしなやかに、存分に曲げながら寄ってきたのは幅広な8寸以上、9寸未満といったヤマメ。

山女魚 写真

尺には及ばないものの、シビアな状況下、しかもシーズン終了間際にホッとさせてくれた1匹。出会いをかみしめるように、しばらくの間、被写体になってもらった。

渓流 滝 アングラー

朝マヅメ、3時間位かかるだろうと予想していた区間だったが、予想外に魚が出なかったため、あっという間にゴール地点の大滝までたどり着いてしまった。

友人はこの日、午後から仕事があるため、ここまで来てゆっくりと引き返すつもりだったのだ。
しばらく、雄大な自然の造形を眺めた後、彼に、「越えようか?」と告げた。

渓相 渓流 早秋

滝を高巻きして渓流に降り立つと、それまで分厚く空を覆っていた雲が晴れ、陽ざしが秋の香りを含んだ風を連れてくる。

そして、先行している友人のロッドが弧を描いているのが見えた。

山女魚 ランディングネット

サイズはともかく、美しさはこの日一番のヤマメ。
友人のランディングネットとの色合いとも相まって、自然と笑みがこぼれる。

そしてこの一匹を最後に友人は仕事へと向かい、1人でもう少しこのまま遡行を続けることにした

山女魚 スプーン

皮肉なことに友人と別れた所から明らかに活性が変わり、ヤマメたちは続けざまに身体をくねらせながら、スプーンにアタックしてくるようになった。
サイズも7寸から8寸とまあまあだ。

そして、しばらく行った大場所で、サトウオリジナルのアンサーをキャストし、流れに乗せてふわふわとフリップ&フォールを繰り返していると、この日1番の魚が身体をくねらせるのが見えた。

直後、「ガツン!」というバイト。
ファイトを堪能しながら寄せてくると、9寸。

山女魚 秋

実を言うとこの日は、願わくば婚姻色に染まり、いかつく鼻の曲がった雄の尺ヤマメを獲りたい、と望んでいた。そういう意味からするとまさしく寸足らず。

何となく消化不良な感はぬぐえなかったが、ここから先は急な傾斜の連瀑帯が見える。1人で行くのはやめにして、ロッドを抜いて、ゆっくりと川を下り始めた。

渓流 美観

途中から現れる林道を目指し、ナメが多い区間をぼんやりと下っていたとき、秋の陽光を吸い込んで、とうとうと流れている美しい淵に出会った。
疲れた頭と身体で、それをじいっと見つめているとふとある感興が自分の中を通り過ぎる。

はっとして目が覚めたような気持ちになり、通り過ぎた何かを探そうとする。

それは感覚的なもので、ちょっと寂しげだけど、限りなく透明な何か。

渓流 禁漁前

自分の中でハイランド現象と呼んでいる華やかで賑やかな感覚とは真逆の、限りなく静かな感覚。
どうしてももう一度それを感じたくて、人里からかなり離れた川べりを1人、釣りをするでもなく、うろうろしたり、タバコを吸ってみたり、タックルの写真を撮ったりして、小一時間ほど、その時を待ちわびた。

だけど、結局、それは二度と訪れてはくれなかった。

渓流 砂利

あきらめて、もう廃れたといってもいい荒れた林道を1人ゆっくりと帰り始める。
どうにかしてあの感覚を言葉にしたい。でないと忘れてしまいそうだ。
意識を集中して思い出す。

ふと、気が付く。それはほとんど日本的な感覚だった。

全てのものは常ではなく、風のように通り過ぎる。

でも、そんなものの中にはたまらなく美しいものだってたくさんある。

だから寂しくなるし、いとおしくもなる。

多分、無常という言葉が一番近い。

風雅 風景

日本には古来から、「風雅(ふうが)」という言葉がある。ものの趣、あはれを感覚的に理解し、上品で優雅なさまをいうらしい。

自分の中にあの感覚が腑に落ちた幸福感と、ガツガツと釣果を求めて余裕がなかった自分に対する恥ずかしさとが交錯した。

ヤマメは日本の固有種ではないけれども、このせまい山岳渓流で森羅万象を愛でながら釣りをするときの感覚はきっと日本人特有のものではないだろうか。

あのときの一陣の風と光は間違いなくそれを自分に再確認させてくれた。

渓流 タックル パラゴンGシリーズ

皮肉だけど、この日の自分にとって「風雅」とは「風のように通り過ぎていってしまった雅」のことだった。

世の中、こんなに奥深い楽しみはそんなにはない。

まだまだ。一歩一歩。遠くへ。深淵へ。

 

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松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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