Father’s day fishing

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山女魚 ファイト

瞬時につたい、すべり落ちるさらりとした水から、その粘度に張り付く液に変わる。その隙間には熱を帯びるのだが、そのためにぼんやりした思と考の境にいて、躍るスプーンと水辺を夢想するのも悪くないものだと強がってふけってみる。

長引く風邪、こんなのは数年ぶりだ。

気が抜けたのか、連日の酒が祟ったのか、何かにあてられてしまったか。あれこれと記憶から因果をたどってみてはいるものの、どれも決定打とおもえず、そのうちに考えることをそっと放り投げた。

「今がラストタイミングです」

思いがけずもらった父の日のプレゼントは釣行許可。近場でキャストと流し方を見直すつもりだったけれど、連絡した相手が手練でウワテな人なのだから、ほいほい乗っけられてしまう。

「20年ぶりで、もう来年以降行けるかどうかわかりません」

「それは行くしかないでしょう」

そんなわけで、関東でも奥地へ数時間のドライブ。目指すところは標高1000メートルほどの場所になってしまった。しかし、彼ほどの大河を遡った先の水源であればその場所を見てみたい、それでこそ想いや理解は深まるものだ、どうせ行くならふさわしい場所へ。

関東 渓流 木々

渇水の流れから視線を両脇に向ければ、軒並みに現れる鮮やかな緑と、また違った緑へ視線を進める先にとうとうと豊かな木々を纏う山が、安らぎを圧倒の中に据えて広がっている。

ここに通っていたのか。関東というイメージと対極にあるような連綿と続く自然の情景、彼の鱒釣りにおける源流はここにあるのだ。

関東 渓流

「もうやってないな、そりゃそうだよな」

当時はここで遊漁券を買えたんです、と言われた店先。小屋。20年という歳月が変える必然の今に、脳内の思い出を残しながら”現在”へと塗り替えていく運転席の横顔は多くの感情が見え隠れしているように思える。

なんとか開いてる店先へ行き、奥からゆっくりとでてくるお母さんと話もそこそこに券を買う。

「あそこで遊漁券売ってたおじさんは今も元気ですか?」

「もう歳だからね、最近は見ないよ、90ぐらいじゃないの」

「そうですよね~」

関東 渓流 アングラー

当時はルアー釣りのことをスプーン釣りと言っていたそうだ、ルアー=スプーン。そんな時代もあったのかと、感じ入ると同時に、確かにスプーンは単純なカタチで光輝き、絶対に餌とは見えないから「ルアー釣り」と言うよりも説明不要でわかりやすい表現だったのではないか?と考えた。

はじまりと、行き着く所はシンプル。誰が言ったかどこかで読んだか、ふと浮かぶ。

整えた装備にまずは下りながら探る。私はもちろんスプーンなのだが、横を見れば7cmや9cmのミノーがぶら下がっていた、それも海用の。

「この色は淡水のルアーにはないんですよ」

軽くラインを張れば、なるほど、と納得の動きを見せる。そりゃ、釣れるから使うのだ。

関東 山女魚

山女魚 傷

反応は全くない、ひとしきり下ってから、次は上り始める。

違和感があった、何かが違うと。それなりの人的プレッシャーももちろんあったのだろう。下りはめぼしいところをサクサクと流していたが、遡行では一つ一つの岩、石、えぐれを丁寧に流していく。時間はかかるが、反応が得られないことには仮説もなにも立たない。

その間、そんな私を尻目にしっかりキャッチした一尾。

銀鱗を散らした躯に荒々しさを覗かせる顔。過去と一緒に訪れたこの場所でのファーストキャッチ。何も言わないけれど、想いは巡っていることだろう。

そんな空気と魚をシャッターで切り取る。

本流 山女魚 アングラー

勢い良く飛び出した”奴”がピックアップ直前のスプーンを襲う、水面から腹と尾鰭を出して・・・去る。ほんの一瞬、驚きと喜びと悔しさの声が短く、強く漏れる。

やっぱり、いる。それも中々のサイズだ。しかし、頭から違和感は離れなかった。

その後、数投したものの反応がないのでミノーなら、と思って声をかける。やる気充分だったから、きっといけるだろう。

しばらくするとやはりヒット。それも大きそうだ、かなり走られている、曲がる竿の先は上流・・・?え、上に走ってる。と思うと下流へ走り出した。何がヒットしたのか、その動きに見ているだけで逸る心とやけに真剣な彼が交錯した次には、たらりと垂れたナイロンに直線へ戻った竿が起こった”こと”ではなく”終わり”を教えていた。

