BUENA VISTA

邂逅

強い思い出というものは、心の中で熟成されるまでは言葉に表さない方がよい。

何回も何回も反芻(はんすう)し、それが蒸留酒のような美しい色合いと香りを放つまで栓を開封してはならない。

これがいつものように自分1人、または気心の知れた数人との体験であればこんなに時間は掛からなかったように思う。とにかく今回は軽々しい物書きだけはしたくなかった。それが来てくれた多くの方々に対するせめてもの礼儀だと思うから。

湖畔 人影

藤井くんと開会式場のセッティングをしながらまだ青黒い湖面に目を落とすと、レインボーの殺気だった「ザッ!」「バシュッ!」というライズが数分おきに繰り返されている。そしてしばらくすると薄暗い湖畔でキャストを繰り返すフライフィッシャーから「うをっ!!」とうめき声が届いてきた。

「どうしました?」

「いや、ヒットしたんだけど、バレてしまいました。」

狙ったとおりだ。きっといい日になるだろう。そう思った。

トラウトアングラー

3回目となるテイルスイングのスプーンサミット、”Without haste, but without rest”。たくさんの人たちがそれぞれの想いとタックルを持ってきてくれた。遠くは東京、福岡、熊本、それと地元宮崎。合計14名の参加者。
そもそも多くのアングラーを集める気がないこの大会ではおそらく最大規模の人数だろう。

皆川 哲 スカジットデザインズ

何より今回は、あのスカジットデザインズの皆川 哲さんに来ていただいた。伝説的なトラウトルアー、チップミノーに代表されるまさしく日本ルアー界の生き字引、リビングレジェンドと言ってよい方。色んなご縁に恵まれてこの日を迎えた。参加していただけることが決まった時から、自分たちの間には心地よい緊張と興奮が漂っていた。

やっぱり同じ出会いであっても、「行く」と「来る」というのは全く違う。

所詮、一介のアマチュアの集まりに過ぎない我々のところに、西の果てのあんまり釣れない湖に、生粋のプロフェッショナルにわざわざいらっしゃるのだ。その意気に応えたい。
出来る限りの心と頭と手足を使って、幸せな時間をプロデュースしようと思った。

TailSwing SpoonSummit

仲間たちと協力しあって、数ヶ月前からゆっくり、しかし確実に準備は進めてきた。みんなもちろん手弁当。共通していたのは、皆川さんはじめ、わざわざ来てくれる人たちへの精一杯の「ありがとうございます。」だった。本当にそれだけだった。手前味噌だけど、本当にいい仲間たちだ。

TailSwing SpoonSummit

協賛していただける企業様からも、快く景品を出していただいた。東京のAnglo&Companyからはレザーワレットを。新潟のサトウオリジナルからは特大のスプーンを。
広島のアートフィッシングからいただいた常見 忠さんの自宅にあったマスターアングラーとマジックの手書きで「12」を「13」に直されたマッカランは昨年キャリーオーバーになった賞品だ。

そして皆川さんも参加者全員に渡してもあまりある数のテッペンスプーンや宮崎の海でも、とシイラ用のリップスライドという大型ミノーまでをも持ってきていただいた。

宮崎県 ロッキー

この日ばかりは、本当に、自分が釣りたいという気持ちはなかった。
どうか、皆さんに1匹でも多くの出会いが訪れますように。御池の神に心で祈った。

TailSwing SpoonSummit

簡単なレギュレーションとポイント・狙い方を説明して、「それでは、スタートフィッシングです。」と告げる。

アブ 505

開始直後、ご本人によると一投目だったとのことだったが、遠路福岡からいらっしゃった明石さんのABU505がうなった。

アブ スピニング

「バッ!!」と短く太く響いてきた音は40オーバーが水面を割るサウンドだった。もうここで何度も聞いてきた、間違いなかった。
「惜しかったですね~!!」
「まさか、1投目でくるとは思ってもみませんでした。」

宮崎県 御池

しかし、この後が続かない。
なるべく多くの人に声を掛けて、写真を撮って、コミュニケーションを図ろう。
そう思いながら笑顔で湖畔をウロウロしながらも、段々と嫌な予感が押し寄せてくる。

御池 フライ ニジマス

時間が過ぎてゆく中、突如、「おおっ!?」と誰からともなく響いてきた声に驚き振り返るとロッドが美しいベンディングカーブを描いている。ただし、我々の近くで釣っていたフライフィッシャーの方のものだった。朝一番でヒットさせた方だった。

御池 フライ ニジマス

浅瀬でランディングされたのは40弱の美しいレインボー。
参加者からもねぎらいと祝福の声が掛けられる。

しかし、同時に自分は嫌な予感が的中しつつあることも感じていた。

レインボーたちは間違いなく目の前をクルーズしている。試しに自分がキャストしてみると、時折「ブルンッ」とか「ブブブ」という前アタリが感じられる。ただ、それも1~2回で止まる。多くの人がスプーンをキャストし続けたことでいつもよりもかなり速くスレが進行している。

