Roots

 

渓流

身体を悪くして随分時が過ぎた父親に話しかけた。

「ほら、小さい頃よく連れていってくれた渓流で釣れたヤツ、オレンジ色の朱点があって、アマゴかと思ってたけど、もしかしたらまだ知られてないヤマメかもしれないんだってよ。大学の教授がそう言ってた。」

車イスに乗って、あまり上手にしゃべれない彼は、パソコンの将棋ゲームに向かいながら顔を少しだけこちらに傾けて、

「おぉ。。。うん。。」

とだけつぶやいた。

朝焼け

ヤマメのルーツ。自分自身のルーツ。

2つのルーツ。

最初に渓流釣りに行ったのは、小学5年生の頃だったと思う。

今なら実家から30分程度で着く渓流は、まだ道が悪かった当時、ゆうに2時間くらいはかかっているように思われた。

ぜん息持ちで体が弱く、しかも車に酔いやすかった自分は、ヘビースモーカーで筋骨隆々だった父親があたり構わず運転席で吸うセブンスターの煙にやられ、いつも釣り場に着くまでにグロッキーになっていた。

それでもノベ竿を持って、釣り針にミミズを刺すとどこからともなくパワーが湧いてきて、えっちらおっちら、後を付いていった記憶がある。

様々な釣りを教えてくれて、自然の厳しさ、美しさ、楽しさの原風景を与えてくれたのは、紛れもなく彼だった。

渓流

あの頃、秘境をどうどうと流れる大河のように感じられた流れは、今訪れてみるとそれほど高くない山の中腹を脈打つ何の変哲もない渓流だ。

ほんの数キロしかない流程、一体あの頃釣ったのはどのあたりだったのだろう。

最近は昔を懐かしんで年に数回訪れるだけの小渓流だったが、つい最近出会った大学教授の一言に心が動いた。

「アマゴの放流実績がない渓流で、微妙にボケていたり小さな朱赤点を持つのは、大昔から息づいてきた在来のヤマメの可能性があります。」

原種 山女魚 天魚

パソコン内のフォルダをあちこち探して見せてくれた1枚の写真。
「これこれ、この感じのヤマメです。調べたらアマゴのDNAとは全く違うんですよ。」

瞬間、違和感がなかった。
「それ、何回も釣ったことがありますよ。○○町の○○川というところです。」

え?あれがそんな珍しい「ヤマメ」なのか。

あの川だ。昔から今まで何の気なしにいつも釣っていた魚と同じだ。

「そうなんですか!あの辺りは確かにいる可能性が高いですね。宮崎は県外から持ち込まれたヤマメがそれほど多くなくて、まだまだ色んな可能性があるんですよ。」

ふと幼い頃、釣れたのが嬉しくて嬉しくて、家にあった魚類図鑑をバカみたいに見つめていたのを思い出す。

「お父さん、これアマゴ?」
「そうやな。赤い点々があるじゃろ?これはアマゴじゃ。」
「へえ~。ふぅ~ん。」

図鑑をめくる指先にはまだほのかにミミズの香りが残り、昼間通り過ぎた豊かな森の香りと相まって、かけがえのない思い出となっていった。

バイト スプーン 目

そしてほぼ同時期、ルアーフィッシングに出会う。
まだフィンランドやスウェーデンやアメリカのルアーが市場を席捲していて、国産ルアーは数えるほどしかない。

トビーや、ドロッペン、ダーデブル。ラパラやレーベル、ストームが舶来の薫風を漂わせながら田舎の釣具店に陳列されていたのを鮮明に覚えている。

半ズボンによれよれTシャツの少年は、買うわけでもないそれらを手に取っては眺め、また元の場所に戻していた。

「こんなので魚が釣れるのかな?」

幼い心に浮かんだ疑問はすぐに、「こんなので釣りたい!」に変わっていた。

あの頃のルアーには愛嬌があった。愛着が湧いた。

ふと思い立って、去年のイベント(Master Angler)に協賛してくれたアートフィッシングの小田さんにメールをする。

「バイトに忠さんの頃のような目を入れたいんですけど。」
「どうぞ、やってみてください。」

年甲斐もなく夢中になって、目を作り、貼ると、それは昔の忠さんスプーンになり、昔、狩野釣具店で見たラパラやレーベルの目になった。

スプーン バイト 目

ルーツに返ろう。

ルーツを探ろう。

元々御池の80オーバーを、神殺しを目指して、この釣りとこのサイトを始めた。実は渓流釣りに関してはモチベーションの行き場を探していた。

忠さんの心。開高さんの魂。どこまで行けるのか、やれるのか分からない。

そして、だから、自分は渓流釣りはバイトシリーズをメインに据えることにした。

渓流 山女魚 スプーン

久しぶりに訪れた渓には、ヤマメはあまりいなかった。おそらく今年は放流をしていなかったのだろう。

渓流 山女魚 スプーン バイト

でもそれはかえって好都合だ。
放流魚がいない方がルーツにたどり着ける確率は高くなる。

2つの過去を解きほぐすように1人で渓をさかのぼった。

渓流 山女魚 スプーン バイト

丸いパーマーク。これもルーツへの1つの手がかりらしい。

しかし、あんなにたやすく釣れた朱点の魚たちは、この日はとうとう姿を見せなかった。

いつしか、釣りをしながらあの日のヤニ臭いぶっきらぼうなオヤジと、慣れない地下足袋を履かされて、頼りなさげにその後を付いていく虚弱な小学生の幻影を追いかけていた。

あの日の少年には、もうすっかりオヤジになってしまったこの男はどう映るのだろう。

もしかすると過去へさかのぼることは、未来へ手紙を書くのに似ているのかもしれない。

そんなよく分からない心の波が打ち寄せてきた。

パラゴンG ミッチェル

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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