Eye of the Beholder

釣りキチ三平 スプーン「こんにちはぁ!」

なつかしい顔が変わらない満面の笑みでこちらを見ている。突然の来訪だったが、思い出深い男だからちっとも嫌な気はしない。

「おう。元気だった?」

「はい!おかげさまで!」

「で?今日は?」

「松本さん、釣りされてましたよね?こんなのが手に入ったから、気に入るかなと思って。」

釣りキチ三平 スプーン 矢口高雄 オリジナルカレンダー

「え!? すごい。これどうしたの?」

「いや、会社の上司が矢口先生と仲良くしてるみたいで。たまたまもらったから持ってきました。サインは直筆ですよ!」

「えー! いや、嬉しいよ。本当にありがとう。」

釣りキチ三平 スプーン 矢口高雄 オリジナルカレンダー

嬉しくないわけはない。釣りキチ三平といえば小学校の頃から読んでいたバイブル。ルアーフィッシングとか、そんなのを越えて釣り自体を教えてくれた漫画。自分の背骨、肝の一部分だ。

フナ釣りのシモリウキがモゾっとする様子。渓流のヤマメ釣りで羽の目印がクルクルと回り、ヒュっと引き込まれる状景。そしてレインボートラウトがとりわけ好きになったのもガルシア・コノロンとミッチェルの組み合わせで、スプーンで、湖で釣る様が格好良かったからだ。

釣りキチ三平 スプーン 矢口高雄 オリジナルカレンダー

釣りだけではない。一人の純真無垢な少年と、様々な経験をしてきた大人たちの交流が押しつけがましくなく自然に描いてあった。読みながらぼんやりと社会勉強をしたような気になったものだ。今でも小学生が読めるこんな漫画が他にあるのだろうか。

カレンダーを受け取り、彼の姿をさっと見つめた。会ったのはおそらく1年ぶり。だいぶ苦労したのだろう。あの時よりスラックスのヒザがくたびれているのが少し気になった。

御池 朝焼け

普通とは違う特別な能力を持った人間というのは、大抵その瞳に何かしら現れるものだと思う。

こちらの体温まで上げてくれる情熱を持ったまなざし。日本刀のような冷徹な切れ味を感じさせる眼光。まるで相手の背後を見透かすような、焦点が合ってない不思議な視線。

そして、彼の瞳は出会ったときから左右真逆の色合いをしていた。
目の前の人間を楽しませようと明るくクルクル輝く右目と、冷ややかに、ねめつけるように観察する左目。

太陽と月の光を左右それぞれに宿す男。

出会ったのは大体5年前。まだ20代の始めの年頃だった。彼は確かに普通ではなかった。

金メダル

とある全国大会。宮崎県の代表で51年目にして、初めて金メダルを取ったのだ。文字通り半世紀ぶりの快挙だった。
しかも、成績発表前日の懇親会の席上、大物政治家を目の前にして笑顔で言い放った言葉。

「明日は、金を獲ってきます!」

そして翌日、その通りに彼は表彰台の頂点に立った。
20代前半にしてこの観察眼。大の大人を手玉に取るとんでもない男だった。

しかし、彼はその後まもなく転職した。それも全く違う職種に。
その笑顔からうかがい知ることは出来ないが、相当な苦悩と覚悟があったことだろう。

そして、それから折に触れ、彼は時々自分に会いに来てくれる。
厳しい営業職。決して楽な仕事ではないだろう。時折かいま見せる苦みばしった目の光がそれをうかがわせる。

霜

好むと好まざるとに関わらず、人は人生において多くの選択を迫られる。
なぜなら全ての人間に与えられた数少ない平等なもの、過ぎ去る時間の速さがそれを要求するから。

人は皆その眼で見定めて、自分の腹わたに問うて、選び、進まねばならない。

太陽と月の目を持つその男は日本の若者の頂点を極めた後で、別の道を選んだ。

「がんばれ。」などと先輩ぶってえらそうに言うつもりはない。自分だって多かれ少なかれ同じなのだ。2倍近く年を取ってはいるけど、同じなのだ。

御池 ニジマス スプーン

彼の贈り物に対する返礼としてコラムを書こうと思った。
出来れば虹色の魚体を添えて。
そして、だいぶ苦労したけれど、ついに今季初のレインボーに出会うことが出来た。

自分は自分で、釣りに人生の一部分を投影させてるんだ。ただ楽しいだけじゃないんだ。それを伝えたかったから。

サトウオリジナル アンサー ニジマス

ヒットルアーはサトウオリジナルのアンサー11g、GKYカラー。

サトウオリジナル アンサー ニジマス

もはや自分の血肉になったこのスプーン。また一緒に時を刻む季節がやってきた。

御池 ニジマス スプーン

43㎝という体長とは裏腹に、まだまだあどけない顔。レッドバンドの下にはうっすらとパーマークも残っている。そして何よりでっぷりとした腹。おそらく大量のベイトを捕食してるのだろう。

御池 ニジマス スプーン 尾びれ

尾びれだってまだまだ発達途上。この湖によく見られる体型だ。

御池 ニジマス スプーン

御池 ニジマス スプーン

このまま大きくなって欲しい。そして、またどこかのアングラーの思い出になって欲しい。

アングロアンドカンパニー パラゴン

あのときの彼のことを思い返す。

「で、仕事はどうなの?」

一瞬のためらいの後、

「はい!おかげさまで何とか順調になってきました。」

多分、きっと本当なんだろう。そう感じた。
「そうかぁ。良かったよ。それが一番良かった。」

右手を差し出し、握手を強く交わした。彼の眼が少しうるんだように見えたのは気のせいだろうか。

御池 林道

まあでも、どうと言うことはない。

結局、男なんてものは馬鹿やりながら、笑いながら、それでいて腹の中には冷たいものを抱えたまま前のめりに野垂れ死にできればそれでいいではないか。

彼なら、こんな言葉も笑顔で受け取ってくれるだろう。

そしてその左右の眼を見開き、しっかりと道を見据えながらやっていくだろう。

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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