Straight No Chaser

「飲み屋になっちまったなぁ。」

少し困ったように、その奥でにやりと、紳士と男の子がほどけて混ざり合う顔があった。

東京 空

仕事は乱暴に投げ捨て、足早に電車に乗り込む。五反田での待ち合わせが目黒に変わったのは電車内のこと、このまま山手線に揺られていればいい。
相手はおなじみの松本大兄。久しぶりの東京に来ても、行き先は当然のように鱒に関わる場所になる。

事前連絡していたAnglo&companyへ、滞在日も限られているため、無理を言って普段店を空けていない日にお邪魔させてもらう。

アングロアンドカンパニー 店先

何度来ても良いものは良い、大兄は移転してから初だったのだが、その胸中はいかほどだろう。

元々は楽器で繋がった縁だ、釣りをするなんて互いに数年間は全く知らなかった、ソルトにはじまり、はじめての渓流に連れて行ってもらった。

そのさわりはこちらに書いている<祭りの余韻と
それはそれは酷い山道だったのだが、釣果でよい思いをさせてもらったことも今に至る軌跡のひとつである。

釣れるかもしれないという気持ちだけで、危険な場所に向かって行けるタイプだ。もちろん本人の勝算は薄くあるのだろうが、付いていく側がストップをかけないとどこまでも獣のごとく進んでいく。帰りの時間が守られることもない、粘ったあげくふたり、疲弊した顔で言い訳を家庭へ届けるのが通例になる。

海では真正面から大波を受ける、見ていたこちらが死を覚悟したこともある。深い渓谷で登り始めたはいいが、落ちたら終わりといった状況は何度あっただろうか。 妙に朝が早く、我慢ならずに日が明ける前から投げ込もうとするので無粋だと文句をつけたこともある。

釣りよりも意味深な人生のアドバイスを多くもらってきた、実を言えばそのほとんどはわかるような、わからないような、そんな類のものだ。が、どこか妙な自信と確信めいていて、言の葉を音色としてどこか奥底へ届けようとしているようにも感じられた。

計算する気も起きないが、いつの間にか黒から灰色に向かう頭が目に入るようになり、随分経ったことだけは分かる。腐れ縁なのだろう。

アングロアンドカンパニー 店内

中央の机を挟み、つらつらと近況などを話はじめる。

参加しながら、並ぶ”こだわり”達をまた眺めて、カメラで吸い取ってみるのだが、会心の一枚というのは簡単に撮れるものでもない。

語らいは気付けば原種の話にまで広がって、ゆるりとした空気が、熱を持ち始める。

アングロアンドカンパニー HOBO

熱をそのままに、構想していたとあるプロダクトについてぶつけてみる。それなりのものは提示できる・・・つもりだった。

一瞬だけ、目が眼に変わる、結論はその数瞬のうちに出揃うのだろう。言葉を選ぶ気遣いのための逡巡の間を迎える前に、その眼はするりと奥へ下がり、いつもの目になる。

「なぜ、その必要があるのか?僕にはわからない。」

要約だが、ざっくり、さっぱりと気持ちよく両断された。つまり、我々ごときにもぴしゃりと真っ当に正面から応えてくれたのだ。若輩がはなはだ無礼にも書かせていただけるなら、器用ではないからこそ叩き上げられ、研磨された言葉は鋭くて重く、背筋が伸びる思いで、嬉しかった。

アングロアンドカンパニー Anglo&company

失礼ついでにと、大兄が鞄からマッカラン( The MACALLAN )12年を取り出す。

「呑みませんか、ここで」

「・・・あははは!いいですよ、でも僕は車だからこれで!」

その手にはコーヒー。

「ここで呑んだ人っているんですか?」

「いや~、いませんね!」

「そりゃそうですよね!あははは!」

「しっかり空けていってくださいね。」

アングロアンドカンパニー Anglo&company

そこからは、大兄とふたりストレートで呑みながら話が続く、全員の声が只々大きくなり、笑い声が響いていた。

とてもじゃないが書けそうもないことが互いにすらすらと流れ出てくる、どこかシンクロする”共通した何か”を持つもの同士なら、皮肉や少々の毒もいい肴になる、皆で馬鹿笑いする。

そこで出たのが冒頭のセリフだ。

たまらなく幸せな空気が流れる、そうそう味わえる時間ではない。

アングロアンドカンパニー Anglo&company

買い占めたコパーのスプーンとカラーについて話していた時、ふっと。

「そういえば、最初の頃色んなカラーのスプーン出していたんですよ」

「やりたかったのって、こういうことなんだよなぁ・・・と」

「来期は復刻したいと考えてます」

「ほんとですか!お願いしますよ!」

話せば話すほど楽しみは増えていく。気が付けば、短時間ですっかり空になった瓶が佇んでいる。もちろん水などない。

Straight No Chaser ストレート・ノー・チェイサー。今夜にぴったりと馴染む曲だと妄想してお暇し、大兄と次の店へ歩いた。

セロニアス・モンクの名演よりも近代的なチック・コリアが今夜のイメージに近い。

アングロアンドカンパニー Anglo&company

思い起こせば宮崎であの日、隠し切れぬ興奮をそのままに世田谷のあるブランドについて語っていた姿が浮かぶ。ま~た病気か何か始まったのかと考えていたが、どうやら本気のようだ。気が付けばそのルアーを買い漁り、使い込んだと思えば、とうとう竿にまで手を広げていく様を、その過程を一番近くで見てきた。

誰しも本当に気に入ったものを手中にしたのなら、”それ”を真ん中に据えて他の道具達も見合うように整えてゆく、揃えざるをえなくなる。

ふさわしいものを、ふさわしい想いを、ふさわしい生き方を。探すようになるのだろう。

 

”それ”を見つけたのか、”それ”から見つけられてしまったのかは別として、愉しい苦悩の時間は続く。

 

 

藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

投稿者プロフィール

渓流~海までどこでもスプーンを投げる。
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