早春、渓へ

スプーン 釣り

解禁を前にすると、やがて訪れるその日を前にそわそわとした気分になるアングラーも多いかと思う。

勿論、僕も、その一人だった。

ただ、ここ何年かは、本当の事を言うと出来るだけ渓流の事は、ヤマメや鱒の事を考えない様にしてきた。

今の自分の立場から言えば、嘗ての様に釣りに没頭出来ないことは明白な事実であり、考えれば考えるほど思い出せば思い出すほど、トラウト達と戯れていた若い頃の日々はキラキラとして鮮やかで、今の自分とを比較して見れば、何処か寂しく悲しい気分に駆られてしまう。

それでも其処へ向かいたい気持ちを諦める事は出来ないし、止める事も出来ない。

行きたいけれど行けない、我慢する事と努力をする事は大事だけれど、その葛藤が時には揺らめき、次第に心の綻びを広げて行くようになる。

この虚しさは何だろうと、考えていたら、昔仲間が言った言葉を思い出した。

「釣りをしている時の自分が本当の自分で、釣りをしてない時の自分は本当の自分ではない気がする」

本当の自分はどこにあるのか?まだあるのなら、そこに戻ろうではないか。

今年の僕は素直にそう思った。

2月、新調したアングラーズハウス製のショルダーバックに使い古したルアーワレットとデジカメを入れる。
何年か渓を共にしてきたmitchell408を分解し可動部分にオイルを差す。数年前からする事が無かった解禁前の準備を僕がしている、ロッドはUFMウエダのFS(ファイバーグラス)を現代の軽量ガイドをのせリメイクして用意、そして10年物のウエーディングシューズ、とっくに使用期限は切れているけれど、無数の修繕を施しながら今年も頑張ってもらう事にした。

それは全て、スプーンに命を吹き込む事を楽しむ為に。

mitchell408最新のタックル達の性能が素晴らしく、感度も抜群で軽量なのは理解しているつもり。
それでも慣れ親しみ、愛着が沸いてくる道具には適わない。

製品には製作者の想いが宿るものだと僕は信じている。
本当に良い物は数字では計れない性能を秘めているもの、そして時代を重ねる度に傷つき草臥れて行きながらも輝きを増して行くように写るのは何故だろう。

そこに言葉を添えればそのガラクタ箱も宝石箱になる。

3月上旬、良く晴れた朝、僕は身近でありながらもまだ踏み入れた事の無い渓へと向かった。
勿論、放流などは無い、渓流釣り場とすら認知されても居ないような渓だ。

そこをあえて選んだのは、春の喜びを静かに感じてみたかったからに他ならない。
人と会うことは避けたい、魚は釣れても釣れなくても良い。
渓の音、匂い、風、木漏れ日、その下に流れる水、その野性との静かな時間を静かに楽しみたい。

確約された釣り場に逃げて釣ることも出来るが、それを選びたく無い。
そして程なくして今年の初モノが顔を見せてくれた。

山女魚 スプーン早春の時期、渇水の流れ、4g~3gのスプーンを使い深く緩い流れを釣るのが基本となる。

川の規模にもよるけれど、増水時であれば5g以上がメインになる。ただ巻きの釣りでも十分釣れるが、ショートストップ&ゴー(短いスパンで止める巻くを繰返すこと)が効果的な場面もある。

それでも一番必要なテクニックはキャスティングアキュラシー。
5m先のピンスポットに正確なキャスト、枝や倒木や岩が邪魔をする中でいかにルアーのトレースコースを取るのか、釣果を求めるのであれば、きっと拘るところはそこだろう。

最も慎重に選択すべきタックルはフックである、魚に一番近い所を妥協しない事。

魚が沢山釣れる人は、必要以上、釣らない事も出来る。

数を釣る事が大事ではなく、大物を釣る事が立派ではなく、その渓を深く知ることにプライドを持つ。

どれだけその魚との出逢いを大切に釣る事ができるか?

これまでもこの先もきっとそのスタイルは変わらない。
山女魚 スプーン
今年も美しく無垢な野生に出逢えた事が何よりも大きな喜びである。

 

関根 崇暁

関根 崇暁

投稿者プロフィール

生まれ:1970年代
メインターゲット:トラウト全般、スズキ、オヤニラミなど
メインフィールド:筑後川水系(福岡県)
-メッセージ-
埼玉県生まれ、少年時代にルアー・フライフィッシングに触れ、学生時代はブラックバス、18歳で自動車免許を取得すると、全国のフィールドで遡上トラウトを追い求めスプーンの世界に入り込む。

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