Dream Come True(東洋式疑似餌釣研究所)

東洋式疑似餌釣研究所 傑作選

「生粋の」とは正真正銘の、とか、混じり気のない、という意味だ。

そう言った意味で彼こそは正真正銘の、混じり気のない釣り師だろう。まだ40代半ばなので、一生を、とは言わないがその半生の多くのエネルギーを釣りに費やしてきたに違いない。多分何か目に見えないものに吸い寄せられるように。

関根氏のブログ、「東洋式疑似餌釣研究所」をデジタル書籍にするという話しは随分前から聞いていた。そして、氏の誕生日に発刊するという管理人の小粋なはからいに少しだけ感心しながら、校正も兼ねて一足先に読ませてもらった。

それは一言で言い表すと、疑似餌釣り師の嗅覚をときに優しく、ときにキツく刺激するエッセイ集。

読み進めてゆく内に、鼻孔の奥からアロマのように様々な香りが次々と湧き上がってくる一冊。

御池 冬空

早朝、流れがとどろく本流の河原の朝つゆの香り。

真夏の夕方、バス狙いで訪れた野池のブッシュの草いきれ、とろりとした沼の甘ったるい匂い。

真夜中の河口、潮と文明の分泌物が混ざり合う、ある種の哀愁を感じさせる芳香。

交通手段が乏しかった幼少期、近所のフィールドに思い切り急ぎながら自転車をキコキコとこぎながら、吹き出す汗のにおい。

自分の記憶と重ねて合わせて湧き上がる香りもあるし、自分はまだ見ぬ彼が訪れた全国津々浦々のフィールドのそれもイメージとして鼻の奥に拡がってゆく。

御池 冬空

40代以上のルアーアングラーなら分かる人も多いだろう。その昔は何故だか分からないが、釣り道具にもそれぞれ違う香りがしていた。

一番は何と言ってもワーム類だろう。ほんのりグレープのような香りがしたトーナメントワームやジェリーワームはある種青春の薫りだった。

他にも、ストレーンの粉がふいた黄色のラインが放つなぜか香ばしい匂い。
プラグ類までもがそのメーカーが特定できるようなにおいがした記憶がある。

そんなルアー黄金期の愛らしい道具たちを柔らかく、優しく思い出させてもくれる。

御池 湖面

かと言って単純にソフトなエッセイ集では決してない。
時に辛辣に釣り人の姿勢を指摘し、時にこの国の段々と荒廃してゆくフィールドの将来を憂う。単純に釣果だけを求めているのではない。やはり釣りというものを文化として捉えている。

漁師ではない。職業ではない。釣り師という遊び人の持つべき矜持(きょうじ)を切々と説いている。

常に真摯に、本質を求めてその身を削りながらフィールドに対峙してきた証なのだろう。

トラウト スピニングリール

一通り読み終え、心にある残り香に酔いながらいつもの湖に出掛けた。
こんなのを読んじまったら、そりゃ行きたくもなるだろう。

トラウト ウェーディングシューズ

そしてついつい自分自身を彼と照らし合わせてしまう。
元々、音楽が大好きで、若い頃から楽器7、釣り3くらいの割合だった。

大学時代から20年くらい楽器を続けていたけど、ふとしたことでピタリとやめた。愛機だったテナーサックス、セルマーのマークⅥはプロミュージシャンの弟の家で眠っている。

タラレバを言うのは大嫌いなのだけれど、心の残り香が問いかけてくる。

「もしアイツみたいに、釣りに没頭していたらどうなっていただろう?」と。
それはきっとある種のジェラシーだったと思う。

パラゴン アングロ トラウト

いそいそとタックルをセットしながら頭の中でゲームプランを確認する。
あまり長い時間は出来ない。ただ、自信はあった。ポイント、時合い、レンジ、リトリーブ、アクション。多分こうだろうというものが全て揃っていた。

御池 ニジマス スプーン

果たして、狙い通り、ドンピシャで出てくれた。会心の1匹だった。

御池 アンサースプーン ニジマス

しかし、何だろう。少し冷めている自分がそこにいた。

さて、どうするか。もうこのパターンは多分掴んでしまった。

アイツだったらこんな時どう言うかなあ。

もしかしたら、「もういいんじゃないですか?まだ見ぬ魚を探してみたらどうですか?」

何となくそんなことを言いそうな気がするな。そろそろ違うアプローチをしてみようかな。狙いたい魚に絞って、またやってみようかな。

そんな気持ちになった。

トラウト アンサースプーン サトウオリジナル

でも、まあ、この年になってこんな刺激をくれる友人を持てたことはとても幸せなことなのだろう。とりあえず素直に感謝しとこうかな。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ルアー釣りを始めたばかりの人、数年やっている人、数十年のベテランの方。

それぞれに応じて、きっと心に響く、フィールドの薫風を届けてくれるエッセイ集に仕上がっていると思う。

きっと彼は、この本を読んだアングラーに彼が感じてきた美しく、優しく、時に厳しく、またなつかしい、そんな何かが一つでも伝われば、それで本望だろう。

彼の夢とは、きっとそういうことだ。

アングラー 夢

さて、自分の夢は。あなたの夢は。

ゆく年くる年、2018年、釣りバカたちの夢が1つでも多く叶いますように。

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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