Air(ランドロックサクラマスvol.3)

 

トラウト カレンダー

3月ももう終わりにさしかかっている。

本当だったら、解禁直後には50オーバーを釣って、湖に一区切りを付けてから渓流や本流に向かうつもりだった。

ところが現実はそう甘くなく、とうとう週1回ペースで4回目のダム湖釣行となる。

車 釣行 トンネル

3月28日。年度末押し迫った中の平日、仕事を休んで車を走らせる。

いくら今年は渋くてアングラーが少ないと言っても人気リザーバー。週末はやはり叩かれてもっとシビアになるだろう。この日でケリを付けてやろう。

そんな魂胆で夜中2時には起きて、一人車を走らせた。

車 釣行 トンネル

アップライトにしてもまだなお漆黒が奥深く広がる山道に、時折、幾何学的なデザインのトンネルが現れる。

真夜中に1人、前後、対向車線、誰もいない中を運転していると、ふと生と死の境目を通過しているような、不思議と安らぎとに近い感覚にとらわれる。

ちょうどその時、カーステレオからはバッハのG線上のアリアが流れていた。

クラシックをかじり出したのはここ数年のことだ。多分、若い頃だったら、むさぼるように音源を収集したのだろうけど、とてもゆっくりと、のんびりと聴き進めている。

ドビュッシーの「月の光」や「夢」。パッヘルベルの「カノン」。ショパンの「別れの曲」。

多分、クラシック愛好家から見ると定番中のド定番ばかりで、初心者丸出しなんだろうけど、逆に、ふと街中や、テレビのBGMでも普通に聴けるようなこれらが、実に普遍的な名曲であったことを再認識させられる。

数百年前に作曲されたもので、もちろん現代からすると新しくもなく、刺激的でもない。

しかし、「普遍」という言葉は時代を経ても変わらない価値を持つことを意味する。一音一音の跳躍に耳をそばだてていると浮かぶ情景、自然とこみ上げてくる感興。じわりと浸みてくる目に見えないもの。やはり、本当にいいものはいつ触れても、なのだろう。

山女魚 スプーン ランドロック

この日は、比較的早い時間に最初の出会いがあった。

本命ポイントに先行者がいたので、2番目に入りたかったポイントにエントリーし、意図的に様々なスプーンを試しながらキャストを繰り返す。

いつも使うサトウオリジナルのアンサーは、大体止水における使い方が分かってきた。今後は少しずつスプーンのバリエーションを増やして、それぞれの特徴を把握した上で使い分ける段階に入ってきたと思う。

朝7時過ぎ、沖合のブレイク沿いにキャストし、フリーフォール。いつものように8回フリップしてテンションフォール。これを2回繰り返してラインスラックを取る。そして、5回ほどフリップさせることでボトムからスプーンを上ずらせて2.5速を目安にリトリーブ。10回もハンドルを回さない内に、バイト。

山女魚 スプーン ランドロック

小気味よく、断続的なファイトにイダでないことを確信する。

慎重にリールを巻いてランディングされたのは35以上、40未満といったランドロック。上々のスタート。スプーンはAnglo&CompanyのHOBOスプーン。

HOBOスプーン 山女魚

重さは10g、カラーはFLR、いわゆるテントウムシカラーだった。

ベイトフィッシュライクではないこんなカラーで釣ることは、とても嬉しい。

何より、このスプーンはこの”TailSwing”を始めるきっかけになったレインボー(御池)を釣ったものだ。とても印象深い一枚なのだ。

アクションもアンサーと違い、実に派手な動きをする。独特のディープカップは名品、パラバンのサラマンダーをベースに作られたものらしい。アンサーがナチュラルなアクションを得意とするなら、HOBOはブリンブリンとしたド派手な動きでリアクションバイトを誘う。実際、この日はルアーチェンジ直後の一投目で足元までのチェイスがあり、さらに数投後にこの魚がキャッチされた。

