Headwaters

 

アングラー 飲み会

年の瀬のある日、友人たちとの楽しい語らいの間、実はずっと1人で考え込んでいた。

昨年、ダーデブルのみで釣る、というイベントをやって、それなら今年は和製ルアーの源流でもある「バイト」シリーズ、「マスター」、「ギンザン」、「ダムサイド」、いわゆる「忠さんスプーン」でのイベントをやろうと話し合っていた。

そして、意を決してまだ夏の名残が残る初秋、現在の製造元であるアートフィッシングに打診したところ、誠にありがたいことに快諾をいただいた。

ウィスキー トラウト

その後、少しのタイムラグがあって、自分の中にある種のプレッシャーが湧き上がってきた。
まだダーデブルは良かった。100年の歴史があるとはいえ、そもそもそれを最初に作った人を知らないし、初回ということで勢いでやれたし、何となくアメリカンな感じでやることが出来た。

しかし、今度は開高 健と常見 忠が関わってきたルアーである。かたや芥川賞作家であり、歴史的な文豪。かたや日本ルアー界のパイオニアである。小さい頃から見聞きして、影響をいっぱい受けてきた。

果たして一介のしがないサラリーマンで、ただの週末フィッシャーマンに過ぎない自分がそんな大それたことに関わって良いものか。

メニュー表

特に、開高さんのうめくような、ひり出すような、それなのに胸がしめつけられるように鮮やかで美しい単語の配列は、まだ丸坊主だった頃から自分の人生観に大事な色彩感覚を植え付けている。

「そもそも芸術とは反自然行為ではなかったか。釣りを芸術と感じたいなら自然主義を断固としてしりぞけなければならない。釣りを生業とする漁師なら話しは別だが、遊びで釣りをする”芸術家”なら、もっと次元の高い、むつかしい道に愉しみを発見しなければならない。少なくとも魚と知恵くらべ、だましあいをして勝敗を競うようでないといけないのではあるまいか。」

小さい頃はバスフィッシングに狂っていた。なけなしの小遣いで最初に買ったベイトリールは常見さんが愛用していたシマノのバンタム100だった。それを重い重いグラスのベイトロッドに付け、黄色いストレーンの4号を巻いて、蛍光色のマグナムトーピードで15mくらいキャストして釣った20㎝くらいのバスが最初だった。

あの頃のルアーは良かった。間違いなく、開高さんの言う芸術性があった。反自然だけれども、愛嬌があって、愛着が湧いた。

ワームはあくまで非常手段だった。ガキながらにそんなこだわりがあったのも、きっと開高さんの影響だ。職業漁師ではないのだ。そんなプライドめいたものが心にしっかりとあった。

決定的にバスから離れたきっかけはメガバスとツネキチリグが流行し始めたことだった。極私的なことだけど、そこには”芸術”はもうないように感じられた。もはやそれは漁具に見えた。

アートフィッシング カタログ スプーン

常見さんが創り、開高さんが命名したバイトシリーズが誕生したのが1973年。まだ自分は3歳だった。
40年以上経って、源流は大河となり、いくつもの支流をたたえている。
それくらいこの国のルアー界はあふれんばかりの品揃えだ。

でも、何だか、少し息苦しい。「釣って嬉しい」より「釣れるから嬉しい」ものが大抵のジャンルでメインストリームになっているような気がする。

モノと情報の多さに、釣りにあるべきダンディズムが負けてはいないだろうか。

バー ライト

戦後を生き抜いてきた昭和の男たちには、今の時代にはない骨太さを感じる。
とにかく無闇に行動して、食べて、呑んで、思索と試行を繰り返し、散っていった先輩たち。
インターネットは欲しい情報は即座に、大量にくれるが、その人に本当な必要なものからは逆に遠ざけてしまいがちな媒体なのではないか。

現代の、見た目だけは妙にきれいだけど、落ち着きと力のない眼をした男の子たちを見るとそう感じる。

バイトは今でもアートフィッシングで手作りで作っているらしい。
自分が大好きなサトウオリジナルもそうだ。

こんな時代だからこそ熟練のアルチザンが熱と魂を込めて作ったスプーンに想いを乗せて、湖の1本の杭となり、美しい森羅万象と対話する。
釣れても、釣れなくても、こんなに満たされる孤独はそうそうない。

バーのカウンターで天井を眺めながら、プレッシャーが昂揚に変わるのを感じた。

御池 朝焼け

場所は去年と同じく御池。
年明け平成29年1月7日に行う。
この時期の御池は他の季節よりも特に清らかで美しい。

話しは変わるが、タイミングというのは恐ろしい。このバーで呑んだ翌々日、とあるフライフィッシャーから電話があった。この上なくこの湖を愛している御仁だ。

かなりきつく諭された。内容は書かないが、要するに、やるなら徹底的に、きちんと釣りをして、それをちゃんと周りに伝えなさい、ということだった。

本当に久しぶりに胸にどすんと来て、でも叱咤激励されているような気もして嬉しいような、重いような、変な気分だった。この年になって、こんなに正面から人に叱られることなんて、そうそうない。

この神さびた湖にはやはり何かあるのだと思った。

御池 朝日

開高 健と常見 忠。この2人が源流となった日本のルアーフィッシングは単に一つの漁法ではなかった。

ジェントルマンシップとスポーツマンシップに身を包み、心では釣りの芸術性を求めるために確固たる哲学を体現することなのだ。

初めての日本製ルアーで、日がな一日美しい魚を目指す。
釣れる確率は決して高いわけではないけど、現代にはこんな道楽こそふさわしい。

「成熟するためには遠回りをしなければならない。」

開高さんのこの言葉の意味をかみしめながら、最高に贅沢な時間を過ごそうと思う。

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松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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