ローヤルであるということ

電車 宿 五ヶ瀬

 

1日目の釣りが終わり、電車の車両を利用した一風変わった宿にチェックインし、そこで偶然知り合った海千山千といった風体のフライマン2人組と、これまた偶然夕食が隣り合わせになった。

 

思いがけず、素晴らしい味付けの野菜炒め定食をつまみに、あっという間に生ビールを2杯飲み干し、ほろ酔い加減で彼らと語り合う。

 

「で、明日はどこあたりにいらっしゃいますか?」

「あぁ。。上流ですね。のんびりやろうと思います。で、どこあたりに?」

「私たちは本流一本ですね。でかいのが釣りたいんで。」

 

自分よりだいぶ年配のフライマンが、愛情と若干の皮肉を込めて、貫禄たっぷりに言った。

 

「そうですか、、、それはそれは、本流と心中してください。」

 

夜中1時起きで移動。休まず釣りをして、ぐったりした体にウイスキーをグラス1杯流し込み、温泉でほどかれ、暖かい食事とビールを腹に流し込んだ自分にとってこの一言は何とも爽やかに、明るく響いた。

 

本流と心中。いい言葉だ。夜の川から吹き上げてくる風に自然に笑顔にさせられる。

 

サントリー ローヤル トラウト

 

 

釣り仲間がちょっとした贈り物のお返しにくれたサントリーローヤル。

この酒はこの旅で開けようと決めていた。

 

酒と一緒に、開高さんの昔のCMを教えてくれた。

何とも、とてつもなく、恐れ多いけど、粋なはからいに嬉しくなる。

 

そして何より、このウイスキー、美味かった。スージーさんと2人でボトル半分近くまで開けたが、ほとんど自分が飲んだような記憶がある。

 

 

 

 

五ヶ瀬川 本流 濁り

 

初日。

 

数日間降り続いた雨のせいだろう。クリアなはずの五ヶ瀬川にはカフェオレ色の濁流が轟いていた。しかし、聞きしにまさる太い流れだ。雑誌で「磯のようだ。」と形容していた人がいたが、まさしくその通り。ごつごつと隆起する岸壁に力強くあたる水流には畏怖の念すら感じる。

 

例えば、ここでメジナ釣りの人がコマセをまいていても違和感がない風景。

しばらくキャストするが、濁りがきつすぎてとても釣れる気がしない。

ポイントを2~3カ所攻めたが、あきらめて支流でヤマメを狙うことにする。

 

五ヶ瀬川 景色 山女魚

 

朝、曇っていた空はやがて青空へと変わった。深い谷から見上げると、はるか上空に巨大な橋がかかっていて、それはまるで天空の建造物のように見える。

 

五ヶ瀬川 支流 クリア

 

支流の流れは甘く美しく澄んでいて、この川本来の姿を思わせる。今回、初めて来たのだが、もっと早く来ればよかった。以前、五ヶ瀬町に別の用事で行ったときにその遠さだけが印象に残っていて、何となく敬遠していた。五ヶ瀬、という名前だけを見てろくに調べもしていなかった。

 

五ヶ瀬川 ベイトフィッシュ

 

しかし、どうやらヤマメの薄い区間にあたったらしい。素晴らしい渓相に反して、反応は数えるほどしかない。2つの支流をあたったが、出会いは数回しか得られなかった。

 

そして気がつくともう夕方が迫っている。

残り時間、どうしても本流をやりたい。宿泊場所の近くに入渓して、集中してスプーンのドリフトとターンを繰り返す。

 

ここに至って、焦りはなかった。ひたすら楽しい。太い流れにシンプルなルアーを打ち込み、ゆっくりだが、集中しながら流れを読んで、水中を想像し、スプーンを踊らせる。

 

突然、「ガ!ガ!」という強いバイト。7フィートのパラゴンがミドルセクションあたりからぐにゃりと引き込まれた。

 

次の瞬間、セルテートのドラグが、「ジィッッ!!」と短い音を吐き出し、その直後にはラインはふわりと力を失っていた。

思わず、「ああぁ。。。」と絶叫して、浅瀬にへたり込んだ。やってしまった。ドラグが緩かった。チェックしていたつもりだったのに。。。

 

時計を見ると、5時。そろそろ今日の終わりを考え始める時間。

 

サブマリナースプーン フラットフィッシュ

※”左:サブマリナースプーン 右:フラットフィッシュ”

 