同じポイントでよりナチュラルなフライにバイトしているのはその証拠なのだ。

そう確信してしばらくすると、もう1匹同じポイントで同サイズのレインボーがランディングされた。またしてもフライフィッシャーの方だった。

トラウト ダナー ブーツ

ストレスが胃を刺激してくる。自分は遊漁船の船長にはきっとなれない。
昨年のこの大会でも参加者全員ノーフィッシュだった。
2年連続というのはイヤだ。
藤井くんは「それでいいんですよ。」と何だか悟った風に言ってるが自分の心には響かない。誰か釣ってくれ、誰か。頼むから。
釣った人の笑顔が見たいじゃないか。

アウトドア

トラウト アウトドア 湖畔

本当に救いだったのは参加者全員が美しい大人だったことだ。
釣れない時間を思い思いにちゃんと楽しんでくれていた。

年代物のストーブでお湯を沸かす人。
ほとんどロッドを振らずに1日中湖畔でビールだけを飲み続けて、大声で話し続ける人。
草っぱらに寝ころんで談笑する人。
皆川さんは、ヒダカツリグテンの日高さんたちと近くの美味しいラーメン屋に食事に出掛けた。正直ホッとする自分がいた。

トラウトタックル

ハーディ スピニング ロッド

それから先はあっという間に時間が過ぎていったような気がする。15時、タイムアップ。誰1人として釣れないことに不満を言う人はいなかった。

しかし、「画竜点睛を欠く」の諺どおり、立派な竜の絵は描き上げたが、最後の仕上げに眼を入れることはできなかった。
正直、疲労困憊だった。

トラウト 夜会

そして夜の部。ここからは仕切りをバトンタッチ。もう外れはない。
心強い仲間が万全の準備をしてくれていた。「ビストロ スージーズ」開店。

トラウト アングラー

(株)みやざきフーズを経営している中平くんからは馬刺しを始め、高級肉を多数提供してもらった。

トラウト アングラー

そしてこの男、スージーさん。TailSwingが誇る名シェフ。ちなみに仕事は飲食業とは全く関係ない。にもかかわらず、10人以上のコース料理を一手に引き受けた。しかも、1ヶ月以上前から、椎茸の原木から始まってこの日のために黙々と、誰に頼ることなく準備をしてきた。このホスピタリティ、心底頭が下がる。

メニュー アウトドア トラウト

刺身 宮崎県

馬刺し

アクアパッツァ

料理人 TailSwing

狭くて小さいバンガローのキッチンで馬刺し以外の料理をたった1人で切り盛りするなんて、下手に釣りが上手いことよりはるかに人を幸せに出来る才能だ。

しかし。

とても申し訳なくかつ情けないことにまだまだ未熟な自分は、昼間の疲れから9時には2階の布団に倒れ込んでしまった。

皆川さんが自分の話しを楽しみだ、と言ってくれたにもかかわらずこの体たらく。

その間約4時間。中平くんに叩き起こされた午前1時までに皆川さんが仲間にしてくれた話しの数々。

皆川 スカジットデザインズ 藤井 TailSwing

家具職人だった頃の話し。

パタゴニアの入れ食いの話し。

狼が好きだという話し。

パーカッションで盛り上りたいという話し。

チップミノーのフックに金メッキが施してある理由。

新潟のマウンテンクリークハウスの話し。

強烈なロシアのガイドの話し。

そして何より、多分この場にいらっしゃっていたであろう、亡き松田さんの話し。

その1つ1つが仲間の心に深く刻まれていることは、仲間の表情と語り口から、ビールと、日本酒と、焼酎と、ワインと、マッカラン13年にヒタヒタに浸された自分の頭にも美しく響いてきた。多分、一生の宝物だったことだろう。

こんな西の果てにいらっしゃっていただいた皆川さんからいただいたものは、この湖と同じく、まさしくブエナビスタ(絶景)だった。

最後に。

今回ご参加いただいた皆様、この神さびた湖にぜひまたいらっしゃってください。滅多に釣れない湖だけど、今は新燃岳の噴火で難しい状況だけど、ここはきっと西の聖地にふさわしいフィールドです。人生の欠かせない思い出をくれる湖です。

どうぞ、また。

************************************

・SKAGIT DESIGNS 皆川 様
HP http://skagit.co.jp/index.html

・SATO ORIGINAL 佐藤 様
HP http://www.sato-org.net/

・Anglo&company 菅沼 様
HP http://www.anglo.jp/

・ヒダカツリグテン ミッチー 様
https://www.facebook.com/HIDAKATURIGUTEN/

・株式会社みやざきフーズ 中平 様
HP http://miyazakifoods.com/

この度は本イベントに協賛賜り、誠にありがとうございました。

2年連続のボーズとなりましたが、今後もあきらめず、くさらず、粘り強くエッチラオッチラと続けていく所存でございます。

今後とも、西の聖地を創るための活動にご協力いただけると幸甚です。

全ては、後進に美しい釣りを引き継ぐために。

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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