リハビリと本流釣師(長野県:鹿島槍ガーデン・犀川)

もう、1か月以上竿を振っていない。これまでならなんだかんだ言いながらも近所の川で2時間とか竿を振って溢れ出すものを堰き止めていたのに、それすらままならない日々は例えたなら時間が増水濁流コーヒー色で流れ去っていく水の様だといったところか。

こんなことができたのはゴールデンウイークに釣行の希望を持てていたからだ、そうでもなければ未知なものに押さえつけられ浮上できないままの感情をどう処理したものか途方に暮れただろう。

このサイトに記事を書いてもらったにも関わらず、まだ会えていなかったハットリ氏と一緒に釣行する約束も取り付けてある。不義理で申し訳ないと思いつつも知らない川で共に竿を振れる、話せるということが何より愉しみで仕方なかった。

しかし、先に話しているように竿すら振れていない自分への危機感も漂う。まともな釣ができるのか?どこかで少しでも感覚を取り戻しておきたい、・・・長野・・・そうだ、鹿島槍ガーデンに行ってみよう。村田基さんが番組でいい魚を釣っていたことで行きたい場所のひとつだったし、久しぶりの釣として管理釣り場の方がきっとリハビリになるはずだ。どうせなら初めてで記憶に残りそうな場所がいい。

釣行の前日に長野入り、まずはゆっくりと過ごす。

池波正太郎真田太平記館へ行き、文豪の知らなかった側面に親しんだ後は地元の方にお勧めされたあんかけ焼きそば。独特な麺にあんの絡まりつくほどよい塩気と歯に心地よい食感の応酬はこれまで味わったことのない美味。古いと表現するより味があって安心感を覚えるであろう路地達を形作る飲み屋、食事処、喫茶店を眺めて夜になり、太平記念館で購入した本に日本酒「千曲錦」揺れる煙はPeaceである。これが休みでなくてなんだといわんばかりに釣以外の雑念を発散することに耽った。

どうせ独りのリハビリと、ゆっくりついでに高速へ入り遠景に見えるまだ白い山々とまだ冬の気配が残る緑のバランスに見惚れる。いいところだなぁ、これで手応えを感じられたならどんなに安らぐことかと気分も上がってくる。

到着すると既にそこそこの釣人で賑わっている。受付のお姉さん(と表現しよう)は親切にはじめてだという私にどこが釣りやすいか、今日のこれまでの釣果、放流した時間を説明してくれて、パンフレットを渡してくれた。

いよいよ、か。

釣場への入り口を出ると目下には養殖の生簀が並ぶ、大きい。そして綺麗な背中が覗く。やっぱりTVで見てイメージを膨らませた通りの魚影が揺れていて、しばらく離れていた自分にはそれが眩しくってならない。

たらしを適度に、少しの緊張と一緒に鉄片を投げてみる。うん、体はある程度覚えていてくれているようだ。数回アクションと泳層を確認したら何の問題もなくなった。竿先や糸の振動から伝わってくる泳ぎの感覚が嬉しい。これまた硬質なバイトに反射で合わせたら、久しぶりの抵抗にまたほころぶ。鋭さはないが重く、なかなかしつこく水中へ戻っていく。魚体が光と水に揉まれて金や黄色やちりばめられた黒点を見せてくれる。やや強引に、ファイトしながら水をかけておいた草へ横たえさせる。

ありがとう、相手してくれて。すぐ撮って帰すから。
いい顔してるねー、ちょっと待ってて・・・。

あとはもう夢の中。
時間いっぱいまで、3つある池をまわりながらスプーンとフライを投げ込んでしまった。

満足、出来過ぎのリハビリ。帰りに見たあまりにも美しい景色、山々を夕日が横からわずかに照らしてできた陰影のコントラストに感嘆し、片手で必死こいてカメラのシャッターを切った。が、帰宅して確認した画像はすべて真っ黒。レンズカバーが付いたままで努力を重ねた自分の阿呆さに肩を落とす。また来いという意味として心に刻んでおこう。本番は明日だ、備えてもう寝ないと。

2時間ほど仮眠をとれば準備の時間がやってくる。誘いをかけておいたおなじみ関根氏の車に同乗して私は助手席で体力回復を狙っていた・・・のだが、待ち人は来ない。これは、もしかして。

電話越しの声は「おはようございます」やっぱり!寝坊だ!
初対面のハットリ氏との待ち合わせに二人して遅れるわけにはいかない。「わかりましたー、先に行ってますね」と応答したものの心中穏やかにしてはいられない。さっさと車に積み込んでナビをセット、駆け出す。

運よく待ち合わせ時間の5分前に到着した。嗚呼、よかった。

はじめましての挨拶を済ませて最初のポイントへ、後から来る関根氏はとりあえず連絡来てから合流だ。いやしかし流石のエキスパート、場所の選択はもとより魚の付くストラクチャーと位置、流し方まで簡潔に狂いなく説明してくれる。その上であくまで自分の釣り方であると強要しない。真摯な姿勢と大人の余裕、それにやり通し、通い詰めて来た実直さと自負が見え隠れする。これぞ本流の大物師といった印象だ。

