釣りとアート

 

最近、NHKを見ていたら興味深い番組があった。
自分は全く知らなかったのだが、世界的に著名なアメリカの進化生物学者、ジャレド・ダイアモンド博士という人がアートとは何か、ということを若い大学生に語っているものだった。

彼によるとアートであるための条件は、3つあるらしい。

1 通常アートは生きていく(生存していく)ために必要なものではない。
2 アートは感情を刺激する。アートは美的欲求を満たす。
3 アートは生まれてから習得するものであり、偶然ではなく、遺伝子にプログラムされていないものがアートである。

開高さんを始め、よく釣りは芸術と例えられるが、本当にそうなのか。芸術として成立しているのか。

2つめなんかトラウトフィッシングにはまさしくぴったりだ。

3つめもキャスティングやランディングの動作なんか遺伝子にプログラムされてるわけじゃないし、何となくあてはまりそうな気がする。

問題は1つめかな。これはおそらく衣食住みたいなことを言っているのだろう。だけど、今の日本に趣味で釣りしていて、釣った魚を食べないと生きていけない人なんかいるのだろうか。うーん。

どうもアルコールとニコチンでふやけている自分の頭脳では答えが出なかった。果たして釣りはアートたりえるのか。

・・・・・・・・・・・・

話しは変わって最近、刺激的な人たちとの出会いがあった。

「自分が何をしたいか、何が出来るか。」

彼らはきっとここまでこのことを突き詰めてきたのだろう。物事というものは、自分にフォーカスしていると見えない壁があり、なかなかそこから先に進めない。少しずつ少しずつ成長して「何」にフォーカスし出すと不思議と全てが開けてくる。

己に囚われていると見えてこないものがいかに多いことか。
そんなことを目線の1つ、言葉選びの1つからはっきりと感じさせてくれる男たちだった。

アングロ カスケット ミッチェル

長年意識し、憧れ続けてきたアングラーの家には、コンビニのお菓子1つで押しかけて、コーヒー片手に3時間話し込んだ。

須澤 康一

日本のトラウトシーンのど真ん中にいるアングラーとはお互い電話口で酒を呑み(過ぎ)ながら大声で2時間語り合った。自分はほぼツマミなしでワインをボトル1本開けてしまって、翌日は見事に2日酔いで苦しんだ。

話題はもちろんどちらもトラウトのルアーフィッシング。

彼らと話しているとやはり強く感じる。
大事なのは「自分」ではないのだ。彼らの中にあるビジョン、目標、美意識。それら自体になるために何をするのか、何が出来るのか。自然体で己を消し去って、「何」そのものになろうとしてきたのが伝わってくる。大いなるものを感じ、行動し、表現を掴んだ人間との時間には感動がある。

彼らと接すると、今こそルアーフィッシングは立派なアートとして世間に認められるかもしれない。そんな気すらしてくる。

話しているとエンドレスに続きそうで、そろそろ終わらないといけない、という大人な、常識的な顔が内側から突っついてくる。自分自身に囚われていない、小さな怖れのない男たちと話すのは、それくらい純粋で楽しい。

宮崎 冬 氷点下

そんな一時を振り返りながら車を走らせる。車の気温計は氷点下4度を差している。この南国宮崎では厳寒といっていい寒さだ。

御池 ニジマス 60オーバー

実は、ちょうど1年前のこの日、自分はいつも行く湖で当面の目標だった60㎝オーバーのレインボーを釣った。

魚が釣れなくてもいい、自然の中で癒されるだけでいい。
そんな釣りというのはウソだろう。百歩譲って仮にそういったものがあるとしても、それはとても不健康だと思う。

キャッチ&リリースをしたところで、その唇にはフックの穴が開き、ヒレやウロコを多少なりとも傷つけてしまう。それでも我々は出会いたいのだ。だから四六時中釣りのことを考え、取り憑かれたように準備をし、待ち望んだフィールドに立つのだ。

御池 月 山

大事なのはどこに美学を持つか、どういう縛りで釣るかだと思う。それが釣りという祝福と呪縛の相反する2つを包含した遊びの本質ではないだろうか。

でも、この日だけはだいぶ例外だった。あの日あの時、自分に出会ってくれたレインボーとの時間を振り返りたい。それが一番で、ほとんど全てだった。もちろんあわよくば2年連続で記録魚を、なんて色気がなかったとは言わないが、色んなことがある中での運命的と言ってもいい出会いだったから、1年前のノスタルジーをゆっくり噛みしめながら釣りをするだけでよかった。・・・はずだった。

御池 湖面

1年前の余韻を心漂わせつつも、しばらく釣りに行けなかった分、準備をする手は裏腹にいつも以上に素早く、正確で、周到で、少しだけ自分に嫌気がさす。「こんな時くらいは・・・。」と思うのだけど、どうにも止められない。

サトウオリジナル アンサースプーン

サトウオリジナルのアンサー11gは、ヒットカラーであるGKYの色違いやお気に入りの黒赤のツートンを送ってもらった。いっちょローテーションで釣って結果を出してやろう。

スイベル スプーン

スプーンのローリングアクションを増加させると考えているスイベルは近所の釣具屋で高回転のものを買って、全部付け替えた。これできっと、よりなまめかしいローリングでレインボーを誘ってくれるだろう。