「石で切られました」

アメとムチじゃないが、キャッチ後の手厳しい挨拶だ。おそらく私にバイトした魚ではないだろう、そこまで引くことはないと思う。が、これも釣り、次の機会を得るべく、キャストを続ける。

すぐにダブルラインにしている姿には、若干の凄みが滲む。

渓流 山女魚 スプーン アドロワ

それから、珍しいダブルヒットを含め、同じ場所から2本出すなど、成果はそれなりにあった。そして違和感についてのヒントも得られる。

私のスプーンにヒットするサイズは明らかに小さい。

渓流 スプーン ミノー 山女魚

この画像は立ち位置が近いだけで流す場所が違うのだけれど、同一の場所でも同じ差が見られた。

あくまで仮説であるし、今回の状況での話に過ぎないが、違和感とはアクションのスピードが魚にマッチしていない感覚だったのではないかと思う。口を使わないのには理由があるはずで、先に投げても小さいサイズが釣れてしまうというのも同様に何かがあるのだろう。

泳層はほぼ変わらない、淵なら若干の浮き上がりなどで違いはあるだろうが渓流、それもいい感じの深みはスプーンのほうが沈められるし、ダウンクロスで流しやすい。

あのミスバイトで反転して去っていった魚、浅く押しの強い流れのアップクロス、その中でスプーンがアクションする速度で巻いているのでかなり早めのスピードだ。しかし、これでは遅いのだろうと感じる。横移動の遅さでなく一瞬の移動距離。いわゆるトゥイッチを入れたミノーの閃く移動スピードとストップだろう。相手が山女魚ということもあるのだが、リアクションバイトさせることができなかった。全ては自分に問題がある、捕食や攻撃が下手なのではない、その魚にマッチさせられなかっただけなのだ。

確実によいサイズの魚もスプーンを見ている、なぜなら同じところに投げているから。それでも、スプーンにはヒットしていない事実。これは二人釣行、さらにルアーが違うことの利点だ。きっと一人ではそこそこ釣れたということで終わっていただろう。

山女魚 スプーン 渓流 アドロワ

では、スプーンをトゥイッチしたらどうだろうか。と思った時にはタイムアップ寸前で結果を知ることができなかった。

ただ、経験上あまりマッチしなかったのではないかと考えている。今後このような展開でどうスプーンを使い切るのか、全く違うアプローチをするのか、近い動きが出せるようにするのか、試行錯誤の愉しみがまた増えたことが嬉しい。

山女魚 リリース

その姿を追いかけて、はたと気づくことがある。そこに立っていることがとても自然に見えるのだ、元々そこにあった木や岩のように溶けている。見ることを意識しないと消えるような存在感は、ひとつの境地なのかもしれない。

投げる所作、合わせから取り込みまでもそう感じさせる。私なら興奮や炸裂するような心臓、歓喜の渦のその時も、ただ流れる水のように自然にゆるやかに、逆らわない。

ミッチェル308 カルカッタ パラゴンG

お気に入り、想いの詰まったタックル。並べてふたり話す休息の時間は紫煙と幸せに立ち昇りながら薄く消えゆく。

まだ明るいが、帰宅時間を考えると終わりだ。少しの心残りは、またこの場所に来る理由として使うとしよう。

渓流 スプーン

結局、焦りながら予定より2時間も遅れて帰宅。

さらに予期せぬ家族からのプレゼントに風邪とは違う鼻水をかんで、父の日は閉幕す。

 

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藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

投稿者プロフィール

渓流~海までどこでもスプーンを投げる。
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