 

一言でスプーンと言っても、その動きは多種多様で、アクション、カラー、重さによって実に様々なアプローチが出来る。ましてや湖のような止水は本流や渓流のようなストリームと違って、1から10までアングラーがスプーンの動きをコントロール出来る。だからこそ面白い。

 

おそらく、湖水の中で魚がルアーにバイトするかどうかを決めるのは1㎝単位の動きの差や微細な波動・フラッシングの差だと思っている。このことを考えながら、魚の心を感じる能力こそ、このゲームの真髄なのだと思う。

ランドロックサクラマス アングラー

そして、この日はまだまだ気配があった。ずっと湖をやっていると段々分かってくるのだが、何となくザワついている。

それは多分、ステディリトリーブしているときに感じる少しの変化なのだろうけど、ターゲットが興味を持って周りを徘徊しているときの水流の変化だったり、ベイトフィッシュがラインに触れて逃げていったり、後5mmでバイトするところまで迫っていたり。

ちゃんと認識は出来ていないし、説明も出来ないことが多いのだけど、間違ってはいない。事実、この日、30強のランドロックが体をまとわりつかせるように足元まで追ってきたとき、リトリーブ抵抗が変化するのが分かった。

一定のリズムを刻むスプーンの振動が、「ヌッ。」というような感触で、抜けるのだ。

ジギングではバーチカルに攻めるせいか「スコッ。」と抜ける感触は結構な確率で前アタリの場合が多かったが、スプーニングでも同じことが言える。

椎葉ダム ランドロック

途中から一緒に釣っていた熊本からのアングラーの方と2人、あーでもないこーでもないと談笑しながらも、きっと何かが起きることを感じていた。

そして、場所を休ませるため昼食を摂り、釣りを再開して間もなく、

「ズシッ!」
「ジィッ!」

強いバイトと共にやや強めにしてあるドラグが短くうめいた。

だが、それっきり。まだいける。フックアップはしていない。まだ釣れる。

 

それから数十分後、同じく「ガ!」というバイト、バットまで一瞬曲がる。

またしても、ノらない。何故だ。

 

そして、それから間もなくして、「ズン!」という上からのしかかるようなバイト、反射的に短く、鋭くロッドをあおる。

「フッ・・・。」

椎葉ダム ランドロックサクラマス

「ぐぅわぁ!!!」

思わず吠えて、へたり込んだ。抵抗なく、上がってきたPEの先にリーダーはなかった。ここぞとばかりに結んでいたアンサーの14gのB5カラーは戻ってこなかった。まさか、ここですっぽ抜けるなんて。。。

一部始終を見ていた隣のアングラーに長々と、独り言とも愚痴ともつかない話しをしていた。まさかの凡ミスだ。悔やんでも悔やみきれない。何をやっているんだ。。。

 

案の定、この後、明らかに潮目が変わった。水中からの微細な信号はピタリと止んだ。こんなものなのだ。あの瞬間に全てをチェックして、集中して臨まなければならなかったのだ。

山々 神話街道 景色

帰りながら、この日を振り返る。悔しさが波のように繰り返し迫ってくる。

気分を換えるために、いつもと違う道を通ってみる。

「ひむか神話街道」というかなりの高所を通る道。途中、景色の良い場所に車を停め、清潔な空気の中、煙草を一本、深く吸った。

 

ちなみに、G線上のアリアの「アリア」の意味はもともと、叙情的な独唱曲、ということらしい。そしてその綴りは、英語では”Air”、空気、大気と同じだ。

こうやってトライ&エラーを繰り返すのが釣りの愉しみなのだ。この日自分がうめき出した叙情的なアリアは煙草の煙と一緒にこの場所で大自然のアリアに還元してもらおう。

 

こんなことを考えながら、夕暮れが迫りつつある山上でまだ少しだけくすぶりが残る心を無理矢理押しつけながら、再びハンドルを握り、運転を始めた。

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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