あさきゆめみし

朝焼け 山
仕事柄、夏は多忙だ。特に7月から8月は盆以外休みがほとんどない。

加えて今年の宮崎は梅雨というには異常な長雨。どこの川も状況は当然良くない。

 

そんな中であったが、午後から仕事という土曜日、午前中だけという限られた時間で久しぶりにトラウトに会いに行った。

 

午前2時に出発。途中、ワイパーが効かなくなるくらいのゲリラ豪雨を何度かくぐり抜けながら県北に向かう。

 

久しぶりの釣りに心は穏やかだった。まだ見ぬフィールドに立てるだけで満足だ。

 

集合場所に到着し、空が白む頃には美しい藤色が視界を包んでくれていた。

 

渓流 濁り

 

前回の五ヶ瀬川と同じく、今回も藤田くんが自分たちのガイド役を引き受けてくれた。
満を持して案内してくれたポイントには先行者の車。見ず知らずのアングラーとあいさつを交わしていると、ふと、「あのスプーンの・・・?」とおっしゃる。このサイトを見ていただいている方だった。

 

正直、照れくさいのとうれしいのと、恐縮する気持ちが交錯した。

拙文を読んでくれてありがとうございます。

 

そのポイントを後にし、いくつか案内してもらうが、どこも増水が激しく、濁りが強いとのことだった。普段、県央の川を目にしている自分からすると、それ程の濁りには見えないのだが、いつもはジンクリアであろうこの水系からすると、きっと良くないコンディションなのだろう。

 

何より、朝から11時前まで攻めて3人で小ぶりなヤマメ1匹のバイトしなかったことが何よりの証拠。

 

パラゴン セルテート

 

ヘビースモーカーの藤田くんが朝から何本目かわからないマルボロに火をつけ、せわしくふかしながら自分たちに問う。

 

「この後どうします?○○の沢と○○川のあそことレインボーのいる○○川があるんですけど?」

 

瞬間、自分の何かにも火が灯った。

 

「レインボー、行きたい。」

 

「でも、仕事の時間考えたら1時間くらいしかできませんけど・・・?」

 

「それでも、行きたい。」

 

虹鱒 レインボー

 

ニジマスとレインボートラウトは自分にとって別の魚だ。

ただでさえ、ネイティブ化したニジマスでもヤマメとはパワーやスピードが全く違う。

 

昔、とある人が一緒に釣りをしているときに言った。

「ヤマメは日本人で、ニジマスはアメリカ人だから。そりゃ、パワーが違うよ。」

きっとその通りなんだろう。

 

そして、自分の中のレインボーはパワーやスピード、大きさだけではない。

 

ヤマメとは全く違う濃いブロンズ、深い緑といった体色。

強烈な発色のレッドバンド。

鋭くとがったヒレや口。

そして、どこか悲しげで、澄んだ美しい目。

 

これらが揃った魚がレインボーなのだ。

 

自分の目標は宮崎県高原町にある御池のレインボー。80㎝が釣れたこともある。滅多に釣れない小さな湖だが、心が吸い込まれるような神秘的で、美しい場所。

 

今年は解禁からここまでレインボー狙いには行ってなかった。聞けば、そのポイントにもランカーサイズはいるという。迷う理由はなかった。悪天候でも、短い時間でも、そこがいい。

 

流れ アングラー

 

再び真っ黒な雲から大粒の雨が3人の車のフロントガラスを叩く。
入渓直後はこの日初めて見るクリアウォーターだったが、みるみるマッディーさを増していく。

 

足を取られる アングラー

 

「冒険」と「危険」のボーダーラインは分からないが、こんな遡行も気の知れた仲間となら苦にならない。むしろ自分の中で野性のオスがうずく。

 

自分も1度、きつい流れに足を取られ、下半身が完全にもっていかれた。かろうじて岩を両手でつかみ、上半身の力だけで踏ん張った。そのことで逆にテンションが上がって楽しい気持ちになる。アドレナリンがほとばしる、とはこのことなんだろう。

 

ツインクルスプーン

 

この川は、元々は細い流れで、水深もそれほどない。狙いはレインボーだ。ランカーサイズでもスモールルアーに当たってくるはず。そうにらんでチョイスしたのはタックルハウスのツインクルスプーン。

 

虹鱒 本流

 

入渓後間もないポイントで、アップクロスにキャスト、アクションは付けずにラインスラックを取るだけ。

 

ロッドティップを通してスプーンがボトムを転がる感触を感じながらドリフトさせ、ダウンクロス~U字ターンの瞬間。まさしく教科書通りのスプーニングでヒット。

 

虹鱒 アングラー

 

ファイトはまさしくネイティブのそれ。ヤマメのようなローリングはせずに、強烈なダッシュと、きれいなジャンプを三度。サイズは満足には遠いものだが、久しぶりに出会えた。

 

体色もヒレもとても美しい1匹。ニジマス以上、レインボー未満といったところだった。

 

なるべく魚体に傷を付けないようにネットインさせ、写真撮影に付き合ってもらう。

 

ランディングネットは、トラウトをすくうためではなく、極力水から上げないために使うものだ。自分はそう思っている。

 

虹鱒 ネット

 

多分、日本の歴史上、最も有名かつ美しいアナグラムである「いろは歌」。

ひらがなの五十音をそれぞれ1回しか使わず、深遠な世界を描いている。

 

いろはにほへと ちりぬるを(色は匂えど 散りぬるを)

わかよ たれそ つねならむ(我が世 誰れぞ 常ならん)

うゐのおくやま けふこえて(有為の奥山 今日越えて)

あさきゆめみし えひもせす(浅き夢見し 酔いもせず)

 

(意味)

咲き誇る花も必ず散る。

この世の私達全てが永遠ではない。

この有象無象の迷いを乗り越えて悟りの世界に至るなら、

意味の無い夢を思って悩む事も無くただ安らかな心境に辿り着くだろう。

 

トラウトに会う。

そのためだけに睡眠不足、長距離運転、危険な遡行に耐え、釣れたら釣れたでキャッチアンドリリースするなど、興味がない人から見たらそれこそ、浅い夢で酔狂なことかもしれない。

 

けれど、これは、自分にとってはきっと生きた証。

 

今際(いまわ)の際に目をつむって一瞬、フラッシュバックしてくれる映像。

そんな出会いをずっと求めていきたい。

 

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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