だいぶボロボロになったコータックのボックスから、サトウオリジナルのサブマリナースプーンを取り出す。最近、自分のファイナルウェポンになっているルアーの一つ。

 

このルアーを初めて見たとき、ヘリン社の名品、フラットフィッシュを思い出した。フラットフィッシュは不思議なルアーだ。ぐねりぐねりとしたあまりに大げさなアクションは魚にとってどんなベイトにも似ていないだろう。

にもかかわらず、さんざん他のルアーをキャストしたポイントで、このルアーの一投目に魚が催眠術にかかったように「ドン」とヒットした経験が何度もある。

今ではキャストすることはあまりないけれど、ベイトライクではないこのルアーで釣ったときの満足感は他での結果よりはるかに高い。

 

サブマリナーを泳がせたとき、その姿勢がフラットフィッシュと裏表ではあるけれど、案の定だった。塗装が施してある面を下側にして、ぐねり、ぐねり、だ。そして、独特のアイのポジションのおかげでまるで立ち泳ぎのような姿勢で必死に浮き上がるのこらえている。何より、ゆっくり巻くだけでよく釣れる。

 

最後の一粘りのつもりで、サブマリナーをスナップに付け、他のルアーを何度も投げ込んだ大場所へ、キャスト。

流心部分でロッドをあおって踊らせていると明らかな生体反応が伝わってきた。

さっき逃した魚には遠く及ばないが、小気味いいファイト。ゆっくりリールを巻いて、慎重に寄せてくる。

 

土壇場でどうにか釣れてくれた尺上の本流ヤマメ。またこのルアーに救われた。

 

五ヶ瀬川 本流 山女魚 尺上

 

浅瀬でなだめつつ、何枚も写真を撮り、優しくリリースする。

 

山女魚 リリース 水中

 

気がつくと6時前。初日の五ヶ瀬川は最後にひそやかな微笑みをくれた。

 

 

 

本流 トラウト 山女魚 スプーン

 

2日目。
この日は、スージーの日だった。

初日入ったポイントに朝一から入渓し釣り上がって行く。

 

それほど時間をおかずに、まあまあのヤマメがスージーのルアーをひったくった。

 

山女魚 水中 スプーン

 

初日に苦戦した彼。安堵の声と想いが伝わってくる。

 

そして、昨日最初に入った大場所。だいぶ水はクリアになっている。

見た感じより水深はないのだろうか。カウントダウンをすると思ったより早くボトムに到達する。スプーンのロストが続いた。

 

ふと見ると、スージーのロッドが弧を描いている。

なかなかのサイズのようだ。

 

山女魚 スプーン 尺上

 

瀬の落ち込みからギラギラと姿を現したのはくしくも昨日の自分と同じ大きさの尺上本流ヤマメ。鳥に襲われたのだろうか。背中に大きな傷を負っているが、それが逆にこの魚がしのいできた生き様を思わせる。

 

山女魚 水中 リリース

 

こちらに挑みかかるような野性味あふれる顔つき。

 

山女魚 リリース スプーン

 

まだまだ大きく、老獪になってくれるよう願ってリリースした。

 

パラゴン セルテート 本流

 

しかし、つくづく良いフィールドだ。この時期、メインベイトの稚鮎はまだまだ下流だったのだろう。でも、この風景を眺められただけでも良かった。この中に、大きなトラウトがステイしていると思うだけでたまらなくなる。

 

トラウト アングラー

 

帰りながら、下流のポイントをサーチしていくが、この後反応は得られなかった。

 

トラウト アングラー 本流

 

下流の光景はブラッド・ピットのリバー ランズ スルー イットの光景をほうふつとさせる美しく雄大な流れ。きっとこれから、足繁く通うことになるだろう。

 

本流 水のない景色

 

なぜ大きいトラウトに惹かれるか、考えてみた。

 

おそらく一番は、あの目だ。あの金色の環。

産まれてから、数々の生き物をその口に入れ、時には自分が食われそうになることもあっただろう。

そんな体験の一つ一つがあの金色の一筋一筋に刻まれているに違いない。

 

孤高で、気むずかしく、迫力に満ち、そしてなにより圧倒されるように美しいあの目。

生存競争を重ねながらも、ローヤルであり続けるということ。

 

きっと自分はそんな紳士のような高貴さを持つことはなかなか出来ないだろうが、せめてトラウトからその澄んだ目をもらいたい。

 

アングロ フィルソン パラゴン セルテート

 

きっとこの先、きれいな目と心で生きていくための糧が欲しいのだ。

 

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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