今週末野反湖行かない?
どこにでもある誘い話。
ブルーバックレインボーという珍しいトラウト。山奥の秘境で夏でも涼しい環境。過去に釣れた美しい魚達。次々と繰り出される誘い文句に成す術もなく引き込まれ 1泊2日の釣行が決まる。
群馬県の山中にある野反湖。標高1500mの高地の湖水は深い藍色で、ここで育つ虹鱒は”ブルーバックレインボー”と呼ばれ背中が青く美しい個体となるらしい。
調べてみると、なんと釣りキチ三平 山上湖の舞姫 コバルトマス編の舞台との説もある湖ではないか。
子供の頃、漫画で読んだ夢の舞台が存在し、そこに確かに存在するブルーバックレインボーという魚に強い興味と興奮を覚えたまま釣行日を迎えた。
今回のメンバーはスプーン好きが集まるテイルスイングの4名。各々が独自のスタイルを持つ"変わりもの”の集まりである。
前夜祭、S氏が振る舞う武骨な肉料理が旨い。料理はメインの食材を少なめに準備して、残りは各自の持ち寄り食材を混ぜて炒めるだけの謎飯なのだけれど、これをS氏が巧みに組み合わせ味を整えていく。
満天の星空の下、仲間達と食べる謎飯はどれも絶品で、皆あっという間に平らげてしまった。
不覚にも私は寒さで体調を崩し早めの就寝となったが、その後もビールや地酒片手の釣り談義に花が咲いたようだ。
翌朝フィールドへ向かう途中の温度版は11℃。
話に聞いた以上に肌寒く感じる。道路沿いには季節外れの紫陽花が咲いていた。
現地で釣り券を購入する際、ふと目に留まったのれんに”ハコスチ”とある。ヒレピンのブルーバックレインボーをメインターゲットとして来訪したが、スチールヘッドの血を引き、非常に強い引きで有名なハコスチと対面できる可能性があるのは嬉しい事だ。
それにしても空が近い。青空がこちらに迫ってくるような躍動感ある雲がそう感じさせるのだろう。空気も澄んでいて、”秘境”という表現がよく似合う素晴らしい景色だ。
湖畔を歩くと意外にも綺麗に整備されており、ウッドチップが埋め込まれていて歩き易い。後に知った事だが、日本遊歩道100選に名を連ねる有名な散策道なのだそうだ。さらに進むと時折トラウト達のライズが確認できる。ベイトは?ライズしているということは虫か? いったいどんな??
私の逸る気持ちをよそに唐突に仲間が笑いネタを繰り出すと、湖畔に失笑にも似た笑い声が響く。
台無しである。高めてきた集中が一気に和らいでしまった。
すると、気にも止めていなかった周辺を飛び回る虫の羽音、草の匂い、遠くから聞こえる小川のせせらぎが耳に入るようになる。湖の向こうにそびえる美しい山の景観も見事だ。
気持ちを高め過ぎると、釣果を上げる為に必要な情報を見落としたり、時に無意識のうちに命を危険に晒してしまう事がある。
過去の仲間との渓流遡行の際、ここは一級ポイントという淵が現れた。 すぐに一番ルアーを流し易いガレ場に陣取りキャストを開始すると案の定トラウトのチェイスがあったが、仲間から危ない!と声をかけられた。
指先された後方を確認すると、私が立つガレ場はまだ新しい土砂崩れ跡で出来たもので今にも上から土砂が落ちてきそうな場所。もちろんすぐに退散した。
通常なら絶対近づかない場所に迷う事なく入ってしまった苦い体験談だが、似たような体験をされた方や、釣行の際撮った写真が魚と釣れた場所だけだったりする方はポイントに入る前に5秒だけ周囲を確認する等、心に少しばかりのゆとりを持つ為の意識付けをお勧めします。
どうやら気負い過ぎていたようだ。釣りに没頭し易い私を知る仲間のさりげない気遣いが有難い。
やがてウッドチップはなくなり、道は狭く熊笹と白樺の木に覆われ大自然を感じる景観へと姿を変える。
さあ釣りを始めよう。
藍色の湖へスプーンを滑り込ませ未だ見ぬレインボーとの対面に皆が期待を膨らませる。
この日は状況が良く、すぐに私にアタリが出た。 正体は中指程のレインボーの稚魚。
ここから野反湖の夢の扉が開く。
歩きながら撃ち進めると明確なアタリを捉えた。
距離があるせいかたいして引かず、仲間の問いかけに「小さいですね?」と余裕のファイトを楽しんでいるとレインボーがジャンプ!
以外に良いサイズで仲間が駆け寄るが、2度目のジャンプでバレてしてしまった。残念。
程なくしてS氏が当たりを捉える。
S氏は40cmを超えるコンディションの良いレインボーをキャッチしたが、”鼻歌混じり”という表現がピタリと嵌る余裕のファイトで難無く仕留める姿は圧巻だった。
良い魚が釣れたら写真撮影の時間。楽しい時間をくれた魚に感謝しながら、興奮冷めやらぬ「今」を切り取る。
野反湖の水の透明度は高い。ヒレピンのキズ1つない魚体をスマホで写真に収めてみると、まるで絵画のような1枚が撮れてしまった。
人里から離れた湖の素晴らしい景色を求めて多くの人が訪れるのは、個々が感じる驚きや感動が多く存在するからなのだろう。
撮影を終えたら皆でS氏を祝福し握手を交わす。
少し時間が空いた後、再び私にチャンスが訪れる。ヒットと同時に沖へ走りながらジャンプ3連発!
散々走り回られたが、仲間の的確なアドバイスの援護もあり無事にキャッチ出来た。50cmを超えるハコスチ。 嬉しい1尾である。
更に仲間がファイトの一部始終を動画に収めてくれていた。
撮影を終え休憩しながら動画を眺めていると、今度はF氏が掛けた。
一目で良いサイズのレインボーと分かる個体でサポートに入ったが、取り込み寸前にバレてしまう。
さらに単独で別のポイントを攻めていたN氏から、同じ時間帯に2本の良型レインボーをキャッチとの報告が入る。若いながら魚を見つけ獲る嗅覚は見事である。
その後、時間を忘れてキャストを繰り返したが
ぱたりと反応は止まってしまった。
どうやら夢の扉は閉じたようだ。
少し早いがここで切り上げよう。
各自思い思いのタックルで挑んだ今回の釣行。極細ライン、太いPE ライン、スピニング、ベイトどのタックルでも魚からの反応を得る事が出来た。
良い日だったと片付けてしまえばそれまでなのだけれど、結果的に1つの想定していたパターンは正しいとの結論に落ち着いた。
それは今回ガイド役を買ってくれたS氏が25年程昔に見つけたもの。
氏も20年ぶりの来訪だったが、20年経っても変わらない釣りが出来る事を証明できた形だ。
スタイルもタックルもバラバラな4人が同じフィールドで同じターゲットを追いかける。
当然そこには個々の考え方があり、それが眩しく映る事もある。
良いと思えば自分の釣りに取り入れたら良いし、疑問に感じたら質問を投げかけてみれば時にこれまで想像もしなかった考え方に出会う事もある。
それが幅の広がりとなり次の意欲に繋がる。
トライ&エラーが続く釣りは楽しいものだ。
今回釣れた魚にブルーバックレインボーに見える個体は確認できなかったが、今日の釣りと仲間達のスタイルを参考に新たに試してみたい事を、いくつか思いついてしまった。
三平くんが仕留めたようなコバルトブルーの魚体を夢見て、またこのフィールドを訪れる事になりそうだ。