Trout Bum

九州は連日の雨である。

 

釣りに行けない野郎達の涙で川は何処も溢れる程の水量を湛えていた。

 

北の大物に恋い焦がれる友人を説得し、その日は西に向かった。宮崎と熊本の県境に位置するその支流は水量がなく、普段は全く釣りにならない。しかし、本流が増水して釣りにならない時こそ、その支流の出番なのだ。間違いなく状況は整っている自信があった。

 

昨夜までの雨が嘘の様に空は朝焼けに染まり、眼下には雲海が広がっている。見慣れたいつもの風景なのに、こんなにも美しい朝は初めてだった。思わず車を停めてその一瞬を写真に収めた。

 

雲海 宮崎 山女魚

 

再び車を走らせると、程なくして雲の海に車ごとダイブする。

 

光の届かない薄暗い霧の中を、いつコーナーから飛び出して来るかも知れない対向車に気を配りながらドライブする。やがて少しずつ霧が晴れてきた。ようやく雲の海の底に到達したようだ。

 

最後の下りカーブを曲がると目の前に現れたのはCoffeeカラーで満杯になったダム湖だった。ダム湖に注ぐ本流は10数キロに渡り起伏に富んだ素晴らしい渓相が続く。今年は本流を解禁から下流、中流、上流と3回に分けて釣り上がった。鮎解禁前という事もあり、ほぼ貸し切り状態で釣りをする事が出来たのは非常に幸運だったと思う。

 

ただ残念な事に、最上流部近くの支流で大規模な道路工事が行われており、更にその直ぐ上流には、すっかり禿げ上がった今にも大規模な土砂崩れの発生しそうな山もある。大雨が降ればその川の濁流が本流に入り込むらしく、残念ながら解禁と今回、本流は全く釣りにならなかった。

 

渓流 山女魚

 

狙っていた支流は増水どころかバックウォーター化しており、普段より更に上流に入渓点を探す事になった。先ずはバックウォーターの少し上を2人でチェックしてみる。直ぐにチビヤマメ達がルアーにまとわりついて来た。反応はイイ。魚影も濃そうだ。

 

松本さんがバックウォーターに近い下流部を丹念にチェックしてる間、自分は少し上流に移動した。ボサ下の流れの反転部に送り込む。直ぐにイイ当たりがあるも乗り切らず。数匹チビヤマメが釣れた後は反応が消えた。松本さんの様子を見に行くと、赤い色したイイsizeのヤマメが対岸近くの岩下からチェイスして来たもののバイトには至らなかった様だ。

 

更に下流に下ると流れが殆ど無くなった。雰囲気は有るのに全く反応が無いので早々に上流を目指した。

 

パラゴン 6.6ft 渓流

 

Anglo&companyのパラゴン6.6を振り抜いた直後の松本さんを後ろからパチリ。

 

ロッドティップの先に写る川の上流で起こる悲劇の数分前である。

 

左岸をテンポ良く釣り上がるが反応はない。ルアーが川の中程で根掛かりしたので、僕が川に足を踏み入れた直後、僅か数メートル先に居た松本さんの呻き声が聞こえた。

 

何か邪魔でもしたのかと思い駆け寄ると、ウダウダと未だ何かを口籠っている。余りのショックで言葉になっていないのだ。何と、35㎝はあったらしい山女魚をフックアップしたものの、長身のあの子は見事なダンスでフックアウトを決め、無事お帰りになられたとの事。

 

まぁ見てはいませんので簡単には信じてあげる事は出来ませんが、俺の目測は当たるんだと言い切る松本氏を信じてあげる優しい僕。また釣ればイイじゃない。

 

渓流 山女魚 バラシ

 

前回、水深のあった流れ込み下の深場が堆積物で解禁時よりも浅くなっている。

 

川幅が狭い為、松本さんと会話をしながら交互にキャストを繰り返すがチェイスも無い。だから少し油断していたかも知れない。

 

流心のボトムからルアーがターンした直後、ギラッと水中が光った。ロッドに重みが乗った瞬間、間違いなく今年の初尺が来たと思った。イトウクラフトの510ULXならフックアウトさえしなければ、なんて事の無いサイズだ。

 

泣き尺 山女魚 イトウクラフト ロッド

 

松本さんに撮る角度を仰ぎながらのiPhoneでベストショットを決める。イイ顔してるじゃないの。残念ながらsizeは尺マイナス0.5㎝!

 

泣尺ばかりで尺に縁が無いなら、30台を飛び越えて一気に40オーバーまで行ってくれてもいいんだけどなぁ。

 

先程の大物といい、条件さえ整えば夢の40オーバーも不可能ではないポイントだと分かっただけでも、収穫の多い1日だった。

 

虹鱒 ポイント 本流

 

雨足が強くなる中、別のバックウォーターに移動したものの流石にCoffeeカラーの水中からサクラマスが現れる事はなかった。

 

帰り道、jazzが流れる車内で松本さんが言った。

「ねぇ。来る途中、中平君が言ってたレインボーが釣れる川をチェックしてみようよ。」

雨に濡れ、冷え切った身体にヒートシーターの熱が心地良い。もう今日は結構です。ホントはそう言いたかった。

 

30分後。

 

雨の中、藪を漕ぎ護岸壁を下り川原を目指す2人がいた。

こういうバカな奴らの事を何て言うか知っていますか?

 

松本さん。長かった梅雨が明ける頃、季節外れのサクラを咲かせに行きましょうよ。

 

もちろん最高に天気のいい日に!

 

 

Ikuto Nakahira

Ikuto Nakahira

投稿者プロフィール

生まれ:1971年
メインターゲット:トラウト 
メインフィールド:渓流
-メッセージ-
幼い頃、祖父に連れられ行った奈良の吉野川源流で釣ったアマゴがトラウトとの最初の出会い。目指すターゲットは朱色に染まる鼻曲がり。

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