そして投げ込まず後ろからガッツリ見守ってくれる。
これ、めっちゃ緊張しますぜダンナ。リハビリしててよかった・・・。

緊張もさることながら、はじめて訪れる犀川、豊かな自然林だろう色使いも美しい。こんなところがあったんだと思わずにいられない異国の鱒釣場のよう。朝靄、飛び交う虫(まだ少ないらしいが)豊満な自然に抱かれるようで、眼前の光景だけで心躍らせつつ安堵感まで与えてくれる。

遅れてきた関根氏を交え、3人で流し込んでいく。実を言えば本流での釣りを実践したことはほとんどない。とは言え渓流でやってきたサイズ感を変えることで対応はできなくない。ロングキャストは海や湖で、スプーンの流し込みは渓流で、それぞれに自然と体で覚えたことを組み合わせて構築していく。もちろん、頭でわかっていることと実際にやれることは別だが、目線を変えれば2人のエキスパートの動きが見れる。質問も可能だ、恵まれた条件なら飲み込むことも容易になる。つくづくありがたい。

雰囲気はよいが、私が最初のポイントでかけ切らなかった1バイトのみ。時間の経過と共にポイントを変えながら流し続ける。

個人的なハイライトはハットリ氏が私と関根氏がさんざん流した後、ここはいるはずだと同じポイントでキャッチした一尾にあった。これほどはっきりした違いはない、わかっていて、そこに到達させ、口を使わせる。その後のやりとりも丁寧だ、大物用のタックルだからそのまま抜けるサイズの相手にも関わらず、魚をコントロールしている。ファイト=戦いであるのだが、ある種の優しさが漂うように感じられた。これができるから大物をその手にしてきたのだろう。

いよいよやばい、先に投げさせてくれて、まだ我々はキャッチできていない。チリチリ炙られてくる、応えなければ・・・。そう思えば思うほどキャストミスが増えてきてこれまた困るのだが。

その時が来た、教えてもらったように対岸ブッシュに落として虫をイメージしつつ流し込む、スプーンのサイズも落とした。どう考えても軽い手応えだが、ばらしてはならぬ。竿先を水中に、絶対ジャンプさせない。へたな大物よりずっと胸が苦しくなるほど余裕がない。誤魔化し誤魔化して寄せ、ハットリ氏のネットで掬ってもらう。

可愛いが太くて体高のあるニジマス、犀川での初キャッチ。「ありがとうございます!」と固く握手を交わす。自然繁殖ものとか、大きさとか、そんなことがすべて吹っ飛んでしまう喜びと安堵でいっぱいになった。

リリース、1本火を入れる。隅々に煙と感情が行き届いて吐き出す。出たものは川と山に消えていく。

さて、これで関根氏にプレッシャーをかけられる。意地悪だが釣人なんてそんなもの、気心知れていれば尚更だ。

私からの野次もさることながら関根氏も大いに感じていたのだろう、普段になく真剣に流し込んでいく背中が雄弁に語りかけてくる。

またポイントを変え、少し離れてお互い釣ってみる。と歓声が、慌てて駆け付けると反応した魚はすでに針から逃れていったようだ。とは言えそれも流し方やスプーンの予測位置から見越していたようで、やっぱり関根氏も本流時代から積み重ねている技量と感覚はエキスパートなのだ。

さて、私はあいも変わらず実績を説明してもらった通りに次は流し込むのではなくリーリングで泳がせて誘いを繰り返す。水押しも強いし、細身でよく動いてくれるものに交換。流れの境目にさしかかると昨日鹿島槍ガーデンで感じたような硬質でガッ!というバイトに合わせる。

今回は少し余裕がある、それでもジャンプさせないように、いなしながらまた掬ってもらう。

少しサイズアップのブラウン。もう言うこともない。只々感謝。

最後のポイントへ、この背中には話しかけられません。

結果はでなかったが、今日は曲げない関根氏の釣を見られてよかった。私は素直に結果が出るやり方を踏襲したに過ぎず、このどちらもやり切ったいい釣であったように思う。

別れの挨拶はいつも後ろ髪引かれ、再会を約束して握手を交わす。
少し早めに切り上げたのだが、ハットリ氏はこの後また違うポイントへいくようだ。ようやくガイドから解放され、自分の釣ができるといったところだろう。またその実直な姿勢に感嘆してそれぞれに道を進む。

白が残る山々をはじめとした流れ溢れる自然を感じに、そして彼に会いに、また必ず。

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ハットリ氏の記事はこちらから

犀川とスプーン

藤井政幸

藤井政幸TailSwing運営代表

投稿者プロフィール

渓流~海までどこでもスプーンを投げる。
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