さすがに標高が高いとこうも季節がずれるものなのか。
遅咲きの桜を見上げて自分のいる場所を再確認した。
GW、二日間の日程で、僕は松本さんと九州山地最奥の渓に来ていた。
今年は、解禁こそ渓流へ赴いたものの、御池のレインボーへの想いが断ち切れず追い続けていたので、この日が今シーズン2度目の渓流だった。
しかし、この日は久しぶりの渓流に気持ちが昂ってしまったのか、はたまた腕がなまってしまっていたのか、なかなか思った通りの釣りができない。
不用意なアプローチ、ミスキャスト、根がかりにライントラブル。
まさに、失敗の総合商社だった。
時折、岩魚たちが顔を見せては、
「大丈夫さ」
「気を落とすなよ」
なんて僕を慰めてくれる。
こんな時、僕は釣りをしないことにしている。
手を止め、観察することにしているのだ。
岩になり、木になり、キャスト、狙うポイント、ロッドアクション。
兎に角、一挙手一投足をコピーする。
そして、魚を手にしている人の言葉に耳を傾ける。
そこに、魚にたどり着くためのヒントが隠れているんだ。
結局、この日は自分の思ったとおりの釣りができず、釣果も満足いくものではなかった。
二日目、前日のことを思い返しながら釣りを始める。
岩魚はとても臆病な魚だ。
狙撃手のように岩陰や倒木に隠れてキャストしないといけない。
狙うポイントは岩の絡んだ深み。
より早く岩魚の潜むポイントに届くよう、スプーンは肉厚で3g以上のものを結んだ。
テンションをかけながらフォールさせて、スプーンの重さを感じながら、その位置を把握するよう心がける。
答えはすぐに出てくれた。
サイズは前日とかわらないものの、自分の考えたポイント、釣り方でキャッチした岩魚はうれしさが二倍、三倍だ。
「今日はどうしたんだい!昨日とは別人みたいだよ!!」
僕の姿を見ていた松本さんが声をかけてくれる。
(松本さんのマネしてるんです...)
心の中でそう呟きながらも、しっかりと自分の中で答え合わせとやり直しができていることに自信が持ててきた。
午後からは渓を変え再び釣り始める。
が、釣り上がっていくうちに魚が出てこなくなってしまった。
ふいに、松本さんが言った。
「日が昇ったからだろうかね、魚の層がかわってきたね。」
そういえば以前」、御池の主とも言える大先輩のフライフィッシャーが教えてくれた。
「日が昇ってくると、魚たちは天敵から逃れるために底に沈むんだよね」
同じことが、この美しい渓流でも起きているんじゃないか。
でも、岩の陰や深いところでも、なかなか口を使ってくれない。
なぜだろう、考えていると、「サラシ」という言葉が頭をよぎった。
磯場では、波が払い出すときにできる「サラシ」の下で魚がヒットしてくることが多い。
きっと、岩魚たちも、サラシの下で身を潜めながら落ちてくる餌を待っているんじゃないか。
あくまで想像の世界だったけれど、なぜか確信が持てた。
魚は流れ込みの白泡の下にいる。
そうこうしていると、ここだ!という大場所が目の前に現れた。
しっかり沈み、小粒ながら流れの中でも良い動きをしてくれるFORESTのMIU、4.2gを結ぶ。
慎重にアプローチして、キャスト。
ボトムに着底したら、軽くフリップを二回。
ルアーを弾かず、ティップのしなりを活かしたナチュラルなアクションで。
スプーンを押す流れを考慮しながら、2~3速の動きを意識してボトムよりやや上の層をトレースし、時折、軽く誘いのアクションを入れる。
実はこれ、この二年間、止水の御池でやってきた釣り方の応用。
ボトム攻略には、根がかり覚悟でこの釣り方だと思ったのだ。
カッっという心地よい手ごたえに、反射でアワセをいれると、ジジっとわずかにカーディナルのドラグがなった。
「やったね!慎重に!」
松本さんに声をかけられながらランディングしたのは9寸ほどの岩魚。
松本さんと固く握手を交わした。
「すごいじゃないか!何か掴んだね」
照れと、うれしさも相まって言葉がうまく出なかった。
この日の釣果は実に3年ぶりに松本さんを上回ることができた。
脱渓直前、前方にアングラー二人を見つけた。実は先行者がいたのだ。
これには、ビックリ。
正直、先行者がいたとは思えないくらい、僕たちは岩魚たちからのコンタクトを得ることができた。
それはきっと、スプーンだからできたことなんじゃないかと僕は思う。
ミノーでは探ることができない、流れ込みの下へのアクセス、自重を活かしたレンジキープがこの日はアドバンテージになったのだ。
文字を見ながらでないと舌を噛んでしまいそうな、僕が師匠と仰ぐ松本さんが提唱する渓流釣りのメソッド。
道具の仕立て、ポイントへのアプローチから、キャスト、トレースする層・スピード、アクション、行く先々のフィールドに応じてそれら全てを揃えて実践することだと僕は思っている。
僕に出された宿題は、まだ解答の途中だけれど、今回の釣行で僕なりのスプーニングが見つかりそうな予感が持てた。
多くの先輩たちの背中を見ながら、少しずつ、少しずつ自分の釣りを極めていきたい。
そう思える二日間だった。