スプーン フック

フックもサイズ別に大量に購入して、少しでもフックポイントがなまったらすぐ交換してやろう。万が一70オーバーでも掛かって、フックのせいでバレたら目もあてられないじゃないか。

ちなみに最近フックはヴァンフックのスプーンエキスパートフック(ヘビー) マイクロバーブの#2を愛用している。これは、上の写真のアングラーが某雑誌に書いていらっしゃった「フックを軽くすることでスプーンの動きを良くする。」というのを実践してみた結果だ。

以前はオーナーのサルモ14号をタイイングしたものばかり使っていたのだが、今ははっきり言ってヴァンフックの方が気に入っている。何よりフックポイントの鋭さはちょっと体験したことがないくらいすごい。きっと軽く触っただけで何の感触もなく貫通してしまうだろう。

・・・つくづく、我ながら、これぞまさしく祝福と呪縛である。

御池 ニジマス アンサースプーン

サトウオリジナル アンサースプーン

そして、果たして、出会いはすぐに訪れた。

新しく使ったシルバーベースのB5カラーで40㎝に満たないかわいいレインボー。申し訳ない気持ちで記念撮影に付き合ってもらい、リリース。

かなりの強風の中での釣りだったから、今一つよく分からなかったが、高回転のローリングスイベルは今までのものより「スルスル」というスムースな感覚が確かに強くなる。若干抵抗が弱まって、5速の感覚を捉えるのに苦労する反面、水中での動きはアンサー特有のシルエットが細く見えるくらいスムーズなウォブリングはそのままに、「ニュルニュル」とくねるようなローリングアクションが増加している。これはいいアイデアだったかもしれない。もうしばらく試してみようと思う。

それからあの日あの時釣ったポイントに移動し、思い出に浸りながらキャストするが反応はない。近くに別のアングラーが見える。移動してしばらく話し込んだ。

「じゃあ、頑張りましょう。」

お互いそう告げて彼の元を離れ、釣りを再開するとまもなく、「ゴトゴト」という感触がパラゴンを通じて伝わってくる。ボトムをこすっているのか?いや、違う。前アタリ?

そう思った瞬間、「ズンッ」という手応え。ジャンプしようとする構えをロッドでねじ込むように押さえ込んで、ファイト。ドラグが「ジィッ!」と少しだけ泣く。慎重にリールを巻き、ネットイン。この湖にしては珍しい、スリムな体型の40ちょいのレインボー。

ニジマス サトウオリジナル アンサースプーン

サトウオリジナル アンサースプーン

ラバーネットを高く掲げ、さっきのアングラーに「釣れましたよー!」と告げると、あわてて駆け寄ってきて、「すごい!すごい!」と言ってくれる。自分としては満足できるサイズではないのだけど、これだけ言ってもらえると、まんざらでもない気分になってしまう。

御池 ニジマス スプーン トラウト

おそらく5度に満たない気温と吹きすさぶ強風の中、手袋を外して湖水で手のひらを冷やし、彼に写真と動画を撮ってもらいリリースした。この日はこれでもう充分だった。大きくはなかったが、とりあえずの呪縛は解けた。

御池

自分がやりたいこと、出来ることは何なのか、漠然とは分かっている。

美しい釣りを体得し、次の世代に繋ぎたいのだ。

もっと言うと、あの2人のエキスパートみたいに、美しく、格好いい、骨のあるエキスパートアングラーがいるのに、今のルアーフィッシングを取り巻く状況は逆の方向に向かっているような気がする。

これだけタックル類が発展した今、単純に釣ろうと思えば、「投げて巻くだけ」でも釣れる方法は山ほどある。

それなのに、まだこれ以上初心者の方々に迎合する必要があるのか。

御池 鴨

もし釣りがアートたりえるならば、そこには必ず忍耐と感性がなければならない。多くの失敗や試行錯誤がなければならない。なぜなら、それを乗り越えてこそ祝福が感じられるのだから。そのハードルをどんどん下げてしまって、あっけなく釣らせて「何だこんなもんか。」と思わせて、すぐ飽きられてしまうことが長い目で見たら逆に自分たちの首を絞めていく結果になるとは思わないのだろうか。

釣りは漁ではない。我々はそれを職業として、生活の糧として行う漁師の方々とは違う。だから、我々が使うルアーが漁具であってはとてもつまらない。

エキスパートの方々には見上げるような高みを見せて欲しい。美しい釣りを魅せて欲しい。メーカーの方々には単純に釣るためではなく、見えないものを感じ取るための、長く付き合える美しいタックルを作って欲しいと思う。

「いつかあの人みたいになりたい。」と後輩たちが遠くを見上げるような釣りを創ってもらいたいと切に願う。

自分だってまだまだ諦めてなんかいない。まだまだ感じて、磨いて、上手くなって自分なりに伝えていこうと思う。

アングロ キャップ

ルアーフィッシングがアートと呼べるような高みにたどり着けるかどうか、それは明確な答えが今はっきりとあるわけではないのかもしれない。

ただ、感じられる人はきっと感じている。それを形づくり、伝えるのはルアー釣りを愛する我々にしか出来ないことだ。

 

松本 宏人

松本 宏人

投稿者プロフィール

生まれ:1970年
メインターゲット:トラウト
メインフィールド:湖
-メッセージ-
幼少の頃から様々なルアーフィッシングに親しむ。
物をなくすのは、単にだらしないだけではないかとの噂も。
宮崎市在住。

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