「男子三日会わざれば刮目して見よ」
だいぶ昔から言い伝えられてる諺なのだけど、逆に3年以上付き合っても「そうじゃないだろう。」と思わされる男がいる。
大体、次男坊というのがくせ者なのだろう。自分は男3人兄弟の長男だから、次男坊のクセは分かってるつもりで、無意識の内に長男気質で接してしまっているのかもしれないが、それにしても、どうにもこうにも、事あるごとにヒザを後ろから突如カックンとされるような気持ちになる。
(そういえば、ここの管理人も次男坊だった。)
一応、彼の名誉のために申し上げると、3年かけて確実に上達している。釣りも、写真も、フィールドを見る目も。
何だか知らないが、単焦点レンズなるものを繰り出して、自分の分身、パラゴン743との素敵な写真を撮ってくれたりする。正直、写真は先を越されてしまった感がある。ちょっと悔しいが、まぁそれはそれで嬉しかったりもする。
とにかく現時点ではそのクオリティに脱帽せざるを得ない。一体いつの間にやら、である。
解禁からここまで、彼とダムのサクラを追い求めてきている。ところが、今年は全くもって皆無。もうどうしようもない。生命感が感じられない。
たまに釣れてくれるのは本当に目刺しサイズのベイビーや、イダ(ウグイ)のみ。例年この時期にアングラーをザワつかせる50アップやロクマルは全くもって話しを聞かない。九州全土から集まるベテラン、エキスパートをしてただの1匹も。
そんなダムに愛想を尽かし、インレットからの渓流に軽く足を伸ばしたときのこと。湖の釣りで間違いなくシックスセンスが見え始めたことを誉めようと思い、
「いやぁ、アンタもかなり上達したよ。最近は感心させられるねぇ。」
「そうでしょ!!やっとボクも渓流で片手でキャスティング出来るようになりました!!これが去年マスターした一番大きなことでした!!」
いや、そうじゃないだろう。片手でキャスティングって、ビギナーさんレベルのお話しじゃないか。
ちょっとしたショックを隠し、精一杯の柔らかなトーンで諭す。
「いや、そうじゃなくってね、湖に対するセンスがね。。」
遮るように、
「ホラ!!見てくださいよ!!ちゃんとピンポイントにもキメられるようになったじゃないですか!!ボクも進歩してるんですよ!!」
・・・そうじゃないだろう。人の話しを聞け。
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それこそつい最近の話しだけど、西日本フィッシングショーがあった小倉に、もう1人の友人と行くと言う。自分も熱心に誘われたが都合が合わなかった。
かなりのテンションで誘ってくれたことに対して申し訳なく思い、
「じゃあ、○○さんにTailSwingで手紙を書くよ。渡してきてくれるかな?」
と伝えた。
もちろん、押しも押されぬトップアングラーだから、そんな簡単に行くはずもないが、半分は彼に経験させたいという気持ちもあった。
同じ「村」の字を持つこの方。
「どうだった?」
「はい!!渡せました!!」
「で?」
「いやぁ!ガッチガチに緊張しましたぁ!しどろもどろになったボクに、優しくしてくれましたぁ。大人になってこんなに緊張するなんて、滅多にないですよ!!」
何か要件は伝えたって言ってるけど、その様子じゃあ、多分、単純に手渡しして終わっちゃったんだろうな。
「握手したときの手の分厚さがすごかったです!!」
そうじゃない、かな。もう少し頑張れると良かったかも。
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話しはダムに戻る。
実は自分は、ここまでまだまともなサイズのヤマメを釣っていない。
そもそも1発大物しか狙っていないので、あんまり気にはしてないのだが、解禁から数えてもう丸々4日、計40時間弱。ここまで釣れないと流石に疲れてくる。
何せ片道3時間はかかる道のりをドライブしながらここまで来るのだ。御池で鍛えたはずのメンタリティもそろそろ限界が近い。
それに対して彼は5.6フィートのロッドで少し小さめのスプーンを器用に使いこなしながら、行く場所行く場所で8寸とか、9寸とか、渓流だったら少し嬉しくなるサイズを単発ながらキャッチする。釣れない時の1匹というのはすごく価値が高いものだ。自分と違うアプローチで結果を出すのは彼。なかなかやるじゃないか。
でも、まぁ、そろそろいいかな。ダムに一区切り付けて麗しい渓に潜り込もうかな。そんなことを考え始めた矢先。
彼の車に同乗し、ダムの釣りを終えた帰り道のことだった。
元々気が効く男だから、自分みたいな人間にも細やかにあれこれとしてくれる。
何やらスマホからブルートゥースでカーオーディオに音楽を送っている。
「ジャズやフュージョンが好きだって言うから、これをセレクトしてきたんですよ。」
ここは素直に感謝の言葉が言えた。
「へぇ。ありがとう。うれしいよ。」
ふと、画面を見ると、
「サクラかぁ。なかなか釣れないよな。こんな名前の曲があるって知ってて選んだ?」
「いやぁ!知らなかったです!」
まぁ、変な偶然があるもんだ。
しばらくして、いきなりガックリとさせられた。
しばらく言葉が出なかった。
ちょっと勘弁してくれ。「湖に行け」って、このタイミングでか。
頼むよ。そうじゃないだろう。
「・・・お前、わざとか?」
「いえ!!違いますよぉ!!」
確信犯だとしたら、相当悪質で用意周到だ。こんな男は油断ならない。次男坊はこんなところがあるからほとほと困る。
「青は藍(あい)より出でて藍よりも青し」とは言うが、どうも彼は自分とは違う色から始まって、自分を超えようとしてる気がしてならない。
またいつ寝首をかかれるか、気が気でないのである。